第247話 餅食うときに話しかけてくる奴は大体確信犯

 『ガチャ』

 「あ、ちーす。久しぶりに私が遊びに来ただだだだだだだ?! 死ぬ! 死んじゃう!」

 「俺は餅詰まらせて死ぬとこだった」


 玄関のドアを開けて早々にJCにアイアンクローをお見舞いする男子高校生。


 まさかおしるこの餅食っているタイミングで、あんなことを玄関前で叫ばれるとは思っていなかった。しかも両親居るってのに。


 「餅? そんなタイミングで食べたのがいけないんじゃん!」

 「食ってる時にあられもないこを言う奴の方が悪いだろ」


 コイツ、猫預けたってことは俺の両親家に居る事知ってるくせに相変わらず容赦無いな。


 「ロロをこっちに預けているって聞いたから遊びに来た!」

 「え、桃花ちゃんが預けたんじゃないの?」

 「いや? 私、両親に黙ってお爺ちゃんとこでロロを飼ってるから、今両親とこっちに来たんだけど、お爺ちゃんが気を利かせて先に預けたって聞いたよ」


 なるほど、佐藤さんが預けたから俺の家に両親が居るか知らなかったのか。でも大晦日だぞ、常識的に考えて居ると思えよ。


 「おっじゃまっしまーす!」

 「あ、ちょ!」


 寒さに耐えかねたのか、桃花ちゃんは俺を無視して勝手に家の中へ入った。


 「桃花ちゃんこんにちは」

 「ああ、君か。まだおしるこあるから食べない?」

 「あ、二人共家に居たんですね。食べまーす」


 「大晦日と正月は休みよ」

 「ほらロロちゃん、出てきて。ご主人様が来たよ」

 「ロロぉ、ご主人様ですよー」


 両親揃ってさっきのことは無視かい。どんな神経してんだ。もう聞き慣れたってか。ちょっとは怒れよ。


 「で、桃花ちゃんの両親は隣の佐藤さんちに居るのに、桃花ちゃんはここで寛ぐわけ?」

 「うん。夕飯になったら戻ろうかなって」

 「大晦日くらいゆっくりさせてよ」

 「まったまたー。私が居て嬉しいくせに」


 どこにもそんな素振りを見せた覚えないんだけどな。その自信はどうして湧くんだろう。


 「はぁ」

 「まぁまぁ。人数が多い方が賑やかでしょ」

 「あ、そう言えば結構前なんですけど、ここに遊びに来た時、お兄さんの友人が既に居て」

 「え? 山田君?」


 「ちょ、おま、まさか!」

 「珍しいね」

 「そのときお兄さんが私の胸―――ふごッ?!」


 と言いかけたところで、俺は炬燵でぬくぬくしながら満面の笑みを崩さないJCの口を全力で塞いだ。


 「ふがッ! ふがふがふが!」

 「あははは。ほら、餅を詰まらせないように食べるんだよ」

 「「?」」


 こ、コイツ、俺があのとき桃花ちゃんのおっぱいを鷲掴みしたことチクろうとしたな。


 未遂な上にアフピ代あげたじゃん。むしろもっと揉ませろ。


 つーかヤらせろ。


 俺はふがふがうるさいJCを解放した。


 「そう言えば桃花ちゃんはこの猫のことを両親に言ってないんだよね?」

 「あ、はい。内緒で祖父母の家で飼ってました」

 「家の中で匂いとか毛でバレない?」

 「そこは消臭剤置くなり、掃除するなりで対処しましたよ」


 親に黙ってていいんか。まぁ、佐藤さんがいいならいいんだけど、わざわざ隠すようなことするなんてな。


 「やっぱ冬は炬燵だよねー」

 「ね? もうこっから出られないよ」

 「わかるわー」

 「ああ、尿意が.....。和馬、空きのペットボトル持ってきて」


 やめろ。JCが目の前に居んだぞ。いや、居ても居なくてもシンプルにやめろ。


 こうして高橋家は他所の子JCを交えて余暇を過ごした。



*****



 「あ、やべ。そろそろ時間だ」

 「自家発電の?」

 「お兄さん、部屋が臭くなるからやめてー」


 ねぇ。桃花ちゃんが居るでしょ? なんで他所の子の前でそんなこと言えるの?


