第196話 睡眠を妨害されると寝起きなのにストレスが爆発しそうな件

 「今朝は段ボールを組み立ててもらう」

 「帰っていいですか?」

 「許さん」


 天気はおそらく曇り。午前5時というまだ日が出ていない時間帯に呼び出されて、仕事内容が箱の組み立てとかもう帰っていいでしょ。


 「健さん、よく考えてください」

 「何がだ?」


 「もっとこう.....自分は若いんですから、他の利用方法があるでしょう?」

 「かかっ! 生意気になったなぁー」


 「それにいつ、バイト依頼の電話をしてきました?」

 「さぁ?」

 「午前2時ですよッ!! 頭おかしいんですかッ?!」


 俺はとうとう西園寺家の雇い主に怒鳴ってしまった。


 「おまっ! 俺が頭おかしいって言いたいのか?!」

 「充分おかしいですよ!! なんですか、開始の3時間前って!」

 「年を取るとなぁ、なんにも無くても急に夜中に起きちゃうんだよ!!」

 「だからってトイレ行く感覚で起こさないでくださいよ!」

 「でも、ちゃんと和馬来るじゃん!」


 安眠妨害も良いとこだわ。このクソオヤジめ。


 夜中起きてそんな唐突に「あ、今日は和馬も呼ぼ」みたいな感じでバイト頼まないでほしい。正気じゃないよ。マジでさ。


 と、そこへ達也さんが俺の肩をポンポンと叩いてきた。


 「ごめんな和馬。俺なら日付変わる前に電話できたんだが」

 「日付変わる前とかそんなギリギリの話をしてるんじゃないです」

 「月9とか、金ローとか見たい番組があるとな、つい後回しになっちまう」

 「物事の優先順位で自分は最下位か」


 なんだこの親子。俺もこんな無茶ぶりに付き合う必要無いよな。今度電話してきたら、「時間考えろッ!」って言ってバイト拒否しよう。


 「ほんっとあんたたちは常識がなってないねー」

 「そう言うなら陽子さんから連絡ください」

 「無理。老眼だから携帯は極力使いたくない」

 「だから物事の優先順位」


 こうなったら凛さんに―――。


 「ごめんねー。私も事前に連絡するように達也に言ったり、私からするって言ってみたんだけど、達也が『俺からするからいいぞ』とか『もうした』って嘘つくから」

 「そこまでいくともう確信犯」


 ほんと勘弁してくれよ。もう夜中に鳴りだすスマホが怖ぇーよ。







 「で、今日の仕事は段ボールの組み立てだ」

 「早朝からやることじゃないですよね?」

 「全くもってその通り」

 「......。」


 仕事内容は段ボールの組み立て。時給1000円。ただし午前5時~7時まで。そんなアルバイト募集をかけても誰も来ないな。


 「まぁそんな嫌な顔するな。これも一から仕事を覚えてもらいたいお前のためだ」

 「本音は?」

 「単純作業過ぎて面倒くさいからバイトしてもらおうと」

 「段ボール燃やすぞ」


 俺は健さんに連れられて、西園寺家のある倉庫に来た。そこにはまだ組み立てられていない段ボールが山のように束になって置かれていたのだ。


 「おいおい。この段ボールが無いと市場に育てた野菜を持っていけないんだぞ」

 「はいはい。で、これを坦々と組み立て続ければいいんですね?」

 「おう。この段ボールを......こうしてこうだ!」

 「おおー! 速い!」


 すごい。お手本としてバイト野郎に健さんが実際に段ボールを組み立てるところを見せてくれたが尋常ないくらい速かった。


 「がはは! お前もすぐこの域に達するぞ!」

 「慣れですね」

 「ああ。さ、俺は他の仕事するからあとは頼んだぞ」

 「了解です」

 「目指せ! 段ボール職人!」


 いらんな、そんな称号。


 こうして俺は徐々に組み立てるペースが上がっていくのを実感しながらどんどん作業を進めていった。


 ちなみにこの段ボールたちはこれからキャベツを収穫した際に使うらしい。どんだけ消費するかわからないが、100とか200じゃないだろう。たくさん作ろ。






 「え、会長、またお弁当忘れたんですか?」

 「そ。だから頼んだよ」


 時刻は7時を回り、段ボール地獄から解放されたバイト野郎は西園寺家の中庭にて陽子さんから会長の弁当を預かった。


 「先日もありましたが、今週で3回目ですよ。しかも毎回自分が届けてますし」

 「ふふ。なんでだろうね?」


 凛さんが微笑んでからかってくる。笑いごとじゃないですよ。バイト野郎はお昼弁当を届ける度に昼休みを返上してるんですから。


 もう午後の授業で“遅弁”するのだって神経使うし、バレるのだって時間の問題だよ。


 「なら朝行って渡せばいいじゃねーか」

 「自分もそう思って前回届けたんですが、朝会が始まるまで生徒会室に籠っているらしくて」

 「クラスメイトに預かってもらえばいいだろ」

 「『後でまた彼に届けさせて』って言われたらしくて、それが面白いのか受け取ってくれないんですよ」

 「お前はDema〇‐canか」


 ほんとそれな。バイト野郎に真の休憩時間は無いんか。

 






 「会長、居ますか? 入りますよ?」

 「入って」


 そして昼休みとなり、例のごとく俺は生徒会室に向かった。中に入ると会長以外誰も居なかった。


 「相変わらずすごい資料の量ですね。急ぎなんですか?」

 「うん。ここにあるものを片付ければ、もう特に無いかな」

 「へー」


 俺は会長とテキトーな会話をしながらそこら辺のわかりやすい位置にお弁当を置こうとした。


 よし、置いたら速攻で帰ろう。


 「ああ、そこで食べろって? あとは自分がやるからって? 君は本当に優しいね」

 「......。」


 速攻でバレた。そんでもってとんでもないこと言い出した。


 「自分だってまだ昼飯食べてないんです」

 「君は目の前の女性がお腹を空かしているのに自分だけ腹を満たそうとするのかい?」

 「言い方」

 「じゃあなんだ、忙しい私にこのまま仕事を続けさせ、せっかくお母さんが作ってくれた弁当を食べずに腐らせろと。君はそう言いたいんだ」

 「だから言い方」


 この人、もしかしなくても今日も仕事の一部を俺に押し付ける気だな。


 「あのですね」

 「別にいいじゃないか。暇でしょ」


 かっちーん。これにはさすがのバイト野郎も怒りを覚えてしまう。


 「なんですか、それが人にものを頼む態度ですか? 自分だってなんの得もないこんな仕事するより、教室でダチと楽しく昼休みを過ごしたいんです」

 「......なに急に。感じ悪いなぁ」


 「大体、これは会長が始めたことでしょう? 日々の生活が退屈なんでしょう? なら最後まで自分で頑張ってくださいよ。一般生徒を巻き込まないでください」

 「......。」


 「それに、こんなことやらせるから周りの人からなんて言われてると思います? クラスメイトからは『お前、会長と付き合っんの?』とか、『もしかして美咲ちゃんの彼氏~?』って最近よく言われます」


 これじゃあ俺が目指す甘酸っぱい青春生活に支障をきたすかもしれない。そんなのたまったもんじゃない。


 俺だって高校で彼女作りたいんだ。変な噂は邪魔でしかならない。


 「容姿端麗で会長にはわからないと思いますが、自分は部活をしてない分もっと青春をしたいんです」

 「っ?!」

 「お互い、過度な接触をしない方が身のため―――」

 「あっそ。わかったからもう帰っていいよ」

 「へ?」


 あ、やべ。言い過ぎた。


 「高々数回の頼み事も聞けないなんて。融通が利かないなぁ」

 「なっ?!」


 「ほら、さっさと出てって。生徒会室ここは部外者立ち入り禁止だよ」

 「そ、そうですか! じゃあ一人で頑張ってください!」


 「元々容易たやすい仕事だったからね。君なんかが手伝っても―――」

 「もう弁当忘れないでくださいよ! すっごくので!!」

 「っ?!」


 俺は怒鳴って生徒会室を後にした。


 走って走って、自分の教室に戻ってきて俺は立ち止まった。


 そして近くの壁に頭突きをしてしまった。その際、周りの生徒から奇異な目で見られた。


 「......あうぅ」


 ああ、やっちまったぁ......。これからどうしよう。

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