ある女主人の昔話
邪神ちゃん
あやかし横丁と彼女の小話
昔々、と言っても数十年前の話ではありますが、あやかし横丁という所がありました。
そこは横丁と言うにはあまりにも広すぎる、と子供心ながら思った記憶があります。
皆様、小学校の校庭にあった大きな木を覚えているでしょうか?
ない方も、ここは一先ず、ご想像して下さい、学校の校庭、もしくは隅っこに生えている大きな木。
その木の中でも1番大きな木が通りにまるで街路樹のように生えているんです、1本じゃなく、何本も!
いやいや、そんなのありえない、あったとしても、横丁という大きさでは無い、と思いでしょう、現に私もそう思います。
しかしまあ驚くことにそれが本当にあったのです、少なくとも覚えている限りそうであったと私は記憶しております。
ええ、私は行ったことがあります、しかし寂しい事に大人になってからはもうそこは無くなった、と言うより行けなくなってしまいまして、昔はお江戸があった時代には大人も子供も老人も入り交じって盛んに交流があったとか祖母から聞いたものですがいやはや、私めは現代にすっかり毒されたのか、心から信じる事ができませんし、それに誰ももう信じないものだからその場所がとっくに無くなってしまったかもしれません。
まあ言える事は、この場の殆どは失礼ではありますがその場所に行く事は出来ないでしょうしこれは単なる虚言、または作り話に妄想幻覚、どう思って頂いても構いません。
私は特段話す、という事が得意ではありませんがこの席では少々、目を瞑って下さるとありがたい限りでございます。
これは、そのあやかし横丁でのある子との思い出でございます。
私がその場所に私が初めて言ったのは確か小学校4年生の時です。
その頃私は学校から帰っては男児に混ざっては虫を取り、ズボンを履き裾をめくって川で小魚を素手で取って男児を率いては悪戯をして回ったとてもとても女児とは思えぬ悪ガキでございまして、とても自慢ではありませんが近所からは小森谷町のガキ大将、と呼ばれていましたし、頭をおカッパにするのがどうしても嫌で坊主にしたり、何度親や先生に注意されようと男らしくふるまっておりました。
まあその振る舞いの通り通り私はとても女児らしく無くてクラスメイトがお手玉をしていれば野球のバットを握り男児の尻をエイ!と叩き、
クラスメイトがお絵描きをしていれば外で泥だらけになり真っ白なTシャツに泥で大きな茶色い水溜まりの絵を描いたものです。
とてもそうは見えない?
ありがとうございます、今こうして店を構え皆様と落ち着いて話せているのも全て祖母とあの子のおかげです。
さてさて、私の過去を語りすぎてもつまらないでしょう、早速あやかし横丁の話へと参りましょうか。
せっかくあの子、と言う言葉がでましたし、ね。
あの時は夏休みで、偶然一緒に遊んでいた子供達が田舎へ帰省したり、海外や温泉宿に泊まりに行ったり、まあそんな事がありまして私は退屈をしておりましてね。
あの時のことは鮮明に、それはもう昨日のように思い返せます。
1人外に出てはおにぎりを口に放り込んで、知らない場所を探そうと塀の上を歩いては穴を潜り林を通り、偶然そこにたどり着いたのです。
最初に言ったように通りにとても大きな木が並んでいまして、そしてその木に子供達が登っては隣の木へ飛び移っていました。
なまじ運動ができた私はそのやけに小柄な子供達ができているんだから「私もできるだろう」、と木に登り子供達に続いてぴょん、ぴょんと猿のように飛び移り、そして子供達がゴールとしていた空き地にたどり着いたのです。
そして振り返り私をみて驚いた子供達の顔を見て私も驚いてしまいました。
子供達はどれもこれも、1つ目だったり反対に全身に目があったり、更には私を見て首を長くした子まで。
その時私は無邪気に祖母から聞いていた妖怪の話を思い出しまして、それが一つ目小僧だったり百目だったり、そんな妖怪の名前を浮かべていました。
がその子供達は口を揃えて私に指を刺しては
「人間だ!」
と言いちりじりに走って行きました。
呆気に取られて私はそこでポカーン、と固まってしまいました。
何せ私の中では妖怪の方こそ指を刺されて
