遥かなる邪馬台国を目指して
以前は魏志倭人伝の記述順通り、
「使者御一行様は唐津湾末廬国に上陸した後、伊都国、奴国、不弥国と進み、それから投馬国や邪馬台国へと向かった」
と言われていました。
ですが今日では、
「唐津湾末廬国に上陸後、重要拠点たる伊都国に到着。その後ダイレクトに卑弥呼邪馬台国へと向かったに違いない」
という説が有力のようです。
奴国、不弥国、投馬国に関しては、
「拠点伊都国からどちらの方角にどれだけ進めば、そういった国々がある……という紹介に過ぎない」
という解釈です。
その証拠に魏志倭人伝は、経由した各地について、僅かながらも字数を割きつつ習俗を簡潔に記しています。
ですが奴国、不弥国、投馬国に関しては、それぞれの長官副官名と都市規模を記すのみです。つまり使者御一行様は、それらの国々には行っていないとも推測出来るのです。
では、肝心の卑弥呼邪馬台国に関してはどうでしょうか。
一部に、
「魏朝の使者、つまり建中校尉の
という珍説を唱える人々がいます。
「だからこそ邪馬台国への行程に、どちらの方角へ陸行1ヶ月なのかが書かれていないのだ。使者梯儁が直接行っていないからこそ、方角が不明なのだ」
と。……
ですがこれは完全に間違っています。
そもそも魏朝の使者御一行様は、帯方太守
魏志倭人伝の記述を読めば、まあ確かに尊大な中華思想にまみれてはいますが、魏朝が卑弥呼邪馬台国を文化的大国とみなし、実質対等外交を行っていると解ります。魏帝は帯方太守を通して使者
それを梯儁が、
「わざわざアタシが邪馬台国まで行くのは面倒臭えアルよ。伊都国止まりでいいね。あとは下っ端連中に、邪馬台国まで行かせりゃぁ済むアル」
と勝手に判断する事など、絶対にあり得ないのです。断じて許されない事なのです。梯儁自身が魏帝の公式な代理として、ちゃんと外交相手たる卑弥呼に直接拝謁し(そこまで実現したかどうかは不明ですが)、全ての品々を確実に届けなければならないのです。そして、卑弥呼からの返書や返礼品等を預かって復命しなければならないのです。
使者梯儁がそれをしっかり果たしたからこそ、卑弥呼邪馬台国の様子について、詳しくリポート出来たのだと考えられます。かつ、帰国後魏帝に拝謁し、公式の報告を行ったことでしょう。
彼が邪馬台国を直接その目で見たからこそ……の微に入り細に入った描写が目に付きます。例えば、
「人々は礼節を知り、婦人は淫せず、妬忌せず。盗窃せず、諍訟少なし。法に厳格。……しかし皆、裸足アルね(笑)」
といった具合。大陸の常識と大きく異る
「なるほど、そんなところに興味を持ったか……」
と感じさせられる記述があります。
使者御一行様は、おそらく千人超の大所帯、大行列でした。
何故ならば、ひとつは大国魏朝の威厳を倭人に示すという意味もあります。が、もっと現実的な事情もあります。
なにしろ当時は、大きなスーパーがどこにでもある……わけではありません。いつでもどこでも都合よく、物資を現地調達出来る時代ではないのです。ですから食料等の多くは自前で運んできたと考えられます。
また立派な宿泊施設がどこにでもある……わけではありません。ほぼ全て、野営でしょう。
ですから梯儁をはじめとする幾人かの高官のために、組立式のテントのような物を持ち込んだと想像します。
しかし今日のように、コンパクトで扱い易い物が、存在するわけではありません。デカい幔幕に、太い支柱……。それらだけでも、大変な大荷物だったと思われます。
当時の倭国には牛、馬が居なかったと書かれています。ということは、船旅はともかく陸路は全て、大荷物を人力で運んだのでしょう。
また複数の高官も、人力の輿のような乗り物を使用したのではないでしょうか。
ですから、大荷物や輿を運搬できるだけの人夫を従えていたと考えられます。人夫が増えれば荷物も増えますから、その分さらに人夫が増えます。そうして運搬量との兼ね合いで最適な随行人数を……と考えると、千人は下らないと想像します。
というわけで、伊都国に到着した建中校尉梯儁以下御一行様は、改めて大量の積荷を船に載せ、海路南へ卑弥呼邪馬台国を目指しました。
前節にて述べたように、伊都国が佐賀平野であれば南側は海、即ち有明海に面しています。魏志倭人伝記述とも辻褄が合います。
で、目指した先は、一体どこだったのでしょうか。
有明海佐賀平野から南へ船で10日と、さらに方角不明ながら陸行1ヶ月。――
何故、方角が明記されていないのでしょうか。
帯方郡から卑弥呼邪馬台国まで、総距離万二千余里。しかし残距離は計算上、千数百里しかありません。
ですが伊都国は、卑弥呼が遠国統治の
この矛盾を、如何にして説明すべきでしょうか。
次章、それを鮮やかに(笑)解説します。
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