 桃花ちゃんも桃花ちゃんで慣れたと言わんばかりに軽くあしらってくるし。


 「まだしねーよ」

 「「「“まだ”?」」」

 「じゃなくて、今から会長のとこ行ってくるわ」


 いや、家帰ってきたんだからスるでしょ。大晦日とか関係ない。中村家じゃ自由にできないからな。


 でもそんなこと巨乳JCが目の前に居ては言えない。俺レベルになったら親に「部屋に小一時間くらい入ってくるなよ」と言えるけどね。


 「会長って西園寺先輩?」

 「そ。なんか知り合いからご厚意で手打ち蕎麦をたくさんいただいたらしい。結構な量があるみたいだから俺にも分けてくれるんだって」

 「あ、なら和馬。お礼にこれ持っていきなさいよ」


 母さんがそう言って台所に行き、発泡スチロールの箱を俺たちが居るリビングまで持ってきた。


 「何これ?」

 「ズワイガニ」

 「かにッ?!」


 箱を開けたらズワイガニが2杯あった。


 蟹をお裾分けしろと? こう言っちゃなんだが、相手蕎麦だぞ。美味しい手打ち蕎麦でもこっちが蟹渡していいんか。


 「さすがにコレはちょっと.....。却って受け取ってくれないんじゃない?」

 「お父さんが出張先でめっちゃ貰ってきたのよ」

 「おう。全部で6杯あんぞ。ズワちゃんだ」


 フ〇ちゃんみたいに言うな。


 まぁ、うちで食べきれないって言うんなら、なんとか言って受け取ってもらおうかな。鮮度が大事だし。


 「桃花ちゃんとこにもお裾分けしたら?」

 「ううん、うち既にタラちゃん買ってるし」


 それタラバガニだよね? どうしても日曜の六時半にやってる方の子を想像しちゃう。


 「んじゃ、そういうことなら持ってくわ」

 「この蟹大きいし2杯でいいよね」

 「うん。あっちも蟹買ってないと良いね」


 サプライズするような品じゃないから確認したいけど、絶対電話越しで断られそう。


 俺は2杯の蟹が入った発泡スチロール箱を持って西園寺家へ向かうことにした。


 そして人んちで未だ寛ぎ続けている桃花ちゃんに目をやった。


 「いってらー」

 「.....。」


 よし。



*****



 「ざむ!」

 「そう? 外でバイトしていた俺には余裕だな」


 現在、バイト野郎は巨乳JCとお出掛けしている最中だ。目的地は西園寺家である。


 そんなこんなで炬燵から引っ張り出して、一緒に西園寺家へ蟹を持って向かっている。


 「私、あの人苦手って言ったじゃん」

 「え、そうだっけ?」

 「うっわ。これだから童貞は」


 童貞関係無いだろ。


 まぁ、桃花ちゃんが美咲さんを苦手とする気持ちは知っていた。でも連れてきた。だって俺の家で他人が俺を差し置いて寛ぐとか論外だから。


 それに面白いものが見れそう。この非常識で迷惑をかけてくるJCに一矢報いたいのだ。


 そんなJCは俺を隣からジト目で見つめてくる。


 「ねぇ、お兄さん」

 「はいはい。なんですか桃花さん」

 「そろそろこの箱持ってよ」


 桃花ちゃんは俺に蟹が入った箱を代わりに持ってと抗議してきた。


 「嫌です」

 「なんでッ?!」


 なんでこうなったか。それは高橋家を発ってから数分後の出来事である。


 当時俺が箱を持っていたのだが、道中暇なのでどっちが箱を西園寺家まで持つかジャンケンして決めたのだ。勝ったのは俺。


 ちなみに俺が負けたら帰り道は桃花ちゃんをおんぶするというご褒.....罰を受けなきゃいけない。桃花ちゃんも楽をしたかったのか、意外とノリ気ジャンケンしてくれた。


 「なんで私が苦手な人に贈る物を苦労して持たなきゃいけないの?!」

 「ジャンケンに負けたからです」


 「なんで勝っちゃうの?! お兄さんが負けたら私は楽できたし、お兄さんはおんぶしておっぱいを堪能できたのに! WINWINだったのに!」

 「俺も運が良いのか悪いのかよくわかりませんでした」


 実際ジャンケンし終わった後、俺が勝利した結果に二人共残念そうな顔をしていた。「「あーあ」」ってな。なんのためにジャンケンしたのかね。


 つうか俺がおんぶする目的わかってたんだ。それを知った上でおんぶされたかったのかよ。この変態が。外でパコるぞ。


 そんなこんなで俺たちは西園寺家へ向かっていったのであった。

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