閑話 葵の視点 腹黒い三連スター

 「おはようござます、陽菜、姉さん」

 「朝6時だよ....」

 「ふぁーあ。いったいなにぃ?」


 天気は予報では晴れとのこと。でも6時の今ではまだ外は暗くてよくわからない。まだ日が出てないから当然である。


 そんな寒い中でも、お構いなしに次女の千沙は私たち姉妹を叩き起こしてリビングに連れてきた。


 「今日が何日かわかりますか?」

 「えーっと、24日だね」

 「受験生にクリスマスは関係無いわよ。眠いから寝ていいかしら?」


 クリスマス・イブに浮かれているのは合コンに行く和馬君じゃないかな。


 今日が休みの私もまだ寝ていたいから陽菜に賛同して早く部屋に戻りたい。


 「まぁまぁ。最後まで聞いてください。今日は兄さんが合コンに行く日です」

 「そうね」

 「ま、まぁ、学生なんだし、それくらいあるよ」


 男女交えて遊びに行った経験が少ない私は、長女の見栄を張ってしまった。学生同士の打ち上げでファミレスで食事するくらいならあるというだけである。


 「そこで準備が整い次第、私たち三姉妹が兄さんのとこへ行って合コンをぶち壊します」


 .......二度寝しよう。


 「悪いけど、私はパス―――」

 「詳しく聞かせてちょうだい」

 「陽菜ッ?!」


 意中の相手を他の女と遊ばせたくない気持ちがあったのかもしれない。しれないけど、駄目だよ。


 長女として止めなければ。


 「あ、あのね、和馬君だって必死なんだから邪魔するようなことはしないの」

 「必死になる必要がありません。陰キャガチムチメガネは家で大人しくするべきです」

 「禿同ね」


 妹二人はいつにも増して聞き分けが悪い。


 「で、でも―――」

 「逆に姉さんは耐えられます?」


 「え、何が?」

 「バイトでくる人が、自分より年下の人が、自分より先に彼女、いや、になってもなお、今まで通り一緒に仕事できますか?」


 「.......。」

 「私は耐えられません。隣でゲームしている奴が使用済み野郎だったら捻り潰します」


 ひ、捻り潰すって。ナニをなんて野暮なことは聞かないけど、そこしかないよね。


 「それでも、私と陽菜は勉強しなきゃいけないんだから、やるなら千沙一人で頑張ってよ」

 「いや、葵姉、私行くわ」


 「ちょ」

 「赦せないわ。仕事するときに私の心が乱れちゃう。あ! 職場でよ?! 別に好きとかじゃないから!」


 心が乱れるって.......。


 陽菜はまだ隠しているつもりなのかな。もう私と母さんにはバレてるのに。


 「あとは姉さんだけです」

 「葵姉、勉強も大切だけど息抜きも大切だわ」


 息抜きって.....。


 ここは二人の姉としてしっかりと物事の良し悪しを教えなくてはいけない。


 「なんと言おうと駄目なものは駄目です。和馬君の邪魔は―――」

 「きっとあの男はするんでしょうね」


 「え」

 「今まではお互い未経験者だったから良いものの。先を行った兄さんは姉さんの魅力を前に....」


 「前に?」

 「『ふっ』とドヤ顔を決め込むんです」


 「.....。」

 「もう自分は大人なんですって主張するかのようなドヤ顔を、です」


 ..................。



*****



 「あ、居ました! アレです! あの童貞サンタ本当に合コンしに大都会まで来ましたよ!!」

 「うっわ、最低」

 「後をつける私たちが言えたことじゃないよ.....」


 現在、私たち三姉妹は大都会にて和馬君の合コンを邪魔するという名目の下、彼から少し離れた位置で監視を続けている。


 ああー、本当に来ちゃったよぉ。


 「お、アレは連れの男友達ですか」

 「たしか山田 裕二って言ってたわ」


 「あぁれが兄さんをたぶらかした張本人ですかぁ」

 「よくも和馬の童貞心を弄んだわね」


