第185話 第三回 アオイクイズ

 「それでは、問題ッ!」

 「あー、モチベ上がんないなぁ」

 「あんな罰ゲーム許すわけないでしょ!!」


 俺もあんたの罰ゲームを許した覚えはない。


 バイト野郎と巨乳長女は仕事せずにクイズ大会をおっ始めた。大会と言っても二人だけだけど。


 「人の腹筋は型にとるくせに」

 「それとこれとは別だよッ!」

 「じゃあ平等に、自分の肉棒を型にしていいんで、葵さんは“乳房チョコ”をお願いします」

 「どっちの罰ゲームも口にしていいものじゃないから!!」


 ケチ。


 そう。このように本人がどうしてもおっぱいで型をとりたくないと我儘を言うので、バイト野郎の要求する罰ゲームは“葵さんの膝枕”となった。


 普通さ、どう考えても“膝枕”と“腹筋板チョコ”はフェアじゃないでしょ。


 「そろそろ問題出すよ?」

 「はいはい」

 「か、可愛くないなぁ」

 「その分、葵さんが可愛いので」

 「っ?! も、問題ッ!!」


 照れてる照れてる。顔赤いですよぉ?


 「ナスはそうしゅ―――双子葉.....」

 「噛んだ」

 「.....植物、キク亜綱、ナス目の科の一つで、要するに“ナス科”に属されるんだけど、実はこのナス科には他の野菜もあります」

 「ほうほう」


 『双子葉植物』を言おうとして可愛く噛んだけど、無理やり続けたぞ。


 でも、可愛いから許す。


 「では、いったい、そのナス科の“他の野菜”には何があるでしょ――」

 「トマト」

 「.....。」

 「.....。」


 バイト野郎、即答である。そして予想外のその即答により葵さんはだんまりである。


 「み、三つくらい言わないとなぁ」


 後出しじゃん。先輩としてそれはどうなの? まぁ、最後までクイズを聞かなかった俺も悪いけど。


 「さ、さすがに三つも言えないよね?! はい、不正か―――」

 「ピーマン、ジャガイモ」

 「.....。」

 「.....。」


 解答時間が人智を超えて短すぎ。


 それでも俺は答えるがな。容赦なんかしない。


 「.....。」

 「いはいれふ痛いですはなひてくらはい離してください


 空気を読まなかったからか、そんなバイト野郎にご立腹の巨乳長女が頬を抓ってきた。


 「――の三つがありますがッ!!」

 「え、ええー」


 せこッ。人に解答させといて、それを無理矢理問題として続けようとしているよ。


 でも、なんか怒っているみたいなので強く言えないバイト野郎である。


 「そのナス科の植物は育成にするにあたって気をつけないといけないことがあります。では、それは何でしょう? はい、不正解」

 「葵さん、少しは“先輩の余裕感”を醸し出しましょ? 若干でいいですから」

 「.....三分間待ってやる!」


 ム〇カか。


 「まぁ、答えはもう決まってるんですけど」

 「え」

 「“連作障害”ですよね?」


 バイト野郎が答えた“連作障害”とは、同じ場所で同じ作物を繰り返し栽培することで、土壌病害や線虫病害などによる育成不良を起こす障害である。


 要は特定の条件によって細菌やら害虫やらで野菜の収穫量が減少してしまうのだ。


 「.....。」

 「葵さん?」


 今回の例にすると、同じ場所、というか“畑”だな。そして同じ作物というのは“ナス科の野菜”である。それをまた来年じかい繰り返すと“障害”が起こりやすいらしい。


 「た、タイ〇リープ.....」


 してません。時をかけてません。


 「な、なんでわかったの?」

 「はは。以前、西園寺家の皆さんに教わりましたから」

 「なっ?!」


 そう。バイト野郎はナス科のことについて西園寺家に教わったのだ。トマトの収穫の際に達也さんたちからたくさん教わったのは本当にラッキーだった。


 故にバイト野郎の圧勝。


 葵さんは俺が西園寺家ではトマトの収穫しか手伝っていないから、知らないだろうと思ってこの問題を出したのかな。


 残念ですね(笑)。


 「ず、ズルいよッ!!」

 「なにがズルいんですか.....」

 「そんなの卑怯すぎる.....。“無知”じゃないじゃん」


 クイズの場では解答者が無知であることが前提らしい。初耳である。


 「逆に聞きますけど、無知の相手を叩きのめして楽しいですか?」

 「楽しいかどうかわからないけど、罰ゲームをしてもらいたいのッ!!」


 こんな葵さんは知りたくなかった。


 「葵さん、諦めましょう。膝枕です」

 「そ、そんなぁ」


 この絶望しきった顔。そんなにバイト野郎を太ももに乗せるのが嫌なのだろうか。妹二人は二つ返事でしてくれるのにね。


 「さて、仕事の続きでもしますか」

 「.....だ............って.....いよ」


 「はい?」

 「まだ終わってないよッ!!」


 「.....。」

 「誰も一問だけとは言ってないし!!」


 うっわ。もう敬語使うのやめようかな。尊敬の念が薄れてきたわ。


 「.....これで最後ですよ」

 「大好きッ!」


 それが聞けたから許す。


