第316話 クソガキの相手も従業員の仕事
「さて、お店をオープンする準備は整ったし、後は各々の役割を確認するだけかな」
「ええ。たしか女性陣は裸エプロンで接客兼集客でしたよね」
「ほぉ、サービス精神旺盛だな。安心しろ! ちゃんとお触り禁止って言っておくからな!」
「和馬ならともかく、美咲さんのお兄さんも頭アレ系ですか?」
「そこそこ。でも凛さん一筋らしいからそれ以外の女性の裸体を見ても勃たないって豪語してた」
「当店はそういうお店じゃありませんのでッ!! そのような会話はしないでくださいッ!!」
ざーめん。じゃなくて、さーせん(笑)。
バイト野郎、巨乳長女、ポニ娘の3人と、西園寺家からはガチムチ兄ゴリラと巨乳会長の2人で、計5人で中村家の直売店を営業する予定だ。
一般的なコンビニほど大きくはない規模のこの直売店で従業員5人は多いように思えるが、外で開店を待っている客の長蛇の列を見れば必要性を感じてしまう。その数もぱっと見で15......いや20人以上は居るな。
よくこんな小さなお店に来るもんだと関心してしまうくらいだ。忙しくなること間違いなしである。
「で、葵ちゃん。確認だが、俺は店の中じゃなくて外であの人集りの整列を維持させればいいんだよな? あと警備」
「け、警備は要らないと思いますが......。それでお願いします」
達也さんの役割は店の外で、待っている人たちの整列の維持だ。この人、身体でかいから店内で動き回れないし、もしかしたらその巨体の動き一つでお客さんと接触事故を起こしてしまうかもしれない。
なので達也さんには外で働いてもらうことになった。お客さんもこんな
「陽菜は私とお会計担当をしてもらおうかと思ってたんだけど、美咲ちゃんには私の側で教えながら仕事をしてもらいたいから、在庫の品出しとか商品の管理をお願い」
「わかったわ」
「わかりました。よろしくお願いします」
お。あの生徒会長が校長にも使わない口調で話しているぞ。明日は雨かな?
ひぇッ?!
今、会長に睨まれたんだけど、もしかしなくとも内心密かに思っていたことを読まれたのだろうか。
だとしたらバイト野郎の危機である。お仕置き確定だ。でも何故か少し前から美咲さんのお仕置きにはエッチな要素を含んでいるからモーマンタイである。
「じゃあお店オープンします!」
「「おおー!」」
「ちょ! 自分は?! 自分の役割はなんですか?!」
「? 任せるよ? 好きにして」
テキトーすぎない?
「先輩、いくら新参者のワタシが優秀だからってバイト君をぞんざいに扱っては可哀想ですよ」
「え? ああ! 違うの! そういうんじゃなくて! 和馬君は気が利くし、レジや品出しと役割を固定しちゃうと能力が発揮されないと思ってね? “臨機応変に動いてください”って意味」
「ああ、なるほど。もう、ちゃんとそう言ってくださいよ。やること無かったら客に『ども、葵さんの彼氏でぇーす☆』って言いふらそうかと思いましたよ」
「それ絶対やめてッ!!」
ひぇッ?!
またも殺気を含む視線を感じたバイト野郎である。数にして驚きの2人。陽菜はすぐわかったけど、まさかの会長からも再び睨まれるとは思ってもいなかった。
きっと初の接客業の仕事を完璧にこなしたいという思いから、バイト野郎の足を引っ張るとも言えるこの風潮被害が気に入らないのだろう。
「和馬、前から思ってたが、お前って地味に鈍感だよな」
「?」
「なんでもない。が、刺されるなよ」
「???」
達也さんが変なことを言う。 “刺されるな”ってどういうこと? どっちかというとオスである俺が
「じゃあ今度こそオープンするよ!」
葵さんのその一言を合図に、若干の不安な気持ちを抱きながらもいよいよ直売店は開店した。
*****
「へいらっしゃい!」
「お嬢さん、ブロッコリーはどこにあるの?」
「あちらのレジ付近の棚にあります」
「カブとレタスとあとは......あれ、人参が無いぞ?」
「ごめんなさーい! 人参は売り切れでーす!」
「あら、そら豆が出始めたのね。相変わらず安いわぁ」
「900円になります」
「あ、それなら1つ100円のほうれん草を追加すればちょうど1000円になりますね」
うっわ忙し。
開店と同時に一気にお客さんが雪崩れ込んできた。嬉しいのか悲しいのか、忙しいことは繁盛しているとも言えるので安易にこの多忙さを悲しめない。
皆、それぞれ自身が担う役割をちゃんと果たしている。
葵さんと会長はレジのコーナーでお会計を担当し、陽菜は品出しやお客さんに聞かれたことの対応をしている。
達也さんは外で、店内が人で溢れ返らないように一定の人数制限をしたり、並んで待っているお客さんと世間話でもして退屈しのぎをしている。それもあってか、初見では強面のガチムチゴリラだと思っていたお客さんの印象をかなり変えられたように思える。
