第245話 不幸なことは重なってやってくる

 「やっべ。やっちった」


 天気は晴れ。今日も今日とてクソ寒い。気温も日中の今でも一桁台である。朝は霜柱がすごかったなぁ。アレを足で踏むの好きなんだよね。ザクザクって感じがさ。


 「ふむ。どうしたのものか」


 そんなクソ寒い中でもバイト野郎は今日も畑でお仕事をしている。


 内容は大根の収穫である。西園寺家でもやってるし、中村家でもやっているからもうこの野菜の収穫は慣れた。


 慣れたんだけど、


 「まさかこんなあっさり折れちゃうとは.....」


 素っ転んだ拍子に大根を地面にぶつけて折っちゃった。


 「..........誰も居ないな」


 誰も居ないし、証拠隠滅しようかな。ここは畑、土掘ってこの二つに折れた大根を埋めちゃえば、バイト野郎がミスしたことがバレることはない。後は土が大根を分解してバイト野郎が折った証拠は消える。


 完璧な隠蔽じゃないか。


 バイト野郎にお任せた仕事だからね。あと30分もすれば雇い主が迎えに来るだろう。


 「ふっ。俺も悪い奴になったな」


 そう独り言を呟いて足で土を掘り始めたバイト野郎。できるだけ深く掘ろう。掘って埋めたことがバレたら反動がヤバいでしょ。証拠隠滅するならするでちゃんとやんなきゃ。


 俺がこうまでして必死に隠そうとするには訳がある。


 今は午後なのだが、午前中のお仕事も野菜の収穫だった。その収穫した葉物野菜にほうれん草と小松菜があった。バイト野郎はそれらの収穫の際、一部ミスって根っこじゃなくて茎を鎌で切ってしまったのだ。


 つまり根っこを切らなかったのでほうれん草や小松菜がバラバラになることを意味する。それじゃあ商品にならんよね。


 一緒に仕事をしていた真由美さんは呆れ顔で「どんまいよぉ」と特に怒ってこなかった。


 「年末のこのクソ忙しい時期にミスされると困るよな」


 このように、午前中に一度ミスをしてしまったので、続く午後にもミスをしたとなればバイト野郎への信頼に関わる。ミスしないが売りの和馬さんだぞ。一日で連続ミスはさすがに知られたくない。


 「故に俺は隠す! 隠す! 隠す! 隠―――」

 「和馬君、お待たせ。どう? 収穫終わった?」

 「すうぇいッ?!!」

 「す、“すうぇい”?」


 悠長に穴を掘っていたら後ろから葵さんの声が聞こえた。え、なんで居るの? 雇い主じゃないの?


