東京冥宮

冬野ゆな

序章

序章 冥宮に挑むは鬼と贄

 入り口の前に、二人の男女が立った。


「よし。行くわよ、ロマン!」


 そのうちのひとり。

 背の低い少女が、ショートカットの黒髪を揺らして仁王立ちで宣言する。


「ロマンと呼ぶな、小娘」


 もう一人は、黒フードの下から長い白髪を垂らした長身の若い男だ。


「ホワイトとかグレイよりマシでしょ。それと! 私の名前は、みーづーき! 深月!」


 憤慨する少女――深月からあきれ気味に視線をそらし、入り口へと向ける。

 それはどす黒い地下へ続く、巨大なすり鉢状の端に過ぎなかった。水分の蒸発した海底では軍隊の残骸が片付けられることなく転がり、空の黒雲は太陽を隠し続けたまま不気味に蠢いている。


「心の準備はいい?」

「それは俺の台詞だ。お前こそいまさら怖じ気づくなよ」

「それこそイマサラね! さあ、とっとと行きましょ!」


 惨状に似合わぬほど、明るい覚悟を込めて。


「東京冥宮の地下で眠る――”神”を殺しに!」


 深月の言葉に、ロマンは巨大な穴を睨めつけた。

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