で、俺はというと―――
「でゅくしッ!」
「......。」
「でゅくしッ! でゅくしッ!」
――二人のガキの相手をしている。
俺の目の前に居る二人は兄妹である。俺の腹部ほどまで身長がある元気な男の子は、今年の春で小学5年生になるようで、特徴的なのはカットされて薄くなった眉毛と、あと少しで肩まで届きそうな襟足である。
一目でDQNな親から生まれたんだろうと思わせるくらいの容姿だ。
そんな男の子が先程から俺をサンドバッグ代わりに殴ってくるのだ。もうほんっと勘弁してほしい。
「や、やめなよぉ。和馬さんが可哀想だよぉ」
「数歩離れて声だけだしても君のお兄ちゃんの暴力は止まらないよ......」
そして元気な兄と打って変わって今にも泣き出しそうなくらい弱気な女の子は、兄より10センチ程低く、小学4年生になるそうだ。見た目DQNな兄とは違い、眉毛が薄いわけでもなく、ツインテールと年相応な可愛らしさがある。
ただパツキンってなだけ。そこだけよ......。
「でゅくしッ!」
「い、痛いって」
「暴力は駄目だよぉ」
ことの経緯は単純で、直売店に買い物をしに来た二児の母親が、あまりの店内の混み具合から子どもたちを連れて行くことに躊躇いがあったらしい。
そこで陽菜が余計なことを――『あ、そこに遊び相手にちょうどいい
んで、母親の買い物が終わるまでの少しの辛抱だと思ったのだが、待つこと10分経っても中々我が子の下へ戻ってこないので困っているのだ。
ちなみにこのガキどもとは初対面じゃない。
「
お兄ちゃんは
「暴力じゃねーし! 挨拶だし!」
「挨拶も駄目だよぉ」
いや、挨拶は別にいいんだけど。意味合いがちょっと違うんだよね。
そう、実はこの二人とその母親とは面識があって、高橋家のご近所さんなんだ。二人のお名前や容姿からお察しの通り、この二児の母親はヤンママである。しかもすっげぇ若いの。「絶対デキ婚だろ」と思わせるくらいの若さで、童貞野郎の俺にとっては住む世界が違うイケイケ夫婦だ。
そんでもってそこの旦那さんが超怖いの。
強面っていうか、スキンヘッドで額に傷があり、口元はヒゲで覆われていて、サングラスを春夏秋冬36524着用しているのかと思わせるくらい厳つい旦那さんなんだ。
夏の時期なんてタンクトップという露出さから見えた肩のタトゥーにビビったもん。龍の入れ墨に恐れおののいたもん。
「希空は馬鹿だな! 父ちゃんが『口より先に手を出すのが“挨拶”だ』って言ってたぞ! だから俺は間違ってない!」
「盛大に間違ってるよ。パンピーには口で挨拶しないといけないんだよ」
「かぁーーぺッ!」
「口で挨拶ってそういう意味じゃないよ」
「死ね!」
「それは挨拶じゃなくて暴言だよ」
マジこのクソガキを早くどうにかしてほしい。さっきから人のお腹を『でゅくし!ゅくし!』って殴ってきやがって。
なんなの“でゅくし!”って。
さすがに小学生相手だから本当は痛くも痒くもないが、暴力行為を止めさせたいし、なによりお店が忙しいときにいい迷惑なことこの上ない。
が、子供相手にそんなこと言えないし、今の俺は“近所のお兄さん”じゃなくて、“中村直売店の従業員”だから、どんなことがあっても笑顔を絶えさせてはいけないのだ。
だからスマイル、スマイル。
「なぁ! 父ちゃんが『
スマイル、スマイル(笑)。
「そ、
「そうだよぉ。それに“どーてー”はママがこの前、『とても清らかな存在w』って言ってたし」
「の、希空ちゃんは物知りだなぁ」
「えへへ」
スマイル、スマイル(殺)。
「なんだよ! なんでもすぐ『駄目駄目』って! 和馬も周りの奴らと一緒だな!」
「なんというか、“どーてー”な俺の方が駄目駄目な気がしてきた......」
「か、和馬さん?! 気を確かに!」
店の外で待っているお客さんたちが俺を冷ややかな目で見てくる。子供相手になんちゅー会話してんだって感じで。
俺悪くないのにさ......ぐすん。
この時間、まだ続くのかなぁ。
「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ!」
急に歌うな。
一人、ため息を吐くバイト野郎であった。
―――――――――――――――
ども! おてんと です。
307話のメッセージで『あと10話いかないあたりでこの章を終えます』とかぬかしましたが、無理でした。もう少し伸びます。許してください。
それでは、ハブ ア ナイス デー!!
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