第02話「追放」

 大迷宮探索ギルドに所属している冒険者ならば、戦利品の整理は簡単だ。


 ギルドが戦利品を鑑定し、ものによっては正規の金額で引き取ってくれたり、オークションに掛けてくれたりする。

 それ以外のものは、周囲の流れ商人たちが我先に手を伸ばし、交渉役となった俺に様々な金額を提示した。ある程度の基準はギルドの方で一覧表にしていてくれるため、特に交渉は難しいわけではない。

 やっと不用品を全部売りさばいたあと、大量の金貨銀貨をパーティの仲間が酒を飲んでいるテーブルに置く。

 そのずっしりとした重さと音に、さすがのアルシンもニヤリと笑った。


 金貨を四等分にして、アルシン、シアン、ムッシモールの手に渡す。残りの一袋は俺の分だ。銀貨についてはイソニアの分も入れて五等分。それがこのパーティーの獲物の分け方だった。

 しかしアルシンは俺の金貨袋をひょいと取り上げると、立ち上がる。

 何がなんだかわからずに、俺はアルシンの顔を見上げた。


「ってなわけで【運び屋】、お前はクビだ」


「なっ……なんでだ?」


「荷物運びはポーターでも雇えば、お前の取り分で百人だって雇えんだよ! ハズれギフトの二つ名詐欺が!」


「いや、しかし第五層だぞ! 戦闘のできないポーターじゃ……」


「何言ってやがる。戦わずに隠れてれば無傷で五層を探索できるって、お前が証明してるじゃねぇか」


 俺は言葉に詰まる。俺だって出来ることなら戦闘に参加したいんだ、確かに戦闘は得意ではないので、戦闘中はじゃまにならないように下がっている。だけどそれはアルシンたちが連携を乱すからと決めたルールだった。

 言い返せない自分に腹が立つ。情けなくて涙すら出てしまいそうだ。

 黙って下を向く俺の横で、イソニアが立ち上がった。


「アルシン。第五層のパーティにギルドの許可無く低レベル冒険者を同行させることはできませんよ」


「わぁってるよ! だが俺のパーティに入りたいってやつはいくらでもいる。少なくともコイツより役に立つ奴らがゴマンとな」


「それでも、ベアさんに戦闘中は下がっていろと言ったのはアルシンです」


「……ちっ。戦闘もできねぇくせに、女に取り入ることばっかウメェよなぁ【運び屋】はよ! そういうとこだよ! 気に入らねぇ!」


「俺は別に取り入ってなんか……」


「うるせぇ黙れ! ベアさんベアさんってウゼェんだよ!」


 手に持った金貨の袋を俺に投げつける。とっさにそれを受け取った俺を、アルシンは冷たい目でめつけ、イソニアの肩を引き寄せた。


「そいつぁ手切れ金だ。二度と俺らの前に顔を出すんじゃねぇぞ、【運び屋】」


 シアンとムッシモールは面白そうに俺たちを見ている。言外にアルシンの方針に異議はないと言う意思表示をしてるのだろう。イソニアはアルシンの腕から逃れることもできず、不安げな瞳で俺を見ていた。

 第五層を探索できる有力なパーティと四層以下の探索しかできないパーティでは、収入の差は数十倍以上にもなる。そしてアルシンは、その人間性はともかく、不遜な言動に見合うだけの実力を持つリーダーではあった。


 俺は叩き返そうとした金貨の袋を抱え直し、黙って背を向け酒場を出る。

 【銀翼ぎんよく】のパーティをクビになったハズれギフトの噂は、あっと言う間に大迷宮探索ギルドに知れ渡った。

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