第268話 2回目の罰ゲーム

 「はい、じゃあ本番行きまーす。自己紹介からお願いしますねー。3、2、1、アクションッ!」

 「な、中村 葵です―――」


 「ちっがーーーう!!」

 「っ?!」


 「『パコ村 パコイです』でしょう?! ちゃんと台本読みました?!」

 「......。」


 今夜の俺と葵さんは中村家の東の家にある一室を借りて動画撮影をしている。千沙は夕食後、南の家のリビングにてぐーすか寝ているのでこっちの家には居ない。


 天気は晴れ。バイト野郎も晴れやかである。3月上旬に入った今の時期は先月ほどの寒さは感じないが、夜の今は相も変わらず少し寒い。


 でもそんなことが気にならないくらい最高な気分です。


 「ぱ、パコ村 パコイです。趣味は読書です」

 「ちっがーーーう!! 『趣味は逆ナンです』でしょう?!」

 「......。」

 「ちゃんと台本通りにできないといつまで経っても終わりませんよ?!」


 なんたって、葵さんの自己紹介動画が録れるんだからな。


 AV風の。



*****



 「もうテイク5ですよ。何回録り直しするんです?」

 「......だよ」

 「はい?」

 「もう限界だよッ!!」


 なんか巨乳JKがブチギレたぞ。


 今、葵さんには先日の第四回アオイゲームの罰ゲームを受けてもらっているとこだ。内容はAV風の自己紹介動画5分である。


 正当な罰ゲームだぞ。


 「なんなのこれ! 意味わかんないんですけど!」

 「罰ゲームです」


 「なんで私がこんなことしないといけないのッ!!」

 「罰ゲームだからです」


 「罰ゲーム罰ゲームって、こんな恥ずかしいことさせて楽しいの?!」

 「ええ、罰ゲームですし」


 文句を言うのはかまわないけど、あんたも俺が負けたときに受けさせる罰ゲームの内容も大概だからな。


 「落ち着いてくださいよ。ただの動画撮影じゃないですか」

 「聞いていた内容と違う!」


 「違くありません。言ったでしょう?『自分が作成した台本を読んでもらう動画を録る』って」

 「その台本の内容がアウトなんだって!」


 「どこがです?」

 「第一声のパコ村のとこから全部!!」


 全部か......。困ったなぁ。これでも大分削って甘めに作ったんだけど。


 その一つに葵さんの顔は映さないようにして、首から下を撮影している。顔隠すAV風自己紹介ってあんのかね。


 「数日前まで言動が生真面目だった普通の男子高校生だったのに......」

 「なんかセク禁するのが馬鹿らしくなって」

 「せ、“セク禁”? それどっちの意味? せ、セッ◯ス? それともセクハラ?」


 桃花ちゃんもそれについて聞いてきたんだけど、どう考えても後者でしょ。俺のこと軽くディスってない?


 「後者ですよ」

 「ま、まぁ、未経験だしね」

 「葵さんもでしょう?」

 「うん―――“うん”じゃなくて!」


 今“うん”つったぞ。


 “うん”つったぞ。


 言質取ったぞ。


 「隠さなくてもいいですから、ショジョ村ショジョイさん」

 「不名誉すぎる! っていうか、先輩をなんだと思ってるの?!」

 「未経験に先輩後輩は関係無いですよ」

 「く、クビッ! 和馬君クビだから! 出てって!」


 嫌です。


 俺は葵さんを無視して、再び動画の撮影の準備を始めた。


 「こ、こんな動画録ったらお嫁に行けないよ......」


 お嫁に行かせませんよ。


 「前にも言いましたけど、別にこの動画をアップロードしたり、誰かに見せたりする訳じゃありませんから」

 「そういう問題じゃないよ......」


 以前、惚れさせるって言いましたよね? 俺、あんときめっちゃ悲しかったんですから。


 ......でもこの行為は少なくとも“惚れさせる”行為ではない気がする。むしろ遠ざかる一方だ。


 かといって諦める訳じゃないけど。


 「か、帰ります」

 「あーあ。次のアオイクイズの罰ゲームなんだろーなー」


 「っ?!」

 「僕、嫌な罰ゲームだったら受けるのやめようかなー」


 「......。」

 「だって先輩が罰ゲームを受けないんだもーん」


 葵さんの目が死んでる。


 そうですよね、4回もやってきた馬鹿な企画で俺が罰ゲームを受けたことなんて一度もありませんからね。1回くらい受けさせたいですよね。


 でもそのためにはまずは先輩がお手本として黙って罰ゲームを受けないと。


 「ということで葵さん、ごめんなさい。アオイクイズはとっても面白いクイズ企画なんですけど、僕が負けた場合も今回の葵さんのように罰ゲームは受けませんので。悪しからず」

 「う、受けるから......」


 「悪・し・か・ら・ずぅー」

 「だ、だから和馬君も罰ゲームはちゃんと受けて!!」


 「え? なんて?」

 「わ、私もちゃんと受けるからッ!! 和馬君もちゃんと受けてよッ!!」


 「ええ、もちろんです。ちゃんと受けますよ。負けた場合ですが」

 「ぐ、ぐぬぬぬぬ」


 なんだそれ、可愛いな(笑)。


 「ではテイク6いきまーす」

 「ちゃ、ちゃんと顔は録らないようにしてよ?!」

 「ええ。おっぱいに焦点を当てています」

 「もうその一言セクハラで罰ゲームを受けたことにしてくれない......」


 嫌です。


 こうして半ば強引に葵さんに罰ゲームを受けさせることに成功した俺は、カメラの焦点を彼女の巨乳に当てた。


 チッ。ブラしてんな。まぁいいけど。


 「3、2、1、アクションッ!」

 「ぱ、パコ村パコイです。趣味はぎゃ、逆ナンです」


 次のセリフからは俺の質問に答えるという繰り返しが中心となる。


 「おいくつですか?」

 「18歳です」


 「なんで動画作成に協力してくれたのですか?」 

 「か、稼げるって聞いたので」


 「普段、どれくらいオ〇ニーしていますか?」

 「おなッ?! だ、台本に無いでしょ?!」


 チッ。


 「はいカット〜」

 「ちょっと和馬君! 台本通りって言ったでしょ?! そんなの無かったよ?!」


 「アドリブでいいですから」

 「よろしくないです!」


 「ああー、じゃあこうしましょ。自分が罰ゲーム受けるときも追加注文ありということで」

 「なッ?!」


 「ほら、次回の自分のためにって思えば我慢できません?」

 「......。」


 「葵さ〜ん」

 「......次、覚悟してよね」


 葵さんの眼光鋭くなってバイト野郎を睨みつける。


 おおー怖い怖い(笑)。


 でも僕は諦めません。とりあえずオカズが一品欲しいので。


 「絶ッ対正解させないから」

 「......。」


 それはもうクイズじゃないと思います。


 「はい、じゃあ続きから」

 「テキトーな数でいいんだよね?」


 「元々ヤラセ動画なんですからテキトーでいいです」

 「わ、わかった」


 「普段、どれくらいオ〇ニーしていますか?」

 「しゅ、週に10回」


 “週に10回”。


 二桁かよ。テキトーな設定だとしてもなんかムラムラする回数だな。


 「......。」

 「ちょ、黙り込まないでよッ!! 恥ずかしいじゃん!」


 「いやでも10回って......恐れおののきます」

 「戦かないでよッ?! う、嘘に決まってるでしょ! そんなにシてないから!」


 「あ、一応シているんですか」

 「っ?! もうヤだぁ......」


 墓穴を掘った葵さんが嘆く。なんだこのエロ可愛いJK。マジ最高。


 いいじゃないですか。自慰行為はいけないことじゃないんですから。


 「では次に経験人数をお願いします」

 「まだやるのぉ」


 「台本通りに進めますよ。で?」

 「じゅ、10人くらい」


 「“10”好きですね」

 「これは台本通りなんですけどッ!!」


 そんなこんなで罰ゲームを楽しむ男子高校生と、一秒でも早く終わらせたいと切に願う女子高校生は動画作りに勤しむのであった。


 葵さん、よろしければ本番もシません?


 そう内心願っていても言えないバイト野郎であった。

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