第160話 将来のママのオムライスはボムライス

 「料理人と呼ばれてただいま惨状! 見た目はJC、中身はジューシー! 米倉 桃花ちゃんでーす☆」

 「帰ってくれぇぇぇぇぇええ!!! 頼むからそいつに料理をさせるなぁぁぁぁぁああああああ!!!!」

 「怖ッ」


 バイト野郎こと和馬君は面倒ごとに巻き込まれてしまったのだ。ここには俺と母親、陽菜とさっき家に入って来た桃花ちゃんの計4人がこの場に居る。


 「なんでお前が居んだよッ?!」

 「そ、そーよ! 桃花と一緒に作ったら浮気料理になるじゃない!」

 「“浮気料理”って何........。智子さんが『料理するから暇なら桃花ちゃんもカモン』ってメールしてくれたんだよ?」

 「ついでだよ、ついで」


 クソババア、こいつの料理知ってんのか。秒で後悔するからな。


 「陽菜、この夏休みはずっとお兄さんに料理を作ってあげたんでしょ?」

 「ま、まぁね」

 「それでもお兄さんが陽菜を見直さないのは料理が完璧じゃないからだよ」


 料理できない奴が上から目線でなんか言ってる。


 「っ?! な、なるほど、盲点だったわ」


 ほんっと盲点。陽菜の完璧な料理がこれからマイナスになるからな。できるだけ0以下にならないよう気を付けていただきたい。


 「で、智子さん、何作るの?」

 「お義母様、教えてください!」

 「ふふふ。和馬の大好物の一つ、それは............“オムライス”!」


 母さんが胸を張って料理名を宣言した。


 「「「お、オムライス.....」」」


 俺たち3人は驚愕(?)する。


 「って、なんであんたも驚いてんのよ」

 「お兄さんの大好物でしょ?」

 「いや、初耳だ。親がなんか勝手に言ってるだけだぞ」


 オムライスは嫌いじゃないが、大好物ってほどじゃない。


 「昔ね。和馬がまだ小さい頃に、私が作ったオムライスに大はしゃぎしてたんだよね」

 「え、そうだっけ?」

 「うん。流石に覚えてないか」


 どこか懐かしい思い出を思い浮かべて、近くにあった鍋の縁をさする母さんである。


 うん、オムライスに鍋は使わないから、その仕草関係ないよね。


 「オムライス.....良いわね」

 「オムソバ.........面白そう」


 若干一人、料理と感性が違う奴がいる。


 「お、お前、焼きそばすら作れないんだからワンランク上のもん目指すなよ」

 「えー良いじゃん! 絶対楽しませるから!」

 「料理に楽しさは要らない」


 まぁ陽菜が作るオムライスは食べたことないけど、絶対に美味いんだろうな。陽菜は料理がめちゃくちゃ上手だし。ほんっと女子力高いと思う。


 「じゃあさっそくレシピを言うわね」

 「「はい!」」

 「桃花ちゃん、頼むから食べ専でいよう? 今度何か奢るからさ」


 母さんがJC二人に思い出の品、オムライスのレシピを教える。そういえば母さんのオムライスはここ数年食ってない気がする。まぁ、仕事で普段居ないんだし当たり前か。


 「まずは冷凍庫にチキンライスがあるから出して!」

 「「はい!」」


 「フライパンでそれを炒めて!」

 「はい!」

 「は、はい!」


 「で、一旦それは置いといて、次は卵を割って溶いて!」

 「はい!」

 「はい」


 「卵を薄く焼いたヤツをさっきのチキンライスに被せて!」

 「はい!」

 「.......はい」


 「完成!」

 「いえーい!」

 「............。」


 陽菜、ごめんよ。うちの母親はいつもこうなんだ。なにが思い出の料理だ。中身、冷食じゃねーか。


 これだから仕事から帰ってきても俺が家事を続行してやらなきゃいけないんだ。


 「あ、あの智子さん、これ、調理してませんよね?」

 「「おあがりよ!」」

 「いや、おあがりよじゃなくてですね」


 こいつらと会話しない方が吉である。陽菜、馬鹿に付き合ってないで普通に料理作ってよ。もうそれが適正解だ。


 「普通に陽菜のが食べたい」

 「わ、は駄目よ。しかも二人の前でなんて」

 「陽菜、ね」


 こいつもダメだ。もう料理はいいから耳鼻科行ってくれないかな。


 「まぁ冗談はこの辺にしといて。桃花ちゃん、陽菜ちゃん。レシピとかないわ。審査員の母とこのバカ息子が評価するから、胸を張れるオムライスを作ってちょうだい」

 「えー、つまんなーい」

 「わかりました!」


 結局そうなるんかい。っていうか駄目。桃花ちゃんも審査員だから料理しちゃ駄目。


 「今回は“オムライス”っていうかぁ」

 「桃花ちゃん、注文内容を“縛り”って捉えないで」


 「とりあえず卵の部分は以前使った‟ソーラークッカー”で」

 「お願い。キッチン使っていいから、料理と言える物を作って」


 「あ、夕方だから使えないか。麺はなんだろ?焼きそばの麺は無いからパスタでいいかな?」

 「さっき自分でオムライスって言ってたじゃん」


 あーもうこの子やだぁ。調理に入る前から嫌な予感しかしないもん。


 だって見てみ? 陽菜はちゃんとエプロン身につけているのに対して、桃花ちゃんに至っては白衣だもん。なんで持ってんだよ。料理しようよ。実験やめてよ。


 「和馬の好みは.....たしか少し食材を大きめにカットした方が好きなのよね?!」


 さっそく料理に取り掛かった陽菜が、自慢げに無い胸で主張する。よく覚えてるな。具材の味を楽しみたいから俺は大きめの具が好きなのだ。


 「さすが、陽菜。できれば陽菜が作ったものだけを食べたい」


 隣でなんか実験している奴のなんかよりもよっぽどお腹に優しいからな。


 俺がそう言ったら陽菜の顔が赤くなった。


 「そ、それは遠回しのプロポーズってことかしら?」

 「いや、そういう意味じゃな―――」

 「ヒューヒュー!!」


 外野ババアは黙ってろ!


 「かっちーん。どたまにきたよ、お兄さん。それ、遠回しに絶対私の料理は食べたくないって意味でしょ」


 よくわかってらっしゃる。


 というか、自覚あるならその手に持っているビーカーを置け。なんで料理でビーカー使うんだよ。どっから出してきたんだよ。うちにんなもんねーよ。


 「じゃあもういいよ! こっちだってが受けたくないもん作りたくないから!」


 被験者は俺だけじゃなくて母さんも入るよ? 作らないことに越したことはないからそのまま諦めてくれ。






 あーだこーだ言っているうちに、陽菜の方が先にオムライスを完成させていた。よし、陽菜のを先に完食して、桃花ちゃんのはお腹いっぱいだから食べないって言おう。


 いや桃花こいつ、途中で作るのやめたな。面倒くさかったのかな? どっちにしろ助かった。


 だが完成させた陽菜は顎に片手をやり、なにやら考え事をしているようだ。


 「でも今まで通りじゃ桃花の言う通り、和馬が私のこと見直さないわね」

 「ケチャップでハートマークでも描いたら?」

 「もう描いた」


 描いたんかい。


 やめろよ、食べる側が小っ恥ずかしいだろ。


 「うーん、難しいわね。完成させちゃったし、冷ましたものなんて食べてほしくないから、和馬、とりあえずコレ食べてちょうだい」

 「それがベストだよ、陽菜。いただきます」


 俺はこのまま陽菜が作ったオムライスを受け取り、上にケチャップで綺麗に描かれたハートマークをスプーンで広げて塗りつぶした。


 「ちょ! なにしてんのよ!」

 「え、普通にケチャップは薄く伸ばしてるんですけど」

 「こ、ここまで外道だとは思ってなかったわ」


 じゃあその外道にハートマークを提供するな。


 だけど内心、可愛いJCにハートマークを描かれてかなり嬉しいという気持ちは黙っておく。


 「陽菜ちゃん、大丈夫。こいつのコレはただの照れ隠しだから」

 「智子さん.......」

 「いや普通に要らないからね? ケチャップなんかテキトーに掛けてれば良いんだよ」


 さすが母親。その通りです。いくら淫魔の下心満載のオムライスでも嬉しくてしょうがないんです。あーうま。


 「お兄さんも素直じゃないなぁ。嬉しいくせに」

 「べっつにー」

 「だって左手、ケチャップを伸ばすときに、ぎゅーっと力んでた拳にすっごい爪食い込んでたよ?」

 「っ?!」

 「どんだけ消したくなかったのぉ?」


 桃花ちゃんがニヤニヤしながら俺の顔を覗き込む。


 なんてこった。無意識に利き手じゃない方の、つまりスプーンを持たないフリーの手に自然と力が入っていたようだ。見れば手の平に爪痕があって、血が少し滲んでる。


 いや、本当にどんだけ消したくなかったんだよ、俺。

 

 「か、和馬、そこまでして演技しなくても」

 「い、いいやいやいやいや! これは違うから! ケチャップだから!」

 「まったまたぁー、そういうこと言っちゃって!! その気持ちだけでお腹いっぱいよ!!」

 「こんなゲロ不味な飯食わされたから手に力が入っただけだって!」

 「はいはい」


 別にハートマークを消すことに悔いがあったからとかじゃないから!


 でも、俺のこの左手から滲み出た天然ケチャップじゃあ説得力皆無だ。


 「ったく....。まぁ気持ちが嬉しくないわけじゃないこともなくな―――アガッ?!!」

 「あ、きた!」

 「え、何が?」

 「お、お兄さん大丈夫?」


 引き続きオムライスを食べていたら、口に何かが入ったのを噛んでわかった。同時に若干血の味もする。この硬い物のせいで口を切ったのかな。


 ..........いや、なにこれ。


 俺は行儀悪く、口に入っている異物を手で取りだした。


 「...........陽菜、コレは?」

 「コレって。見ればわかるでしょ」


 取り出したものは“金属製のリング”だ。


 「.........いや、なんで?」

 「もうっ! よ!!」

 「プロポーズのときにケーキの中に入れるベタなヤツか」


 歯痛ぇ。思いっきり噛んだな。


 「ほら、夏休みのときに花火見に行ったじゃない?」

 「うん」


 「そのときに的屋で買ったのよ!」

 「うんうん」


 「子供用のおもちゃみたいな物だけど、今の私たちにはそれで充分かなって!」

 「うーんとね、なんかだんだん血の味がしてきた。どこ産のケチャップ?」


 「本当は和馬から安物でもいいから指輪が欲しかったん―――」

 「陽菜ちゃん、陽菜ちゃん」

 「はいはい、愛しのお嫁さんよ。なにかしら?」


 俺は彼女の両肩を掴んで言う。


 「お前、大っ嫌い」



――――――――――――――――――――



ケーキみたいなフォークでつつくヤツに入れるんであって、オムライスはダメだよ.......。


ども!おてんと です。


後日談ですが、この後、陽菜は滅茶苦茶怒られ、桃花ちゃんはこっそり帰り、ママさんは残りのオムライスを食べて高評価したとのことです。


文字数が多くなって書くの辞めちゃいました。許してください。


それでは、ハブアナイスデー!

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