第2話 災いは突然に

 接客室に案内してくれたメイドさんの名前はレル・クラスタ。 どうやら男の男爵令嬢らしい。 給仕だけではなく、戦闘までこなせるハイスペックメイドであり、国王陛下直々の命によって王女の侍従になったとのこと。


「勇者様、こちらハーブティーになります」

「あぁ、ありがとう。 ……美味しいね」

「ありがとうございます」


 僅かに声音が弾んだ気がした。

 レルさんにこの世界について色々聞いてみた。

 エイン王女の話にあった魔王が敵のボス的存在。 その配下が魔族で人間と変わらない姿をしているが眼が赤いのが特徴だとのこと。 また、この赤い眼は魔眼といわれ魔晶板と同じ力を持っており情報が筒抜けになるそうだ。

 他には魔物と普通の動物が存在し、魔物は動物が周囲の魔力に影響を受けて突然変異したものと言われているが詳しいことは分かっていない。

 他には爵位や通貨について説明を受けた。

 色々話を聞いていると、コンコンとドアがノックされる。


「失礼致します。 国王陛下の準備が整いましたので謁見の間に来ていただけますでしょうか」


 別のメイドさんが声掛けに来た。 レルさんの案内で謁見の間へと移動する。 その途中で……。

 ゾワッ……突如、全身の総毛立つ。

 直後、バリイィィ……ン。 何かが砕け散る音が響き、けたたましい警報が国中に鳴り響く。


「何だ、今のは……」

「そんな……ありえない。 これは戦時警報……。 まさか、魔族が……?」


 レルさん曰く、国を覆う結界が何者かによって破られた可能性があるとのこと。 警報は襲撃者に対して迎撃態勢を取れという命令のようだ。


「取り乱してしまって申し訳ありません、勇者様。 お手数ですが陛下の元まで一緒に来ていただけますか」

「あ、あぁ……もちろんですよ、行きましょう」


 ……警報や阿鼻叫喚の様々な音が……気配が多過ぎる。 周囲の状況が掴めない。


「……陛下っ! エイン様っ! 今、お助け致します! その眼、やはり魔族か。 そこから離れろ……!」


 無意識だったろう……騎士団長との手合わせの時以上に集中し周囲の状況が明確になる。

 今、横にいたはずのレルさんが叫び、魔族と思われる邪悪な気配に飛び掛かるのが分かった。 また、魔族の足下にはエイン王女の気配ともう一つの気配が横たわっている。

 何かが横を通り過ぎ、壁に叩きつけられる音が響いた。

 レルさんが魔族の攻撃を受け飛んできた。

 再度、魔族が足下のエイン王女に腕を振り下ろす。 

 夏樹は滑るように飛び込み、途中倒れていた騎士の側にあった剣を拾い上げ、エイン王女の前に割り込む。

 キイィ…ン。 振り下ろされた腕を剣で流し、そのまま袈裟斬りにしようと剣を振り下ろすが紙一重で避けられ距離を取られた。


「貴様……勇者か。 ふふふ……レベル1、軟弱だな」


 魔族の言葉を無視して足下の気配を探る。 王女は虫の息だが生きている。 もう一つの気配は……手遅れのようだ。


「やはり、召喚直後を狙って正解だったな。 こうも脆いとは」


 冷静に考えれば当然だった。 自分達(魔族側)にとって脅威となる勇者が育ちきるまで待つ必要なんてない。 召喚直後、つまり最も弱い時に殺してしまうのが効率的。 序盤は安全……なんてご都合主義は通らない。


「さぁ……いくぞ小僧。 何秒保つ……?」


 魔族から壮絶な殺気を感じて足がすくむ。

 騎士団長よりも遥かに速く距離を詰められ連撃を繰り返され受け流し続ける。


「ふむ……貴様、妙だな。 まさか、目が見えぬのか? く、くはははははは!! 盲目の勇者だと!? とんだハズレを引いたものだな、人間は」


 魔族の嘲笑が響く。


「しかし……見えぬ割にはよく耐える。 ステータスは低いが技能が高いのか。 面白いが……長くは続かないだろう?」


 ーーードクンッ


 「……!?」


 突然、身体が大きくふらつき……鮮血が舞う。

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