 よし、せめて和馬君の邪魔はしないよう、この二人にも最低限のマナーは守るように言わないと。


 「いい? もう来ちゃったからアレだけど、和馬君だって友人との関係があるんだから変なことはしないの!」

 「ああーはいはい。説教は後で聞きますから」

 「葵姉、邪魔しないで」


 駄目だ。聞く耳持たないや。


 「あ! あっちから二人の女性が走ってきました!」

 「か、片方の子の胸ばいんばいんじゃない」

 「え、そう?」


 「「......。」」

 「いはいれふぅ痛いですぅ


 なぜか妹たちに両方の頬を抓られるという始末に。何か悪いことでも言ったかな?


 可愛らしいカチューシャが特徴の黒髪の女子と、茶髪でポニーテールが印象的な女子高生らの二人だ。二人共可愛いなぁ。


 案の定、駆けつけた先には和馬君たちが居る。


 「ちょ! 和馬の奴、走ってきた女の子にハンカチを渡したわよ?!」

 「しかも2枚?! ひぃ!」

 「......。」


 まぁ、紳士的と言えばいいのかな。きっともう1枚は予備のハンカチなんだろう。


 「なんか結構盛り上がってるみたいだね?」

 「そんな馬鹿な......。アレは童貞ですよ?」

 「ヤリ目で来ているんだからそのうち本性を出すわ。くっ。まさかあのときと同じ場所で待ち合わせするなんて......」


 「「?」」

 「な、なんでもないわ! さ、移動したみたいだから私たちも動きましょ!」


 陽菜は慌ててはぐらかす。何に対してかわからない私たちの頭上には?マークが浮かび上がった。



*****



 「くっ! 楽しくボウリングなんかしちゃって!」

 「智子さんから聞いたことあるわ! 和馬は中学校の頃、受験勉強なんか碌にせずに友人とよくボウリングしていたって」

 「わぁ! ちょっと私ピン倒してくる!」


 妹二人を置いてさっそくゲームをし始めた長女、葵です。こういうとこは滅多に来ないんだもん。受験勉強の息抜きだよ、息抜き。


 「ぐぬぬぬぬ! 楽しそうにしちゃって! 普段の和馬なら鼻の下伸ばしても可笑しくないわよ?!」

 「大方、今までのセクハラ経験からこれでは駄目だと悟ったのでしょう」


 「それであんな空気の読める男子高校生に? そんなの和馬じゃないわ! あの

男から変態成分を取ったら何も残らないわよ!」

 「ええ、その通りです。早くボロン出して―――じゃなくてボロ出してあの場を台無しにしてほしいですね」


 千沙と陽菜はボウリング場に来たのにボウリングなんかそっちのけだ。勿体ないなぁー。よし、お姉ちゃんがその分楽しもう。


 えいッ。


 「......。」


 私はボールをピン目掛けて転がすが、真ん中を狙っても少しずれた位置に転がって行ってしまった。結果は5本だけ倒して残りは立ったままだ。次投げてスペアを目指そう。


 「千沙姉、それなに?」

 「ふっ。パチンコです。スリングショットとも言います」


 次女が違うボール遊び始めようとしてる。


 「ちょちょちょ! 何してるの?!」

 「安心してください。弾の素材は柔らかいゴムですし、床の色とほぼ同じなので落ちてもそうバレません」

 「いやどこも安心できないんですけど!!」


 千沙がやろうとしていることはわかる。そのパチンコで和馬君を撃つのだろう。まさかそんな奇行を長女である私が許す筈が無い。


 「駄目だって!」

 「陽菜、姉さんを抑えていてください」

 「ラジャ」


 “ラジャ”じゃないから。ちょ、陽菜、そんな強く抑えないでよ! 全然動けないんですけど!


 「撃ったら隠れてくださいよ。バレたら私たち三人怒られますから」

 「だから待っ―――」

 「死んでください兄さんッ!!」


 そうして楽しんでいる男子高校生に向かってゴム弾が発射されたのであった。

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