第235話 赤ちゃんがママを選ぶのは母乳のせい
「じゃあロロを連れてきます」
「よろしく」
変態野郎と巨乳JC、巨乳会長は日が暮れているのにお外で仲良く勝負事をおっ始めようとしていた。
勝敗の決め手はゴロゴロ君の好感度がどっちに傾くかである。もちろん、俺が予想しているのは桃花ちゃんの圧勝だ。
「連れて来ました」
「このクソ猫、本当にここに居たのか」
「にゃッ?!」
会長の目が吊り上がる。おこだ。好感度少しでも上げなければならないのにこの様子では勝てないだろう。
出ていったのにまさかの飼い主到来でゴロゴロ君の心中は穏やかじゃない。猫のくせによくころころと表情が変わる。
「.....会長、暴力は駄目ですよ」
「わかってる。優先するのは勝利だ」
「後回しにしても暴力は駄目です」
「しつこいな」
「会長がメリケンサックを嵌めているから言っているんです」
動物虐待にメリケンサックを使う人なんて初めて知った。同じく暴力行為には変わりないが、それでもメリケンサックをチラつかせる辺り、本気さを感じてしまう。
「にゃーお! にゃーお! にゃーおぉぉおおぉ!」
「「「......。」」」
しかしよく暴れる。桃花ちゃんに抱かれていなかったらきっと即座に家の中へと避難しただろう。
「あ、あの、勝負する必要あります?」
「.....もちろんだ」
勝負がする前にすでに決着はついている。会長、潔く諦めましょう? 時間の無駄です。
予定通りゲームは行うということで、一旦俺が桃花ちゃんからゴロゴロ君を預かる。
「では二人共、互いに5メートル程離れてください。予め言っておきますが、その位置から一歩でも猫に近づこうとしたら負けですから」
俺がそう合図すると二人は適当な間隔をあけて位置に着いた。俺はこの二人の真ん中ら辺にゴロゴロ君を置いてどっちにより懐いているか確かめる。
「よし、始めますよ」
「うん」
「バイト君、ちょっとそこは真ん中じゃないな」
「「.....。」」
「もう1メートルくらいこちら側だ」
大人気ないよな。俺がこの猫を真ん中に下ろさない訳無いだろ。どっちかに偏っていたらフェアじゃないんだし。
「.....桃花ちゃん」
「.....別にいいよ。距離関係無いし」
「っ?! ず、随分と余裕じゃないか」
そう。桃花ちゃんの言う通り、距離は関係無いのだ。この猫をどこに設置しても桃花ちゃんの下へ行ったらそれでゲーム終了。
例え、会長寄りの.....そうだな、1メートル以内に設置してもきっとそこから4メートル以上離れた桃花ちゃんの所へ猛ダッシュするに違いない。
「じゃあお言葉に甘えて。バイト君、そのクソ猫をワタシの足元まで持ってきて」
「い、いやそれはさすがに」
「安心して。触れないから」
俺は桃花ちゃんに目を遣った。彼女は勝ちが確定していることを自覚しているからか、特に気にした様子もなくこれを了承した。器デカいよな。油断とも言う。
俺はゴロゴロ君を会長に言われた通りに、元飼い主の下まで抱えて行った。
「にゃーお! にゃーおおぉおおお!! にゃうおぉぇぇぉおお!!」
すごいな。お前、本当に猫か。
めっちゃ嫌がるじゃん。めっちゃ暴れるじゃん。これで会長はまだ負けを認めないというのだからさすがだよな。こんな現実を前にしても仁王立ちなんだぜ?
「ではここに下ろしますね?」
「うん」
「下ろしたら開始ですよ?」
「うん」
「あ、後でラーメン奢ります」
「負け前提で慰めないでくれる?」
ご武運を、なんて言えるわけねーだろ。負け戦だからな。俺は今も暴れ続けるゴロゴロ君を会長の足元へ下ろした。
案の定、一目散に桃花ちゃんの所へ向かおうとする失礼な猫と化す。
が、しかし、
「待て」
「っ?!」
その一言でゴロゴロ君の急ぐ足が止められる。
殺気でも感じているのだろうか、猫のくせにわかりやすい表情をするから見ているこちらも緊張してしまう。
「少し話をしよう」
そいつ猫ですよ?
