第12話 悩む黒髪【黒神睦希】
チュンチュン……
「んん……なんだぁ、なんか重たいような……」
俺は体に違和感を覚えながら目を覚ます。その違和感の正体を確かめる為、布団をめくると……
「すぅ……すぅ……」
「…………」
可愛いらしい寝息を立てる睦希がそこにはいた、俺の胸を枕替わり……いや抱き枕替わりにして寝ている。
(こうやってると、あの頃の睦希なんだけどな)
俺はそんな、感想を抱きつつ時計を見る。
時刻は午前5時18分
(女性陣と過ごすようになって、益々早起きなんだが……)
翔馬は気づいていないが、彼は無意識の内に防衛本能が働いているのである。度重なる襲撃により本能が早く起きろと覚醒を促すのだ。
「はぁ……眠れない」
この状態で二度寝など出来るわけはなく、俺はそのまま小一時間ほど抱き枕の役割を全うした。
◆
「ふぁ〜……んにゃ、翔馬〜おはよ〜」
「あはよ、睦希。ヨダレ垂れてるぞ」
「ふいて〜」
寝ぼけているのか、普段とはエラい違いを見せてくる。そこも含めてお世話するのが今週のパートナーとしての役割か……
「ほら、顔こっち向けろ」
「うみゅ〜」
なんとも水生生物みたいな声をだしながら、顔をくしゃくしゃにしてこっちを見てくる。
「はい終わり、顔洗ってこい。朝ごはん食べるぞ」
俺はゴミ箱に睦希のヨダレで濡れたティッシュを捨て、部屋を出ようとした所で後ろから暖かい温もりを感じた。
「……どうした、睦希」
「……学校……行きたくない」
「…………」
泣きそうな睦希の声……彼女は部活を休んでいる。きっとその事が原因なんのかもしれない。
(どうすっかなぁ……ソフィアの時とは少し違う気もするが……)
俺は迷いに迷った挙句、睦希を無理に学校に行かせる必要は無いと判断した。
「じゃあ、サボるか!」
「……えっ?」
俺は睦希の不安を取り除く決意をする。
「いや……今のは冗談で……」
慌てて睦希は俺から離れようとする、しかし俺は知っている……俺を掴む睦希の腕が震えていた事に。だから今度は俺が睦希を掴む番だ。
「冗談の顔には見えないぞ……」
俺は振り向き、睦希の肩にそっと手を置く。その瞬間、彼女の震えが少しだけ和らいだ気がした。
「ダメ……なのに……」
「なにがダメなんだ?」
優しく尋ねる。
「もうすぐ……大事な文化祭なのに」
「うん……」
俯いてる睦希の頬に触れる。
「私が……しっかりしなきゃ……なのに」
「お前はいつもしっかりしてるよ」
俺の手に……暖かな雫が伝う
「翔馬を助けなきゃ……いけないのに」
「十分助けて貰ったさ」
俺の胸に暖かい黒髪揺れて……震えている。
だから……
「今度は俺が助ける番だ!」
「…………うん」
俺は今度こそ返せるのだろうか……暗闇に沈みそうになっていた俺の心を救ってくれた、あの優しさに……黒くてしっかりとした絆に……報いることは出来るだろうか
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