第199話 クリスマスパーティーに呼ばれたけど、なんもプレゼント用意していなかった時の焦燥感

 「私からね! 今年の誕生日プレゼントはこれ! レジンで作った猫のストラップ!」

 「可愛いッ!!......です」


 最初は言おうと思ってたんだ。「誕プレ用意してませんでした」って。


 「すごいです! 小さな水晶の中に猫が閉じ込められていますよ!!」

 「感想がちょっとアレだけど。そうなの、初めて作ったから失敗ばっかだったけど、なんとか綺麗に仕上がったよ」


 「姉さんが使いこなせないスマホに付けますね!」

 「さっきから一言余計じゃない?」


 でも、こうして皆でわいわいしているときに、そんなこと言えるわけないじゃんね。空気ぶち壊すことなんてバイト野郎にはできないよ。


 「次は俺ね。はい、Amaz〇nギフト券」

 「ありがとうございます! 誕生日に現金渡されるよりかは嬉しいです!」

 「あ、本当に一言余計だね」


 どうしよう。俺の順番になったら正直に言えば良いのかな。うん、そうしよう。


 「私はねー。これ! とんクイーンの1/6スケールぬいぐるみ!」

 「うっわぁー!! こんなのに資源を無駄―――じゃなくて、ふんだんに使った可愛いぬいぐるみですね!」

 「ねぇ、『可愛い』の一言じゃ駄目かしら?」


 ちょっと千沙に同感。こんなブッサイクな豚のぬいぐるみなんて貰っても素直に喜べないよ。


 「って和馬。どうしたのよ?」

 「え?」

 「顔色悪いわよ?」

 「あ、ああ。実は俺、今日、千沙に―――」


 俺は言うタイミングだと思って、千沙に告げようとした。


 が、


 「あ、大丈夫だよ。元々、高橋君を誘ったのは急な話だったんだし、プレゼントとか気にしないでね」

 「やっさん......」

 「「「「“やっさん”?」」」」


 さすが、頼れる大人だ。俺が困っているときにちゃんとわかってくれて、気遣ってくれた。


 一生ついていこう。


 「ふふ。和馬君が用意してないわけないじゃん」


 一言余計なのはあんたもだよ。この爆乳が。


 「まぁ、日頃あれだけ一緒に遊んでいるんだから、だろうから用意してるわよ」


 陽菜の言葉がダブルで俺の心の臓にグサグサと刺さった。


 「お、俺は......」

 「「「「「“俺は”?」」」」」


 言いにくい。言いにくいぞぉ。


 「泣き虫さんは最後にしましょうねぇ。きっと千沙のために、ここに居る誰よりもすごい物を用意しているはずよぉ」

 「おおー!」

 「ママを超えるってこと? 一番のレべチよ?」

 「に、兄さん、気持ちで良いんですよ? えへへ」

 「ほほう。千沙に余計な一言を言わせないプレゼントか......」


 雇い主、地味にハードル上げないで?


 っていうか、なにその基準。“余計な一言”を言わせなかったら勝ちなの?


 こいつに何をプレゼントしても絶対余計なこと言うよ。


 「じゃあ私ねぇ? ふふ。千沙の奥歯をガタガタ言わせてあげるわぁ」


 すごい。とてもじゃないが、誕プレを渡す意気込みとは思えない。


 「“AirP〇ds”よ!!」

 「「「「「っ?!」」」」」


 なにここ。


 ここの家庭の子になりたい。


 「ふふふ。今の子はこの“うどん”みたいなのを耳からぶら下げたいのでしょう?」


 自分で用意したプレゼントを自分で軽くディスってますよ。


 「お、お母さん......」

 「どう? 嬉しいかしら?」

 「超嬉しいです!!」

 「でしょう?!」


 二人のテンションは天空の城の域まで爆上げした。


 すごいな。陽菜の言った通り、真由美さんのプレゼントはマジでレべチだった。いや他の人のプレゼントも貰ってすごい嬉しい物だけどさ。


 「でも私のスマホ、Andr〇―――むぐッ?!」

 「?」


 真由美さんを除く、俺ら4人は一斉に千沙の口を塞いだ。真由美さんは千沙の言葉に対してよく聞き取れなかった模様。良かった。


 だって、AirP〇ds貰って文句言うとか絶対にあり得ないから。


 「本当は母娘的な意味を込めて、Padにしようか迷ったのだけれど......それをしちゃうと次のプレゼントを考えるのが難しくてねぇ」


 PLUS ULTRAさらに上へ


 「そんな......気持ちだけで充分ですよ」


 じゃあ、今までの余計な一言は?


 皆、その一言が一番聞きたかったんだよ。


 「さて、次は泣き虫さんよぉ」

 「え、高橋君、本当に用意してたの?」

 「私じゃないのになんかすっごいドキドキしてきた」

 「な、なんでですか......」

 「まぁ、ここまで焦らされたら葵姉の気持ちもわかるわ」


 マジでどうしよう。


 ここに来て「無いよ?」って言える?


 でも、実際無いんだ。しょうがない。正直に言おう。


 「えーっと......」

 「「「「「......。」」」」」


 「よ、用意してませんでした」

 「「「「「........。」」」」」


 「じょ、冗談ですよ。あはははは」

 「「「「「............。」」」」」


 いや、この空気ぃぃぃぃぃいいいいいい!!!