「ここ数日出て行ったきり戻ってこないのはワタシが嫌いになったからかな?」
本当に人語を理解しているのかわからない。語る会長の目をじっと見ては微動だにしないこの猫は不思議な生き物である。
「君の扱いを改めよう。もうドレスを着せないし、爆睡中にデコピンなんかしない。戻ってきてよ」
いや、好条件に切り替えるとかじゃなくてただの嫌がらせをしないと言っているだけじゃん。
すごく切なそうな声で言っているけど内容が糞だぞ。
「にゃー」
そう鳴いては振り返るのを止め、再び桃花ちゃんの方へ歩み始めたゴロゴロ君には迷う様子を見受けられない。もう決心しているのだろう。桃花ちゃんが良いのだと。
「そうか.....。それが答えか」
「にゃー」
どこか微笑んだ会長はもう諦めたようだ。
はは、なんだかんだ言っても結局はゴロゴロ君の気持ちを優先―――
「それ以上あちらに向かって歩いたら蹴り飛ばす」
「「「っ?!」」」
なんてことはなかった。ここで終わる会長じゃないもんな。
「君のそのにっぶい足で逃げ出すより、ワタシのこの女優にも負けない美脚でキックオフした方が早い」
「ちょ、会長―――」
「それくらい、ワタシの元飼い猫だった君にはわかるだろう?」
何が何でもゴロゴロ君を持ち帰ることに必死な会長である。これにはさすがに待ったをかけるしかない。動物愛護団体に代わって。
「お、お兄さん」
「ああ、あの人ならやりかねない。なんせつい先日に俺の腹にダイコンバットしてきたからな」
「“ダイコンバット”?!!」
俺は勝負を一時中断するよう会長に呼びかけた。
「いいや。もう勝負は始まっている。君は審判なんだから黙っててよ」
「いや、ドクターストップするより今ここで止めますよ?!」
「何言ってるのさ。“キックオフ”って言ったじゃないか。サッカーはもう始まてる」
「猫はボールじゃありませんよ?!」
「元々ゴロゴロ君の名前の由来はボールを軽く蹴ったときのコロコロと転がるところからきているんだ」
「すでに名前に虐待要素含んでる!」
それに蹴り飛ばしたらコロコロじゃないだろ。ズドンだろ。つうか、撫でてゴロゴロ鳴くからゴロゴロ君って名付けたんだろ。
「ロロ、そんなのただの脅しだよ。こっちへおいで」
「桃花ちゃん、さっきも言ったように会長ならやりかねない」
「......ロロ、多少蹴られても死なないからこっちへおいで」
やめなさい。流血沙汰になるでしょうが。
審判として止めるべきなんだろうが、俺が動いても蹴り飛ばしそうで迂闊に動けない。
「そもそもさ、なんなの“ロロ”って」
「私が名付けたんです!」
「“ゴロゴロ君”から取ってるでしょ? ならもうワタシの勝ちで良くない?」
「ルールが違いますし、そんなネーミングセンスの欠片もないような名前なんて参考にしませんから!」
「.....。」
西園寺家兄妹はネーミングセンスが糞だからな。そこは赦してほしい。
「ゴロゴロ君」
「ロロ!」
可哀想に。巨乳JCを選べば自身は吹っ飛ばされ、巨乳JKを選べばこれからストレスが溜まる日々を再開しなければならない。一時の苦痛か、永遠の地獄か。
苦渋の決断をした白黒の猫はなぜか俺の方へ振り向いた。そしてゆっくりと一歩ずつこちらに近づいてくる。
え。
「にゃー」
「「「.....。」」」
この場に居る誰もが絶句してしまう。
俺の足に身体を擦りつけてきたり、足元で寝そべっているのだ。
俺を巻き込むなよぉ。
「お兄さん.....」
「バイト君.....」
「自分のせいじゃないですよ?!」
くそ。会長が蹴り飛ばしたいという気持ちが少しわかってきた。
「はぁ。もうよしません? 正直、会長より桃花ちゃんに懐いているように思えます」
「まぁね!」
「どこをどう見てそう判断したの? 目腐ってるんじゃない?」
性根が腐ってる奴がなんか言ってる。
「でも元々は会長が飼い主なんだ。愛情が一方的でも飼い主とペットを引き離すなんて桃花ちゃんとしても気が引けるでしょ?」
「そこそこ!」
だからその“そこそこ”やめろ! 対人で絶対印象悪くするからな!
「ということで、二人は飼い主のまま、1か月交代でこの猫を飼うというのはどうでしょうか?」
「うーん」
「仕方ない。それで譲歩してあげよう」
あんたに譲歩してんだよ。
「桃花ちゃん、駄目?」
「まぁ、それなら心置きなく愛でられるかな。西園寺先輩、それでお願いします」
「こちらこそ」
「ちょうど今月で今年は終わります。それまではこのまま桃花ちゃん、来年の1月は会長、そこから交代でいきましょう」
「わかった!」
「ふふ。それでかまわない」
こうしてこのゴロゴロ君が起こした騒動は終わりを迎えた。辺りはもう真っ暗だ。結構長居しちゃったよ。
「会長、もう暗いですし、帰りましょう。家まで送ります」
「ん。その前に.....っと」
会長は俺が抱き抱えていたゴロゴロ君を両手で持ち上げて頭上まで持ち上げた。
「ふふ。覚悟するといい。来年から使い潰してやる」
「んにゃぁうおぉお!」
「「......。」」
どんまい。
―――――――――――――
ども! おてんと です。
これからこの物語は冬休みに入るのですが、葵と陽菜が受験生のため、かなり飛び飛びの内容となります。許してください。
それでは、ハブ ア ナイス デー!
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