「妖怪だ!」
と言われるものでしたし人間を驚かすイタズラ好きな存在だった訳です。
それがどうしてか、自分が指を刺されて逃げられるではないですか。
それに私もその時とても気が強かったもので、なまじ親が少々厳しく「人に指を指すな」「人を見て失礼な態度を取るな」等自分が守らない癖して他人がこれ等を破ることには敏感でした。
それもあったのでしょう、私は彼等を追いかけました。
とはいえ広すぎた通りとは変わり裏路地に入れは道は複雑でしかも一々1本の道が長くそして別れていて初めてそこに入った私は当然、彼等を追いかけることも、ましてや跡を見つけることすらできませんでした。
追いかけるのに疲れ、諦めて帰ろうと後ろを振り返ると不思議な事に通ってきた筈の後ろの道は建物で塞がっておりました。
ネズミが通る穴すらもなく、私はそこにポツン、と1人そこに立っていました。
そこでへたり込むなり泣きわめくなりすれば少々女児として可愛げがあったのでしょうが、私はそんな可愛らしい反応を見せず何と「道が無いなら登ればいい」と今考えても何でそう至ったのかよく分からない発想で壁を登り始めまして、その民家の裏らしき場所を私はよじ登り初め、なんと上手く登れてしまいました。
そしてようやく屋根の上に登ると、彼女に出会ったのです。
今思うと、どうせ彼女と出会うのならもっと普通に出会いたいものですが恐らく彼女とは屋根でなければおそらく出会えなかったと思っています。
彼女は家か屋根にしか居ませんでしたし子供達に交じったり家の外に出たりなどは滅多にありませんでした。
彼女はかなりの出不精ですからね。
と、それは置いときまして私が登った時彼女はビックリしたような様子でこちらを見ておりました。
よくよく屋根を見てみればどうやらハシゴを使い家の中からここまで来る道があったようでそれ以外の方法でここに来ることはほぼほぼ不可能らしく彼女は登ってきた私を固まりながら見ておりました。
「何してんの?」
「それはこっちのセリフよ!」
まあ当たり前の言葉が返って来ました。
しかしその時の私は彼女に興味を持ちまして、積極的に話しかけ始めましたが直ぐに彼女はハシゴから家の中へと戻ってしまいました。
そんな彼女との再開はあっという間で、まあ当然と言えば当然でした。
なんせ次の日また私はあやかし横丁へと向かい片っ端から屋根に向かい壁を登りましたから。
そうして毎日のように会いに行けば嫌そうな顔をした彼女が答えてくれました。
「何?何が目的?」
「わかんない!」
直ぐに戻られそうになり私は少し慌て
「だってお前が凄い気になるんだよ!お前のせいで夜あんまり眠れないんだよ!」
と、何を言ってるのだと今では思っております。
まあそんな事を言ったもんですから彼女は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をし、そして笑い始めました。
「あはは!わざわざ私にここまで会いに来るなんておかしな子!おかしな子」
私はおかしくない、とムスッとした後彼女へ聞きました。
「お前、名前は?」
「カヨ、君は?」
「レン」
そこからでしたね、彼女との交流は。
彼女はこの街の事や妖怪達の事を話してくれまして曰く「ここは妖怪の為の場所で今ではあんまり人が来なくなった」事、「妖怪の事を信じていない人は妖怪が見れないからここに来てもなんの意味も無い」という事、「妖怪は信じられて存在するから否定させると怪我をしてしまう」という事まで彼女は教えてくれました。
そして私は逆に自分が体験した事を話したり彼女から女児らしい遊びを習ったり。
彼女は他の人との交流を嫌っている様でしたが私に興味を持ったらしく私と遊んでくれまして、部屋に入れてくれる事もありました。
たまに私が漫画を持っていったり、逆に漫画を見せてくれたりと見せ合いっこをしたり。
私が漫画で女の子らしくしろ、と祖母達に言われてる話をすれば彼女は驚き
「嘘」
と指を指しましたが大胆な事に私は服を脱ぎ無理やり証明しました。
本当に何をやっているのか。
まあそんな事もあり私が女だとわかると
「女の子はこういうのに憧れるの!