 っていうか、どんだけ切羽詰まってんだ。あんた普段そんなこと言わないだろ。


 もっかい言ってくれないかな。着メロにしたい。


 「えーっとね、その“連作障害”の対策にはどうしたらいいと思う?」

 「え、単純に土壌を――」


 「もちろん、作物の成長に合わせた適切な土壌の状態を管理することも対策の一つだね」

 「なるほど」


 「他にも緑肥、堆肥などの有機物を混入させることによって、それらの細菌や害虫の発生を抑制させることができるよ。それとね――」

 「ちょ、ちょっと待ってくださいって!」


 「な、何?」

 「そうやって数ある答えを地味に絞っていくのやめてください!」

 「チッ」


 舌打ちしやがったよ。この巨乳長女。


 参ったなぁ。今までのはなんとか西園寺家で偶々教えてもらったことが問題に出されたので答えられたが、今回の“連作障害の対処法”なんて全くわからないぞ。


 「あれ? もしかして今回のは答え知らない感じ?」

 「ええ。少し考えたいです」

 「ええー、どうしよっかなぁー」


 後輩があれだけ譲歩してやったのにこの大人気の無さ。


 「仕方ありません。葵さんからヒントを貰いましょう」

 「ちょっ! それはズルいよッ!!」

 「ど、どこがですか」

 「毎回毎回出題者の反応で答えを探るとこ!!」


 顔に出るあんたが悪いだろ。


 「.....今回、連作障害には土壌の中の細菌や害虫が原因とのことですが、例えば何か殺菌剤みたいな――」

 「あー! あー!」

 「.....。」


 どんだけ必死なんだよ。そんなに食いたいか、腹筋板チョコ。


 「あと、連作障害に強い植物を台木として利用する、“木苗きなえ”っていう苗を植えることも手段の一つだよ!!」

 「.........。」


 なんかバリアの向こうから攻撃されているみたい。こっちは手出し不可能なヤツ。


 また一つ、選択肢が消えたな。まぁ、元から知らなかったからいいけど。


 「葵さん、どうしてそこまでするんですか?」

 「....じゅ、受験勉強には糖分チョコが必要だから」

 「ふ、普通のチョコでいいじゃないですか」

 「う、うるさい」


 あーどうしよ。全くわかんないや。


 葵さんはその連作障害の可能性のあるその畑の対処法を俺に“例”として言ってきた。


 なら、やっぱりその場の“土壌”をどうにかしないとなぁ。殺菌剤や殺虫剤などの農薬を使用........なんて答えは安直すぎるから違うと思うし。


 「うーん」

 「ファイナルアンサー?」


 なんも言ってねーよ。..............ん?


 『何も言ってない』.....か。


 「あ、ってのもアリか!」

 「なっ?!」


 そうか。その手があったじゃないか。


 「そうですよ。なにもその畑に固執する必要なんて無いじゃないですか」

 「してぇ。お願いだから固執してぇ」


 「葵さんが『“連作障害”の対策にはどうしたらいい?』って言ってましたよね?」

 「い、言ってたような、言ってなかったようなぁ」


 言ってただろッ!!


 その畑で無理に連作する必要なんてそもそも無いんだ。


 細菌とか害虫とかの被害は被害にあう可能性がある。だから有機物投入とか接ぎ木苗とか土壌の管理が必要なんだ。


 「それならそもそもその畑で同じ作物を育てなければいい.....」

 「もうヤだぁー」


 はは。わかりやすい反応ですね。


 「そうですねー。流石にどの野菜も同じとは思えないですが、“ナス科”を例にすると、数年間はこの畑で“ナス科”を育てなければ連作障害は起こらないのでしょう」

 「うっわ。そこまで言うんだ.....」


 「来年は別の畑でナスを育てればいいだけの話です。それでその畑の土壌が落ち着いたらまた使えばいい。なんかしら畑ごとのローテーションのようなものだと思われます」

 「あーはいはい。そうですねー」


 「つまり、連作障害の対処法は、『そもそも連作しない』っていう至ってシンプルな答えです」

 「正解だよ。ねぇ、先輩をイジメて楽しい?」


 知らんがな。


 ちなみに、もう観念した葵さんが言うには、そのローテーションみたいな栽培方法を“輪作りんさく”と言うらしい。へー。知らなかったな。


 「ツナギ服の上半身部分脱いで」

 「え」

 「シャツ越しでいいから腹筋触らしてよ」

 「いや、負けましたよね?」

 「いいじゃん、少しくらい。フェアじゃないよ」


 散々、俺は不利な状況に立たされていたがな。


 でも職場の上司がここまであからさまに落ち込んでいるのを見ると強く断れないのがバイト野郎の悲しい部分である。


 バイト野郎は上半身の部分のチャックを開けた。そしたら俺の前でしゃがんで腹筋を摩り始めた。


 「はぁ.....。これのチョコ、食べたっかなぁ」

 「.....。」


 なんか最近の葵さん、色々と包み隠さなくなったよな。開き直ったって感じ。


 勝ったはずなのに勝った気がしなくて素直に喜べないバイト野郎であった。

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