第256話 経営者の苦労は商品の一種である
ども!おてんと です。
例のヤツのお礼で本日2回目の公開となります。
いつもありがとうございます。それだけが言いたかったことです。
――――――――――――――――――――
「「「いらっしゃいませ」」」
現在、バイト野郎とラスボス人妻、我儘次女の3人は中村家が運営する直売店を開店したところだ。
それもこれも奥さんとエッチなことしちゃった雇い主のせいだ。腰が不能になるまでナニしてたんだよって話。
外から続々と店内に老若男女問わず多くのお客さんが入ってきた。店周辺にはアパートやマンションがあるので、そこから買いに来る人が多いようだ。俺んちだってこの店の近くに家があるしな。
「うっわ、すごい人混みですね」
「正直、野菜しか売っていないのにここまで集客できるとは思っていなかった」
「今日は平日だからまだマシな方よぉ」
マジかよ。
店の大きさはコンビニ程の規模だ。個人店としてはこれが大きいのか小さいのかなんてわからない。それでも店の中にはぱっと見で20人程入場している。
店内でこれ以上の密集を回避するためか、店の外で待っているお客さんは長蛇の列だ。きっと今店内に居る人達の買い物が済んだら入ってくるのだろう。
「なんでこんなに人が.....」
「ここは田舎よねぇ? ここから少し離れた所に大手スーパー“ニオン”はあるけど、そこしかこの辺はスーパーが無いから周辺の住民はそこに行くのよぉ」
「そのことを考えてニオンでは価格設定がやや高めです。住民の足元を見ているんですよ」
なるほど。お客さんの多くはお年寄りだ。そう考えると年を取ってから車を運転できなくなった人達はニオンで買い物するしかない。ニオンではそれを考慮して売上に繋がると確信しているから価格設定が高いらしい。
それなら野菜だけでも安くて新鮮な野菜を売っている中村直売店に来るのも納得だ。数台停められる駐車場もあるので、車で来るお客さんも要るみたいだし。
「ということで、泣き虫さんは外で並んでいるお客様の整列をお願い。店の状況を見ながら入場数を調整してちょうだい」
「了解です。人数はどれくらいでしょうか?」
「そうね。お待たせするのは気が引けるのだけれど、人が多すぎると
店の人数を15人前後で入場制限すればいいのか。よし、与えられた仕事を
ちなみに、バイト野郎の服装は洗濯しても汚れが染みついてしまったいつもの作業着ではない。人前に出るからちゃんと綺麗な新品ツナギ服だ。さっきお店用に真由美さんからいただいた。
それに加えて胸部に“中村直売店”の文字が刺繍されたエプロンを身に付けているという格好だ。
「え?! じゃあ私は何をすればいいんですか?!」
「私と中でお会計をしたり、在庫の品出しよぉ」
「そ、そんなぁ。『看板娘は立っているだけでいい』って言ってたじゃないですか」
誰もそんなこと言ってませんが。
ちなみに千沙と真由美さんは作業着の俺と違って清楚感のある私服と、俺と同じでエプロンを身に付けている。
「ほら、この人数を1人でなんて大変なんだから手伝いなさいな」
「な、ナンパされたらどうするんですか」
「直売店でする奴いねーだろッ!!」
お客さんの前でついツッコんでしまったバイト野郎である。これに対して買い物途中のお客さんの数人は会計に居る俺たちに視線をやった。
「と、とにかく、お母さんと頑張りましょう? はい、レジ用の電卓」
「あ、要りません。足し算くらい余裕です」
暗算でお会計するってか。大丈夫かよ。
「ミスしたらどうすんだよ。お金のことは大切なんだからさ」
「え、ええー。打ち込むより絶対頭使った方がは速いですよ。エ〇セルより速い自信あります」
「そう? なら無理強いはしないわぁ。商品の数が多くなって計算が難しくなったら使いなさい」
「あ、お客さんが来ました」
「うっわ、めっちゃ籠に商品入ってるんですけど」
「あなたねぇ.....。じゃあ、泣き虫さん、外はお願い」
俺はこくりと頷いてその場を後にした。
こうして先程まで買い物籠に商品を入れていたお客さんが続々とレジへ向かい、滞っていたお客の流れは動き始めたのであった。