 葵さんに向き合った俺は即座に折れた大根を両手にそれぞれ背の方へ回して隠した。


 「?」

 「あ、あはは。お気になさらず。というか、なぜ葵さんが?」

 「いやぁ、うちは年末忙しいし、偶にはお手伝いしよっかなーって」

 「家族思いの素晴らしい長女ですね」

 「ふふ。でしょ?」


 どうしようどうしようどうしよう。


 マジでどうしよう。


 見れば巨乳長女はいつものように軽トラでバイト野郎を迎えに来てくれたようだ。声をかけられるまで全然気づかなかった.....。


 「で? 大根の収穫終わった?」

 「すみません、まだです」

 「手伝うよ」

 「ありがとうございます。重いので気をつけてくださいね」

 「後輩に心配されたー」


 俺は背に隠しているイチモツ(大根)がバレそうなので心配です。


 「というか、さっきからどうしたの?」 

 「え?」

 「いや、腕を後ろで組んじゃってさ」


 さすがに畑の上でこの仁王立ちは違和感あるよな。


 これがもしバイト野郎の年齢にプラス30されれば年相応の腰を労わった格好になるのだが、若者が腕を後ろに組むのは怪しい以外の何物でもない。


 「こ、腰が痛くてですね」

 「大根は重いからね」

 「ええ、では自分はコンテナを取ってきます」


 そう言って、バイト野郎は葵さんに決して背を見せないよう、カニさん歩きをした。


 「.....。」

 「葵さん、あと数本で大根の収穫は終わりですのでお願いします」


 めっちゃ無言でこっち見てくる。


 そりゃそうだ。なんでバイトの子はカニさん歩きするんだろうって思うよね。


 「今日は寒いですねー。知ってます? ち〇ぽって寒さで縮むんですよ?」

 「.....。」


 平然を装ってセクハラを交えた会話を試みるが、無視されると恐怖心を煽られる。


 「ねぇ、和馬君」

 「はい、なんでしょう?」

 「何か隠してる?」

 「.....。」


 くっ。もう素直に謝るか? でも最初っから謝っていれば少ない罪悪感で済むが、こちとらバレるのを恐れて証拠隠滅に必死だったからな。


 すると巨乳長女はバイト野郎に近づいていき、俺の背を見ようを回り込んできた。


 「ちょ! なんで隠すの?!」


 が、バイト野郎も葵さんに平衡して背を見せまいとその場で身を回して応じる。


 「ヤだなぁ。何も隠してませんよ」

 「じゃあなんで私から距離を取るの?!」

 「実はですね、自分、オナラしちゃいまして―――」

 「絶対嘘! さっき気づいたけど、なにこの少し土を掘った跡!」

 「.....。」


 そっちでバレちったか。


 「う〇こしようとしたんです」

 「畑で?! 大根がある隣で?!」

 「え、ええい! うるさいですね! 穴掘っても別にいいでしょう?!」

 「だって怪しいんだもん!」


 そう言って、葵さんはバイト野郎に向かって巨乳を上下に揺らしながら迫ってきた。


 .....震度5はあるな。ナニがとは言わないけど、揉みしだきたい。


 「っ?!」


 そんなこと思っていたらもう目と鼻の先に葵さんが。


 「何を隠してるの?!」

 「なんでもないですって!」

 「見せて!」

 「後で背筋見せますから!」

 「.....見せなさい!」


 今揺らいだな。この変態。


 「すっごく気になる!」

 「あ、ちょ?!」


 無理にでも俺が隠した物を見ようと葵さんは手探りをしてくる。


 この行動により必然と密着してきた葵さん。傍から見たら女性から男性に抱き着くという行為のようだ。


 「あ、葵さん!」

 「あ! コレね?! この太くて硬いモノだね?!」 


 “大根”ってちゃんと言いなさいよ! 勘違いされるでしょうが!


 それにその発言とハグに似た行為のせいでもうバイト野郎の大根もばっきばきのおっきおきだよ。


 「葵さん! 離れてください!」

 「え」

 「葵さんのおっぱいが当たって勃〇しちゃいました!!」

 「もうちょっとオブラートにセクハラ言えない?!」


 オブラートにセクハラを言うってなに?


 そう言って葵さんは俺から慌てて少し離れた。


 「う、うおぅ。本当に膨らんでる....」

 「み、見ないでくださいよ」


 ガン見すんな。ヌかしてもらうぞ。


 「で? なんでその折れた大根を隠そうとするの?!」


 バイト野郎のセクハラと勃〇を無視して葵さんは本題に戻る。いいんか、目の前の説教食らわしている男はおっ勃ててんだぞ。


 が、俺もコレには触れてほしくないので素直に話すことにした。


 「すみません。大根が勝手に折れて....」

 「下手な嘘吐かなくていいから!」


 「正直に言うと、今日は午前中にも仕事をミスしていたので、バレたら怒られると思い、証拠隠滅しようかなと思いました」

 「すっごい正直に言えたね?!」


 「で、どうします? 真由美さんたちにチクりますか?」

 「なんでそんな態度取れるの?! 立場わかってる?!」


 「反省してこの大根を弁償するんで怒らないでください」

 「お金で解決しようとして全然反省していない和馬君に怒っているんだよッ!!」


 「ここに自前の大根があるので許してください」

 「ソレ、足でへし折るよ?! とにかく土下座ッ!!」

 「あ、はい」


 こうして、日本のとある田舎では今日も今日とて例外なく賑やかであった。


 バイト野郎は巨乳長女に怒られながら先程の感触を思い出し、今晩のオカズを決める。


 「反省してる?!」

 「ええ、もちろんです」

 「じゃあなんでまだ勃ってるの?! あと私の目を見なさい! 胸を見ないの!!」

 「ごめんなさい」

 「胸に向かって頭下げてどうするのッ!!」


 これが葵さんじゃなくて雇い主だったらすぐ萎えると思うんですけど、怒りながらその乳房を揺らしては逆効果ですよ。


 そんな感じで反省を全くしないバイト野郎だから巨乳長女のお説教は長引いてしまったのであった。

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