 無理矢理出させようとしてんじゃん。なんもねーよ。


 あ、そうだ。


 「お、俺のお気に入りのゲームのアカウントはどうかな?」

 「「「「「っ?!」」」」」


 駄目みたい。「それはない」って顔してるもん。


 「はぁ。なんだ和馬、あんた用意してなかったのね?」

 「ま、まぁ、元々、今日のバイト終わってから急に誘ったんだからしょうがないよ」

 「千沙は先週言ったのよねぇ? 一人前の男なら用意しなきゃ駄目よぉ」

 「高橋君、どんまい」

 「本当にすみませんでした」


 真由美さんの言った通り、先週、千沙本人から聞いたんだ。それを忘れていた俺が悪い。


 許されるなら後日プレゼントしたい。童貞を。


 ..................嘘です。半分くらい。


 「うぅ.....」

 「「「「「っ?!」」」」」


 「ひっぐ....兄さんに言ったのに....先週ちゃんと言ったのに............」

 「「「「「......。」」」」」


 泣いちゃったよ。妹、泣いちゃったよ。


 すっごいいたたまれない。時を戻したい。


 そんでもってテーブルの下で、皆が無言のまま俺の脛を蹴ってくる。


 「ち、千沙。本当にごめん。もし、許してくれるなら後日―――」

 「誕生日プレゼントはぁ......今日じゃないと意味無いんですぅ」


 そうだね。おっしゃる通りです。


 そしてまだテーブルの下で、皆が無言のまま俺の脛を蹴って―――痛ッ?!


 誰だ! 今、息子にキックした奴!


 絶対陽菜だろ! 起きるぞ! じゃなくて、怒るぞ!


 「今日中に用意できる物なんて.....コンビニ行ってきていい?」

 「あんた反省してる?」

 「最低....」


 姉妹二人がバイト野郎を見る目はゴミでも見るかのようなだ。


 「うっ....兄さんが....」

 「「「「「?」」」」」


 「どうしても用意できないって言うなら....」

 「「「「「....。」」」」」


 「どうしても用意できないって言うなら!!」

 「「「「..........。」」」」

 「あ、はい。無理でございます」


 いっそ殴ってくれ。それで許してくれるならお安い御用だ。


 「今の俺から千沙にあげられる物なんて無いんだ」

 「............あるとしたらどうします?」

 「喜んでプレゼントしたい」

 「.....そうですか」


 なんだろう。何かの罰ゲームかな?


 「では、コレを......」

 「「「「?」」」」

 「っ?!」


 「プレゼントと見なします」


 千沙がポケットから取り出したある物に俺は驚愕した。


 「ちょっ!―――」

 「千沙姉、それ何?」

 「何かの?」

 「中村家の物じゃないな」

 「千沙、あなた、まさか―――」


 皆が知るはずもない。だってそれは―――


 「ええ。です」

 「「「「っ?!!」」」」

 「......。」


 千沙のその発言に対して皆、絶賛絶句中である。


 というか、さっきまでの泣き顔が嘘のように思えてきた。


 「ち、千沙。そ、それはさすがに―――」

 「大切にします!」

 「いや、そうじゃなくて―――」

 「さっき『喜んでプレゼントしたい』って言いませんでした?」

 「それはその―――」


 そういえば昨日の件もあるから、遅れて高橋家を出るお前に鍵を預けたんだっけ。


 ねぇ、それ、誕プレの域超えてない?


 「ちょ、ちょっと真由美さん」


 俺はこの中で一番の常識人である中村家ママ様に助け船を求めた。


 「.....はぁ。諦めなさいな」

 「え」


 まさかの泥船。


 「合鍵くらい別にいいんじゃない? 千沙、落とさないように」

 「はーい」

 「.....。」


 そんでもって大黒柱には求めていなかったけど、続いて泥船。


 「ちょ、ちょっとなにそれ?! ずる―――じゃなくて! そんなの誕プレな訳ないじゃない!」

 「陽菜。誕プレかどうかは私自身が決めることです。セーフです」

 「アウトよッ!」


 末っ子じゃ駄目か。おい、長女!


 「だ、駄目だよ?! 姉としてそれは看過できません! それってアレだよね?! ドラマで見たことあるけど異性に合鍵渡すって―――」

 「ただ一緒にゲームするだけですよ?」


 「いやでも―――」

 「え、逆に何か問題あります? まさか私が侵入して盗みを働くとでも?」


 「そ、そんなこと―――」

 「では他に何があります? 言ってみてください」


 「そ、それは、カップル的なごにょごにょ.....」

 「何言ってるかわかりませんが、姉さんの頭の中がドピンクだってことだけはわかりました」


 何言ってるかわからないのにソコはわかるのね。


 長女め。役立たずだな。


 「千沙、真面目に―――」

 「兄さん」

 「あ、はい」


 完全にさっきまでの千沙は嘘泣きだったと言わんばかりに満面の笑みで言う。


 「大切にします!」

 「............落とすなよ」


 妹には逆らえない兄であった。




――――――――――――――――――



兄妹以上カップル未満の二人!!!


ども! おてんと です。


今回でなんとか9章のタイトルを回収できました。たぶん。


10章では本編200話からですね。キリが良くて最高です。


それと、次章に入るまでに何回か、閑話や特別回を行います。許してください。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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