「こんにちはー」
「お? 今日はあの店主は居ねーのか?」
「珍しいわねぇ」
「真由美さんは居るのにな」
店の入り口付近に辿り着いたバイト野郎は外で並んで待っているお客さんに軽く挨拶した。そんな俺に返答してくれたのは最前列から3人程のご老人たちである。
「なんか腰を痛めてしまったようでして.....」
「なるほど。あの人も歳ねぇ」
「んで坊主が代わりか」
「見たとこ高校生のようだな」
暇だからか、バイト野郎とのコミュニケーションがご所望らしい。俺的には初の直売店での作業になるので放っておいてほしいというのが本音である。
俺は店の状況を様子見しながら返答をすることにした。
「はい。代わりになれるかわかりませんが、精一杯努力します」
「若いのに偉いわぁ」
「ばーろ! 若いから頑張ってんじゃねーか!」
「がははは! 違いねぇ! 若い奴は常に必要とされるからな! 頑張れよ!」
「ええ。頑張ります」
俺は店の中を見た。ふむ、だいぶお客さんが減ったな。
「お待たせしました。5名程入ってください」
「おう!」
「やっとねぇ」
「しゃあねぇだろ。店の規模と客数が合わねぇんだからよ」
よし、会話から解放されたぞ。
入店することによって列が少し動いた。挨拶は欠かさないようにと言われているので次のお客さんたちにもバイト野郎は挨拶をする。
「こんにちはー。少々お待ちください」
「お? 今日はあの店主は居ねーのか?」
「珍しいわねぇ」
「真由美さんは居るのにな」
会話2週目か。
「はは。やっさん―――じゃなくて店長は体調不良です。代わりに自分がお手伝いさせていただきます」
「ほぉー。名前はなんて言うんだ?」
「あれ息子さん? 中村家は店主以外全員女じゃなかったか?」
「ねぇ、今日は高菜の漬物を作りたいんだけど、高菜はあるかしら?」
う、うおぅ。コンビニの店員くらいの扱いで済ませてほしいんですけど。話しかけてこないでくださいよぉ。
「名前は高橋 和馬です。ですので中村家の者じゃなくてアルバイトです。高菜ありますよ、新鮮で美味しいのでお勧めします」
「なるほど、アルバイトか」
「あれ、レジの方に居る女の子も見かけないな」
「ここからでもわかるくらい不愛想ねぇ。あの子は中村家の子?」
「まぁ、ええ、はい。一応」
「「「“一応”?」」」
店員なんだから少しくらいスマイル頑張れよ。
こうして俺は様子を見ながらお客さんの入場制限の役をしばらく続けた。
並んでいるお客さんをよく見ればちらほらと見知った人が居る。近所のご夫妻だ。会話できる距離になったら挨拶しよ。
レジのコーナーを見れば、今も尚真由美さんと千沙はお会計待ちお客さんの対応をしている。そう比べるとこっちは店内の人数しか気にしないので楽な仕事だ。
そしてそんな母娘の下へお会計を済ませるべくお客さんは向かっていった。
「お待ちのお客様、こちらにどうぞぉ」
「こちらも平気です」
「......はい、お会計1700円になります」
「1250円です」
「ありがとうございました。はい、どうぞ。重たいので気をつけてねぇ」
「あの、お会計済んだので早く持って行ってくれません?」
色々と端折りすぎだろ。なんだ最後の言葉遣いは。お客さんに失礼だろう。
見れば隣に居る真由美さんに小突かれているし。この辺の住人が優しくて良かったな。笑って見過ごしてくれているようだから特に怒っていないみたいだし。
「すみませーん。こっちの野菜はもう売り切れですか?」
「この赤いほうれん草はどうやって食べるのかしら?」
「値札シールが付いていないこの野菜はいくらなんだ?」
おいおい。母娘二人はレジで忙しいんだぞ。そんな質問されても......。
「......。」
いや、そんな言い訳はお客さんにできないな。なに言ってんだ俺。きっと普段はそういった品出しとか聞かれたことは雇い主が対応していたに違いない。
なら俺の仕事じゃないか。でも列の整理もあるし......。
「......よし!」
俺は持ち場を少し離れることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます