replica flame

How_to_✕✕✕

プロローグ

たった一人の少女が、天井からぶら下げられた鎧の目の前に立っていた。

 しかし、それを鎧と呼ぶのかどうか怪しいくらい近代的なデザインだった。

鎧にも似たそれは四肢は胴体とつながり、首から上はなく人が着るための穴がぽっかりと開いていた。

少女は鎧の前に立ち観察した。

鎧というよりも宇宙飛行士が着るだぶついたスーツに似ているなと思い、鎧の表面をなでる。

指先にひんやりと金属の冷たさが感じられる。

 彼女は顔色一つ変えず、鎧を眺め続けた。

「どうだ、作品の出来は?」

後ろから一人の男が声をかける。

「いいと思うわ」

少女は興味なさそうに答えた。

「何も感慨はないんだな」

男は呆れたような表情を浮かべ、苦笑いした。

「男はいちいちそんなことを考えて行動しているの?」

「君らしい答えだな」

男は口元で笑うと鎧を視界に入れる。

「それにしたって唐突にやる気になったな」

「別にいいじゃない。貴方みたいな無法者に関係ないでしょう?」

「厳しいな」

男は気にしない様子で握っていたコインを指先でもてあそぶ。

彼の視線の先には鎧を眺め、自分の考えに没頭する。

傍らの少女は端末を取り出し、その画面に映し出されたものと鎧を見比べる。

少女は鎧の胸部のところに目をやる。

そこには鎧の表面に反射し、自分が映しだされる。

なんて酷い顔、別人のように思えた。

彼女は鎧からそっと手を離し、自身の頬を撫でる。

そして感情が高ぶったかのように唇を噛み、歯に力を込めた。

憎しみなのかくやしさなのか分からない表情をする。

男は彼女の様子を気にせず、ゆっくりと口をひらいた。

「言い忘れていたがまだ完成ではない。 これには後一つ、材料が足りない」

「なんですって? これは完成したものではないの?」

「そういきり立つな。もうすぐその材料も手に入る」

男は静かにそう言うと指先のコインを親指ではじき、空中に飛ばす。

キィーンという音が響きわたり、この部屋が広いことが分かる。

男は後ろを振り向くと暗闇に向かい、声を出す。

「例の男をここに連れて来い!」

男が声を出した後、部屋の端の扉が開き、暗い部屋にわずかな光が差し込む。

光に影ができると、一人の男がつまずきながら部屋の中へと入ってきた。

男はつまずき地面に伏せると顔を上げ、いかにも抗議の声をあげた。

「僕が何をしたって言うんだ?」

男は膝をつきながらコインを弄ぶ男に向かい声を出した。

コインを弄ぶ男と、少女はその男をゆっくりと見ていた。

「僕はちゃんとやることはやった。それに言われたとおりにコイツの整備はしたろ。 これ以上、僕にどうしろっていうんだ?」

男は抗議しながら、コインをもてあそぶ男と少女の後ろにある、鎧のようなスーツに指さした。

「それにもう僕は外に一週間以上出ていない。いい加減、外の空気を吸わせてくれても良いだろう」

するとコインを手で遊ぶ男はコインを動かすのをやめ、ゆっくりと情けない声を出す男に近づき、片方の手をゆっくりと花弁のように広げ、男の顔をつかむ。

「うるさいぞ、秀長。少し黙ったらどうだ」

低く唸るように威嚇すると地面に座る秀長と呼ばれた男は口をつぐんだ。

コインをもう一度、動かしはじめ、ゆっくりと口を開いた。

「オマエにはまだ利用価値がある。私たちの計画が始まった後でも、充分にオマエの力を使わせてもらうぞ。計画が軌道に乗れば、すぐに開放してやる。それまではその口を閉じていろ」

地面に座る秀長の顔から手を離すと、コインを片手で遊びながらゆっくりと立ち上がり、少女へとむく。

「この男がこの機体を完成させ、材料を運んできてくれる」

少女は地面に膝を付く秀長を見下ろすように一瞥すると、後ろの鎧のようなスーツへと、向き直る。

少女は鎧を見ながらしゃがんでいる男に向かい質問をした。

「あとどれくらいで完成に近づけることが出来るの?」

質問された秀長は虚をつかれたような表情をするが、すぐに返答した。

「材料が手に入れば、一ヶ月くらいだ」

「一ヶ月……」

少女はポツリと言うと考えるように首を少し傾けると鎧のようなスーツに触れる。

「その材料が手に入れば一ヶ月前後で完全に出来るのね?」

「そういうことになる……」

秀長は少女の顔を一瞥する。

薄暗い部屋のせいでよく見えない。

ただ口元だけが少しの光に照らされ、少女が不気味に笑うのを秀長は眼にしていた。

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