第339話 浮気かもしれないデート
ども! おてんと です。
大変お待たせしました、“セクハラ農業ラブコメ”の更新再開です。
これからもよろしくお願いします!!
―――――――――――――――――
「......。」
俺は一体何をしているんだろう。
現在、放課後を向かえた俺は学校から帰宅せず、そのまま大都会に来た。今は駅前の噴水のある場所に居る。ここは待ち合わせスポットとして有名なのか、俺の周りには決して少なくない数の人たちが居る。
俺と同じく、高校生や大学生など比較的若い人たちが多いのだが、スーツを着ている大人も居ればお年寄り夫婦が近くのベンチに座っていたりと、老若男女問わない人集りだ。
「......。」
『ピロン♪』
そんな中、なんで俺はここに居るのだろうか。
いや、聞くまでもない。
でも、教えて欲しい。
[あと2、3分で着きます!]
「千沙......」
俺は何を間違えてしまったんだ......。
*****
「......。」
わかってる。俺が放課後、彼女である悠莉ちゃんを放ったらかして大都会に来ている理由はちゃんとわかってる。
目的は同い年の異性と映画を見に行くというデート紛いなことのためだ。
そして浮気デートとも言える。
悠莉ちゃん、ごめん。
そんでもって千沙、マジでごめん。
「......。」
お前の兄ちゃん、彼女ができちゃったよ。
というか、タイミングが最悪だったよな。千沙と遊びに出かける約束をしたのが、悠莉ちゃんに告白される前だったもん。
『ピロン♪』
[ちゃんとムビチケ持ってきましたか?]
「......。」
どうしよ。なんで俺はここに来たんだろ。こんなことしちゃいけないのに、なんでここに来たんだろ。
悠莉ちゃんにも悪いし、何よりすっごく楽しみにしてた千沙に申し訳ない。
なんたって、千沙の好意を全力で踏みにじっているからな。
「......。」
だから俺は千沙に告げなければならない。千沙にとっては酷な話だが、最低限、それを俺の口から直接伝えないといけないのだ。
会ってすぐ言おう。
「俺に彼女ができた」って。
こういうのは時間が問題だからな。早く言って済ませよう。いずれ千沙に知られるんだ。ならこれ以上、お互い過度な接触をして後悔するより、早めにこの関係を終わらせよう。
千沙の好きという気持ちは、その矛先を向けられていた俺でもわかるくらい大きかった。そんな彼女を裏切る行為を俺は選んでしまったんだ。
本当にクズ野郎である。
でも、その方が千沙にも陽菜にもきっと良い。
大丈夫。辛いのは少しの間だ。当然の報いを然るべき期間受けるだけだ。
時間が経てば、こんなクズ野郎をなんで好きになったんだろうって思ってくれるはず。
「......千沙、怒るかな」
怒るなんてもんじゃないだろうなぁ。それで済めば気持ちは楽である。だが、絶対に千沙が怒って済むような話ではない。
最悪、刺されてもおかしくない。
「むしろ刺されるくらいがちょうどいいな」
「何を刺すんですか?」
「ひゃう?!」
聞き覚えのある声が視界の外から聞こえた俺は盛大に驚いてしまった。
振り返った先に居たのは、今しがた俺の脳内で悩みの種でもある人物、我が妹の千沙だ。
彼女は俺と同じく、放課後直接ここへ来たので制服姿である。
「あ、あはは。なんでもないよ」
「?」
「え、えっと、久しぶり」
「はい、お久しぶりです。兄さん」
高校が違う異性と出かけるなんて、普段の格好を見慣れている俺からしたら、今の制服姿の千沙を意識してしまうのはしょうがないことである。
特に注目してしまったのが、千沙の黒髪の一部を赤色に染めたインナーカラーである。最近、綺麗に染め直したのか、彼女の項部分に被さるインナーカラーが目立って見える。
「......。」
また千沙とはそんなに近くに居る訳じゃないのに、明らかに普段と違う彼女の匂いが俺の鼻腔をくすぐる。わぁ〜良い匂い。なんでだろー。
そんないつもと違う千沙を意識してしまう浮気野郎である。
よし、今すぐに伝えよう。俺に彼女ができたって!
「あ、あの、兄さん」
「?」
「何か、私に言うことありませんか?」
「っ?!」
なんてこった、千沙は俺の言いたいことに気づいていたのか。
もしかしたら既に陽菜たちから話を聞いていたのかもしれない。それなら誠心誠意謝らないといけないな。
頭ではそうわかっていても、後ろめたい気持ちがある俺は千沙を直視できなかった。それでも伝えようと口を開く。
「ち、千沙。聞いてくれ」
「は、はい!」
俺は無理矢理にでも千沙と目を合わせた。
その千沙の顔は――
「......。」
「?」
――赤かった。
うん。これ違うな。こいつ聞いてないな。俺に彼女ができたって聞いてないな。
モジモジして俺をチラチラと見る千沙はなんというか......「女子か」って感じだ。いや、元から女の子だけどさ。
すると千沙は自分の髪を指先でイジり始めた。
......なるほど。
「......綺麗な赤色だね」
「っ?! でしょうでしょう! 兄さんが好きな色ですからね!」
「あ、あはは。嬉しいよ」
千沙が興奮して俺の胸板をバンバンと叩く。うちの妹は兄に褒められて大喜びだ。赤色が好きと言った覚えは無いが、俺の好みに合わせて髪を染め直したとかなんて可愛い奴。
というか、普通に好感度上げちまったよ。ちゃんと言わねば。
「ち、千沙。あのさ――」
「ふふ。お気づきですか? 実は普段よりスカートの丈を短くしてます。兄さんが喜ぶかなって」
「あ、はい。あと実は俺――」
「そこまでわかってしまいましたか。実は香水を少し付けて大人の階段を上ってみました。兄さんが喜ぶかなって」
「ああ、うん。あとさ――」
「もしや他にも? そうです。実は初めてジェルネイルを使ってみました。兄さんが喜ぶかなって」
全然お気づきじゃありませんでした。千沙さんはもしかして彼女気取りですか?
意識させないでよぉぉぉおおおぉぉおおぉぉおお!!
それに『兄さんが喜ぶかなって』ってなに。普段そういうこと言わないじゃん。
意識させないでよぉぉぉおおおおおおおぉおぉぉ!!
「今から大切なことを――」
「あ、もうこんな時間ですね。さ、早く映画館に向かいましょう」
全くこっちの話を聞いてくれないんですけど。俺が気づかなかったことを気づいているとみなして言うだけ言って、全然こっちの話を聞いてくれないんですけど。
少し文句を言いたくなったので、俺はそんな千沙の目をじっと見た。
「......。」
「?」
千沙は俺の気なんか知らずにほくほく顔だ。こんな千沙に俺は残酷なことを告げなければならないのか......。
「どうしました?」
「......いや、なんでもない」
「はぁ。今日の兄さんは変ですね?」
「千沙に言われたくないな」
「どういう意味ですかッ!」
「ほら、行くぞ」
千沙は文句を言いたげな目で俺に訴えてくるが、俺は気にせず歩きだした。千沙も特に言及することなく俺についてくる。
その、なんだ。映画観てから言えばいいよね。うん。チケットが勿体ないし。うん。
そう心の中で必死に言い訳をする浮気野郎は胃が痛くて痛くてしょうがなかったのであった。
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