第8話 覚める悪夢と実りの果実【如月ソフィア】

 ◆

「お前には失望したよ、自分で勧誘しておいて、結局自分が1番じゃなきゃダメなんだな」


(待って……ワタシはそんなんじゃ)


「さっき言ってたじゃねぇか、他の女が俺とくっついてるのを見るとムカムカするんだろう?それで俺に八つ当たりしたんだろうが?」


(違う……ワタシは……)


「じゃあな……」


 彼はワタシに背を向けて暗い暗い闇の中へと歩いていった……


 ◆


「ッ!ショーマぁぁ」

 …………

「どうした?ここにいるぞ……」


 ワタシはベッドの上で天井に向かって手を伸ばしていた。そしてその手をひんやりとしたショーマの手が包み込む。


(はぁ……はぁ……夢……)


「怖い夢でも見たのか?」

「……はぁ……はぁ」


 呼吸を整えるのに苦労しているとショーマが冷たいお水を差し出してくれた。


「……ほら」


 差し出された水をベッドから上半身だけ起こし、ゴクゴクと飲み干す。


「落ち着いたか?」

「……うん」


 深みのある彼の声……普段、ワタシ達の会話にツッコんでばかりの印象とは全然違う。2人きりのときのショーマはいつもの100倍カッコよく見える。


 しかし……さっきの悪夢が現実になるんじゃないかと思って、またブルりと震えてしまう。


「してほしい事はあるか?」


 リビングでの一件の後、ショーマはワタシに寄り添って一緒に居てくれた。今はワタシの部屋で椅子に座り隣で心配そうな顔をしている。幸い今日は休日なのでずっと傍にいてくれる。


「……手を握ってほしい」

「……わかった」


 彼はワタシのおでこに冷たいシートを貼り直して、氷枕の氷を取り替えたあと、熱くなったワタシの手をそっと握る。


「……冷たくて気持ちいい」

「まだ、少し熱があるんだろう……傍にいてやるからゆっくり休め」

「……うん」


 力なく答えたワタシに微笑む彼。


「……ソフィ」

「……な〜に?」


 ワタシが夢の世界に旅立つ前に、小声で話しかけてくる。頭がボーっとして曖昧な返事をする。


「元気になったら……またデートに行こう」

「……うん、約束」


 その言葉を最後にワタシは夢の中……幸せな夢の中へと沈んでいく。



 ◆


 どれくらい寝ていただろうか……ワタシは軽くなった瞼をゆっくりとあける。


「……ぐぅ……ぐぅ……」

「……」


 声の方を見るとワタシの手を握ったまま眠るショーマの姿がそこにはあった。


(……ずっと看病してくれていたの?)


 ワタシはその事が嬉しくて、ショーマの頭を優しく撫でる。


「……ん……ソフィッ…………はっ」

「おはよう、ショーマ。ワタシはここにいるよ」


 彼は慌てた様子でワタシの名前を呼び、一瞬夢か現実かわからないままじっと見つめてくる。


「……夢……か……」

「どんな夢を見てたの?」

「……その、なんつうか……俺の優柔不断ぶりにソフィが愛想を尽かして、出ていっちまうっつう夢をだな……」


 ショーマの言葉にワタシはほんの少しだけ嬉しくなった。同じような夢を見た事に、そしてそれに対して悲しんでくれた事に。


「大丈夫だよショーマ……ワタシはここにいるから」

「……お、おう……その、安心したよ」


 ショーマがしてくれたようにワタシもそっと彼の手を握る。


「今、何時だ?」

「えっと……日曜日の朝方かな?」

「げっ!風呂もメシも食ってねぇぞ?」

「あははははッホントだね!」


 ショーマは自分の体を鼻で嗅ぎ始める、それがおかしくてワタシも笑ってしまった。


「体調はどうだ?」

「うん、スッキリしてる」

「念の為、熱計るか……」


 彼はそう言って体温計を取り出そうと立ち上がるが、ワタシはその手を強引に引っ張り、ショーマをベッドに引きずり込む。


「……もしもし、ソフィアさん?」

「な〜に?ショーマさん」

「どうして俺をベッドの中に?」

「なんとなく」

「さいですか……」


 ワタシは片時もショーマと離れたくなくて、彼の温もりを感じていたかった。そしておもむろに、彼の手をワタシの服の中に入れる。


「ッ!!ソフィアさん!?」


 ワタシの2つの果実が実る服の中へと……


「……熱ある?」


 今までショーマから触られた事がなかったその2つの果実が、今この瞬間実りを迎えたように熱くなっている。


「ッあん……」

「変な声だすなよ」

「だって……気持ち……いい」

「まだ……熱……ある……な」


 彼は諦めたように、ワタシの果実を優しく収穫してくれた。その事実がたまらなく嬉しくて、少しだけ前に進めた気がした。


(弥生さんありがとうございます。ワタシ達は肉食系女子ですもんね)


「ショーマ……大好きだよ。もう……離さない。覚悟してよね!」

「……お手柔らかに頼む」


 それと……


「……俺も離さない」



 結局、睦希達が起こしにくるまで、ワタシはショーマの手の温もりを肌で感じ続けた。




 ワタシはやっと、自分に正直に生きよと思えた……そんな晴れやかな心の日曜日!




ーーーーー

【あとがき】

感想お待ちしております。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る