閑話 千沙の視点 桃栗三年兄二ヶ月

ども! おてんと です。


わかりにくいかもしれませんが、前半は時系列的に169話の『食事会』まで戻って、後半は171話(現在)にまた戻る感じです。ご容赦ください。



――――――――――――――――――――――――



 現在、土曜の19時40分。少し遅めの夕食です。


 兄さんに「千沙と付き合いたい(脳内変換)」と言われてから1週間ほど経ちました。


 その間、少し私の情緒が不安定でしたので特に兄さんとは交流しませんでした。ボロが出そうでしたし。


 あれから.......兄さんと付き合い初めてからの生活を妄想してしまいます。ふふふ。


 「お疲れ様です、兄さん」

 「お、おう」


 中村家満場一致で週末は兄さんと夕飯を摂るという提案により、さっそく今日からそれが始まりました。


 こうして家族全員で食事するのは夏休み以来ですね。


 「あ、兄さん、醤油取ってください―――あぴゃうッ?!」

 「「「「「あぴゃう?」」」」」


 兄さんから醤油を受け取ろうとしましたが、兄さんの手が私の手と当たってしまい、思わず変な声が出ちゃいました。


 い、意識しすぎましたね。


 「えっと、ごめん?」

 「い、いえ。こちらこそ」


 別に悪くないのに兄さんが謝ってきました。


 「はい。醤油」

 「そ、そこに置いといてください。取りますから」


 また手に触れたら変な声出そうです。


 「.....。」

 「ざ、雑菌的なアレです」


 い、言いすぎましたね。すっごい絶望しきった顔してますよ、兄さん。


 「こら。千沙、それは流石に高橋君に失礼でしょ。謝りなさい」


 お父さんに怒られてしまいました。当然でしょう。自分で言っておいてなんですが、雑菌扱いは可哀想ですよ。


 「これは.....いえ。そうですね。すみません、

 「「「「「えっ?!」」」」」


 決心しました。私、決心しましたよ、兄さん。


 このまま兄弟のままではきっと付き合えませんよね?


 本当はもっと兄妹の関係を続けたかったのですが仕方ありません。兄さんが「千沙と付き合いたい(脳内変換)」って言ったら、いつまでも妹のままじゃいられませんよ。


 いや、本当に名残惜しいですが。


 「......千沙。短い間だったけど、貴重な体験をありがとう」

 「はい。こちらこそ」


 兄さん.......流石です。私の意図を汲み取って、そう返事してくれるんですね。


 兄さんもその気なんでしょう。いいですよ? いつでも私に告ってください。


 「「「「......。」」」」


 家族も皆驚いてますね。そうです。“彼女”にジョブチェンしちゃうかもしれないので“妹”を辞めるんです。


 「?」


 だから、もう兄さんとは呼べません。


 .......辛いですが、いつまでも兄さんと呼ぶのは、良くないでしょう。


 「ひっぐ.....」


 ああ、泣かないでください。そんなに妹が恋しいんですか?


 あ、いや、嬉し泣きかも。


 大いにあり得ますね。そうですか。兄さんも同じ気持ちだったんですか。なら、高橋さんは尚更兄さんを辞めなければいけませんよ。


 さらば、兄! こんにちは、彼氏! 輝かしい未来が見えますよ! でへへ。





 「って思ってたんですが、全ッ然進展ないですね」


 私は中村家、東の家の自室にて不貞腐れています。


 あれから1週間が経ちました。平日、兄さんとの“朝までゲームコース”はここ2週間していません。


 そろそろ発狂しそうです。


 「ああー、あんなこと言っちゃいましたし、こっちから振るのも気が引けますね」


 「高橋さん、これからゲームしましょ」ってなんか変じゃありません?


 だって“高橋さん”って呼ぶことはつまり、兄さんを辞めていつでも付き合えるという前振りみたいなものなんですから、いきなりゲームっていうのも.......。


 いや、逆にあえてゲームをして、会話の中で言われるかもしれませんね。でも、リモートで言われるのはちょっと......。


 「仕方ないですね。今日も兄さ―――高橋さんはうちで夕飯を摂るはずですし、とりあえず様子を見てみましょう」


 私から兄さんに「付き合ってあげてもいいですよ?」なんて死んでも言えません。


 そんなの、万が一でも....いや、億に一でも「NO」と言われたら死ねる自信があります。


 「そんなの......畑の土を死ぬまで飲み込んじゃいますよ」


 恥ずかしさと悲しさのあまり、兄さんも道連れ確定ですね。一緒に土を食べましょう。


 まぁ、兄さんが断るわけないと思いますが、万全を期してこちらから行動はしません。今更したらこの2週間が台無しですよ。


 「あ、もうこんな時間じゃないですか」


 時計を見れば20時を過ぎていました。もう南の家で皆さんは食事を済ましたのでしょうか。


 まぁ、まだ兄さんは帰っていないはず。食後のデザートでも食べている頃合いでしょう。


 「さて、高橋さんに会いに行きますか」


 いざ! 気合を入れて出陣です!!





 「夕飯を頂きに来ました」

 「あ、千沙」


 玄関のドアを開けたら廊下に両親と姉さんが居ました。こんな所に揃っていったい何をしてるんでしょう。


 「なんでこんな所に居るんですか?」

 「いや、まぁ、なんというか」

 「千沙ぁ。あなたがいけないのよぉ」

 「今用意するけど........したいけど、ちょっとこの雰囲気で食べられる?」


 お母さんと姉さんの言っている意味がわかりません。


 でも3人共、廊下からリビングを見ているということだけはわかります。


 「私、何かしましたか?」

 「「「アレ見て」」」


 なんですか、3人して。気持ち悪いですね。


 リビングに何があるのか、私はそう疑問に思いながら恐る恐る覗き込みました。まさかゴキブリじゃないですよね?


 「え」

 「「「でしょ」」」


 いや、え、あ、んん? え、えーっと。


 え?


 「あ、アレはいったい...」

 「見ての通り、してるんだよ」

 「しかも陽菜が高橋君を『お兄ちゃん』って呼んでるし」

 「私、頭が追いつかないわぁ」


 私もですよ。


 姉さんの言う通り、リビングを見れば、ソファーで陽菜の太ももの上に、横になった兄さんの頭が乗っています。


 ......何度見てもアレ、膝枕ですね。


 「「「「......。」」」」


 あ、あれぇー? なんでぇー?

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