閑話 千沙の視点 コナ〇の気持ちですよ

 「すぴー、すぴー」

 「......。」


 どうしましょう。計画が台無しです。


 「なんで私のココアを飲んだんですか......」

 「すぴー、すぴー」


 現在22時01分。私は今、兄さんの自宅にて兄さんとゲームをしていましたが、つい先程、私を置いて寝てしまいました。


 「っていうか、『すぴー、すぴー』って」


 漫画のキャラですよ。実際に居るなんて思いませんでした。


 「ほ、本当は起きているのでしょう?」

 「すぴー、すぴー」


 ですよねー。


 だって兄さんが飲んだココアには睡眠や―――眠気を催す薬が入っていましたもん。


 「ここで“イモウトクイズ”です」


 未だ爆睡中の兄を目の前に、独り言を始めた血の繋がっていない妹は解説に入りました。


 「ヒントは明日の私の誕生日です」


 そう。日付が変わるまで兄さんの家に居ようかと思っていたのは本当です。


 その際、私が寝てしまって中々起きなかったら―――


 「ケダモノの兄さんですから、襲ってくるかと思って」


 だから良いタイミングで寝つけるよう自分のココアに眠くなる薬を盛ったのですが......。


 ちなみに薬は入眠を目的とした超短時間作用型のハル〇オンです。


 これから襲われるかもしれないって思ってたらドキドキして寝れませんからね。仕方なく自分に薬を頼った次第です。


 「ああー。これじゃあ兄さんが親子丼作っているときに設置したカメラと盗聴器が意味無いじゃないですか」


 テレビの台付近に私たちが映るよう設置した隠しカメラと、テーブルの下に襲われたときの会話などを録音するための盗聴器。


 どれも設置した意味が無くなったので私はそれらを回収しました。


 「ああー、誕生日なのにぃー」


 誕生日プレゼントは兄さんの童貞でも良かったのに......。


 ロマンチックでは無いと思いますけど、それでもあの兄さんが無抵抗な私を前にして襲わないなんて選択肢考えられないので期待してしまいます。


 だって私、美少女ですし。


 「きっと兄さんのことだから、眠ってしまった私にあーんなことや、こーんなことして有り余った性欲をぶつけてくるんでしょうね。妹の身体を好き勝手して......この変態ッ!」

 「ふがッ!」


 寝ちゃって無抵抗な兄の額にデコピンをお見舞いします。


 「まぁしょうがないです。よくよく考えたら寝ている間に処女を失うのはそれはそれで考え物ですし」


 私としたことが......。誕生日だからって浮かれすぎましたね。


 『プルプルプルプル♪』

 「っ?!」


 不意に兄さんのスマホの着信音が聞こえました。


 「え、姉さん?」


 スマホの画面には“中村 葵”と表示されてました。


 「ああ。大方、週末は兄さんの家に私がお邪魔するから危惧して電話してきたのでしょう」


 時刻は22時32分。この時間に男子高校生の家に妹が居たら心配するに決まってます。


 『プルプルプルプルプルプル♪』

 「......。」


 無視しましょう。ちょうど兄さんも寝ていることですし、このままここに居座れる良い機会です。


 少し良心が痛みますが、仕方ありません。


 「あ、諦めましたね」


 着信音が鳴り止みました。姉さん、諦めたんでしょうか。


 っていうか、真っ先に兄さんを疑うってどういうことですか。まずは妹に電話してくださいよ。


 『プルルルルル♪』

 「あ、次は私ですか。こっちは出ましょう」


 今度は私のスマホの着信音が鳴りました。


 「はい、千沙です」

 『あ、千沙?』

 「ええ。どうしたんですか?」

 『え、あ、へ、変な聞き方だけど、今どこに居る?』


 その聞き方は完全に疑ってますね。


 「祖父母の家ですけど?」

 『ほ、本当? なら良いけど、和馬君の家にまたお邪魔してたらと思うと心配だよ』


 襲われるって言いたいんですか?


 ええ。それを期待して一服盛ったんです。事故ですが。


 「というか、疑うなら正直者の兄さんに聞けばいいじゃないですか」


 「電話して」なんて姉さんに問わなくても、結果は知ってるんですけどね。


 『そう思って和馬君に電話したんだけど』

 「“そう思って”......」


 『ご、ごめんね? でも彼、電話に出なかったし』

 「はぁ。シコってんじゃないですかね?」


 『ちょ、電話だからってはしたないこと言わないでよ』

 「すみません(笑)。とりあえず、今日は一人でゲームしたかったので兄さんの家には居ませんよ。明日そっちに行きます」


 『わかった。明日ね。おやすみ』

 「おやすみなさい」


 その言葉を最後に私は電話を切りました。









 それから私はしばらく待ちました。日付が変わるまでじーっとして。


 そして―――、


 「0時00分になりました」

 「すぴー、すぴー」


 「..........さて、兄さん。覚悟はできてますね?」

 「すぴー、すぴー」


 未だ馬鹿面を晒している兄さんに呼びかけます。


 襲われなければ襲えばいい。それだけのこと。


 強制わいせつ罪もいいとこですね?


 「お兄ちゃん!」


 私は思いっきりお兄ちゃんに抱き着きました。


 「なんで寝ちゃうんですかぁ! もうっ!」


 より一層、腕に力を込めてハグを続けます。


 「ああー! もっと甘えたい! 甘やかしてほしい! 私だけもっと特別扱いしてください!」

 「フグッ」


 おっと。いけない、いけない。良い感じにキマってしまいましたね?


 もし起きてこんな私を見られたら軽く10回死ねますよ。


 「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん.....」


 ......ハグだけじゃ物足りないですね。あ、せっかくですし―――


 「んぅー!!」


 キスしましょう。


 「ふふ。これじゃあどっちがプレゼント受ける側かわかりませんね?」


 続けて私は無抵抗な兄に口付けをこれでもかというくらいシます。


 「お兄ちゃん......んっ」


 次第に兄さんの上に跨ってお兄ちゃんに擦り始めます。

 

 「んぁ。んん......ぷはぁ」


 起きないことを良いことに人生2回目のディープキスを堪能。こんな妹を知ったら、お兄ちゃんはどう思うのでしょう。


 「なんで.....初めてが私じゃないんですかぁ」


 夢中にキスをしながら文句を言う妹。どこまでも我儘で、自分勝手です。自覚あるんですよ。


 でも、“初回”を上書きするほどに、私で


 そう。例えば私のスレンダーな身体を擦り付けるように密着したり......。


 「お兄ちゃんはどんな妹なら好きになってくれますかぁ?」


 普段、例外なく他人の前では絶対に発しない甘ったるい声。


 「もっと.....もっとぉ」


 しばらく兄を独占ちゅうですよ。


 キスだけに。ふふ。



 ――――――――――――――――――



 最後、「たけ〇っと♪」ってしたかったけど、それはさすがにKYかな、と。


 ども! おてんと です。


 あと数話で9章を終わりとさせていただきます。許してください。


 次章で10回目となります。


 それでは、ハブ ア ナイス デー!

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