それに女の子なんだしこう言うのも読んでみたら?」
と言いながら私に少女漫画を貸してくれましたが持ち帰ると祖母が目ざとく見つけ「ついに女の子らしくなろうとしているのね」と涙ぐみながら父親にケーキを買わせたのも今となっては笑い話です。
そこから私に髪を伸ばすように彼女が言ったもので、お前が言うならと伸ばしなまじ顔も男勝りな所があったものです、周りからはイケメンだの男前だのチヤホヤされいい気分となっておりまして、周りの髪を伸ばせない男児達から妬みの目で見られていたものです。
今考えると女に男がイケメンだのなんだので嫉妬、と言うのは珍しいものだと気づきましたが。
まあそんな風には遊んだり、たまに勉強を見てもらったりしながら時は過ぎて私は小学六年生になっておりました。
しかし、私が進級してから彼女の顔は暗く何度たずねてもはぐらかされるだけでした。
しかしその時から彼女は外に出るように、と言っても一通りが特に少ない場所を私に案内させ一緒に外に出歩くようになりました。
楽しそうで、しかしいつか来る未来に寂しさを向けた眼差しでニコリ、と笑いながら夕方になるまで外に出歩いていました。
時折横丁の外、人間の住むところに行きましたが不思議な事に人は歩いてなく私と彼女だけの2人だけの世界でありました。
ある時ふと、彼女は言いました。
「好きな人、いる?」
「カヨ」
「そうじゃなくって!」
彼女はクスクスと、寂しそうに笑いながら
「恋愛的な意味で!好きな人はいるの?」
「だから、カヨ」
そんな事、分かりきっておりました。
私は彼女の手を取るとその手の甲にキスをしました。
それは彼女が好きな漫画のワンシーン。
俺だって、好きな子の為に色々努力はする。
そう頬を赤らめ彼女の目を真っ直ぐに見つめておりました。
しかし、弱々しい口調で彼女は言います。
「好きになっちゃ、いけない」
何故か、と問えば
大人になればなるほど人は妖怪が見えなくなる、だから、お互い寂しくなるし苦しくなるだけだからもう、一緒にいるのはやめよう、と彼女は言いました。
それは例えどれだけ信じようとも避けられない事、子供は妖怪が見えやすいけれど妖怪が信じられていない今の時代だと子供の純粋な眼でしか見えない事。
それらの真実を彼女は伝え、そして走りました。
当然私は手を伸ばしたまま、その場に石のように固まりただ、彼女の走った方向を見ているままでした。
あれから、あっという間に時は過ぎまして、悲しい事に私の心から彼女が消えることはありませんでした。
私は高校へと進学し、高校を卒業した後は家をでてどこかに嫁入りするはずだったのですが家を継ぐはずだった兄がミュージシャンに憧れ半ば無理矢理家をでて、継ぎ手が私しか居なくなってしまいまして実家の書店を継ぐ事になりました。
まあその時から嫌々ではありましたが祖母から淑女らしい振る舞いを教わり、時折彼女から教わったことまでを行って、今皆様の前に座り荷物が届くまでの時間つぶしとして話していた次第であります。
おや、丁度目当ての物が届いたようですね、こんなしがない書店の与太話に付き合って下さりありがとうございました、それではまたのご来店をお待ちしております。
「はぁ、疲れた」
「ちょっと、はしたないわよ」
さっきまで人形のように姿勢よく座っていたソファに横になって脚を腰掛けに乗っければ本を届けてくれた彼女が咎める。
「いいじゃんか、今は俺とお前以外誰もいないだろ?」
「ホント人がいる時はあんなに淑女って感じなのに何で普段はこうなのか」
「淑女の方が好みですか?」
「嫌、いつも通りにして」
「ワガママ」
頬を膨らましそっぽを向く彼女にごめんごめんと軽く謝る。
「貴方ってホント嘘つきよね」
「ん?俺はホントの事しか言わねえよ?」
「嘘、だってあの時」
その次の言葉を聞かずテーブルのカステラを付いているフォークを使わず手づかみで口に放り込む。
「ちょっと、口に詰まるわよ。
ああもう、口からはみ出てるし」
彼女の言う通り俺の口からは長いカステラが半分外へとはみ出ていた。
「わへへやる」
「は?なんてってキャッ!」
ガっと掴み引き寄せ、口をよせる。
「ん」
「あぁもう!強引なんだから」
ムスッとした顔で口を開き彼女は、カヨはカステラを頬張った。
キスはしてくれなかった。
ある女主人の昔話 邪神ちゃん @kureijyaras
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