第145話 山田ですよって主張したい

 「こんにちはー。高橋でーす」

 「あ、高橋君」


 天気は曇り。今日は火曜日。先日の千沙の件から数日が経った。今は夕方で俺は中村家に来ている。


 中庭まで歩いていたら作業着姿の雇い主が居た。お勤めご苦労様です。ちなみに今日はバイトでここに来たわけじゃない。例の他所の農家で働くことに関して、そのバイト先に確認事項と挨拶を兼ねてこれから向かうところだ。


 そんな俺はその農家さんとこの件も含めて一先ず中村家に来た次第である。


 「いやー高橋君がバイト以外でうちに来るなんて新鮮な感じだねー。私服姿だし」

 「そうですね。バイトの面接みたいな気分ですよ。受けたことないですけど」


 「なんかぱっとしない格好だね。あの“社畜”とか“残業”とか書かれたTシャツは?」

 「いや、逆にあっちがそれで来られたら反応に困りますよ」


 「良いセンスだと思うけどなぁ。話はこっちで大体しているから、軽く挨拶で良いからね」

 「はい。ありがとうございます」


 平たく言えば、俺が他の農家で働くのは中村家の今後の利益向上のためだ。俺が中村家でばんばん働くとその分人件費で最終的な収入が減ってしまうので、そのための対策でもある。


 加えて、その農家の方々が育てている野菜の一部を中村家の直売店で売ることで品数の増加などメリットもある。バイト野郎を上手いこと利用したな。


 いやー、緊張するなぁ。中村家みたいに優しい農家なら良いなぁ。そう言えば、先方の名前を聞いてなかった。


 「あの、お世話になる農家の方って―――」

 「あ。葵が帰ってきた。じゃ、あとは葵に任せてるからお願いね」


 今日は平日だし、葵さんも女子高生だから当然、学校に通っている。雇い主が俺の後ろから中村家に帰って来たであろう葵さんに反応した。


 俺は葵さんに挨拶しようと振り返る。


 が、


 「あ、和―――高橋君、こんにちは」

 「ええ。おかえりなさ―――あばしゃぁぁあああ!!」

 「え?! ど、どうしたの?!」


 吐血してしまった。


 当然だが、学校帰りの葵さんは制服だ。JKを感じさせる葵さんのその姿に俺は大ダメージを食らってしまったのだ。白のワイシャツに、緑色をモチーフにしたスカート。普通っちゃ普通だが葵さんが着るからか、破壊力がすごいのなんの。


 特に巨乳ではち切れんばかりのワイシャツがもはや世紀末(語彙力)。


 「大丈夫?! 風邪?!」

 「がはっ!.....風邪じゃ吐血しませんよ。葵さんがあまりにもエッロいから」

 「っ?! そこは『可愛い』とか『綺麗』とか言ってよ!!」

 「嘘は付けません」

 「“遠慮して”って言ってるの!!」


 「エッロい」って褒めたからか、葵さんの顔が赤い。


 あー。ここに来て見たことなかったからなぁ。陽菜の制服姿も可愛かったけど、やっぱ巨乳にワイシャツは駄目だよ。ワイシャツってのははち切れ具合で、真の価値を見出せるんだ。


 「葵さん、このままデート行きましょう」

 「いや、バイト先に挨拶しに行くんだよ?!」

 「あ、自分、一度だけ“制服ディ〇ニー”してみたかったんです」

 「わかった! この制服がいけないんだね?! すぐ着替えてくる!」


 そう言って葵さんは俺を置いて着替えに行った。くそ。


 しばらくして葵さんが中庭に来たので、当初の予定通り他所の農家に向かう。道中、葵さんと俺は軽く世間話でもしていた。


 「あの、そういえば聞いてなかったんですが、これからお世話になる農家の方の名前を知らないんですが」

 「あ、ごめんね! 言ってなかったよね。“西園寺さいおんじ”さんだよ」

 「へー。“西園寺”さんですかぁ」


 ヘルプ先の農家は西園寺って苗字なんだ.....ふーん.....へー........。


 「.....マジですか」

 「?」


 ちょっ。西園寺って会長みさきさんのことだよね? は? なにその確率。“西園寺”なんて苗字そういねーよ。


 「ここが西園寺家。うちと違って先祖代々野菜を市場に出荷しているから勝手が違うかもしれないけど、和―――高橋君なら大丈夫だよ」

 「.....。」

 「高橋君?」


 いや、同じ中学だったし、近辺に住んでいるんだろうなとは思ってたけど、マジかよ。


 正直、現状で“関わりたくない人ランキング”ぶっちぎりで1位だよ。


 「ごめんくださーい!」

 「.....お邪魔します」


 俺は今更引き返すことなんかできずに、葵さんと一緒に西園寺家に入った。中村家と同じくらい広くて、大きい木造建築って感じの家だ。農家のイメージと言えば、まさにそれである。


 「おっ! 来たか。葵ちゃん! こっちだ」

 「こんにちは、けんさん。忙しいところすみません」

 「良いってことよ! それに今日の仕事はもう終わりだ」


 笑顔で出迎えてくれたこの人が西園寺家の当主、西園寺 けん。見た目は50代後半のような人相だ。体格も、少し腹は出ているが腕が太い。力仕事が多いのだろう。


 今日はもう仕事終わりと言ってたっけ。どんな仕事するんだろ。


 「こんにちは。高橋 和馬です」

 「ほうほう。おめーさんが、世にも珍しい農家でバイトする和馬君か」


 世にも珍しいって......。


 「結構ガタイ良いじゃねーか!」

 「はい。葵さんのおかげで最近筋肉がつくようになりました」

 「ちょっ! 違いますよ?! 彼のは先天的な筋肉です!」

 「?」


 なんだ先天的な筋肉って。こんなゴツくねーよ。


 「ま、農家って言っても千差万別だ。同じ野菜でも栽培方法・時期が違ってくると仕事も変わってくる。色々とわからないことがあるかもしれないが、これから頼むぞ」

 「はい! 精一杯頑張ります!」

 「元気良いじゃねーか! 和馬、気に入ったぞ!」


 なんか明るくて良い人だな。


 今のとこ会長さんは見かけない。まさか同じ苗字で家が違ったなんて“西園寺”という珍妙が許さないだろう。きっと家に居るのか、まだ帰ってきてないのかの二択である。


 「おっ! 達也たつやー! ちょうどいい、こっち来い!」


 俺は健さんが呼んだ人が居る方を振り向いた。そこには作業服越しからでもわかる、健さんよりもムキムキマッチョな達也たつやと呼ばれる巨漢が居た。


 で、でけー。180、いやもっとあるなぁ。


 「こんにちは。これからお世話になります、高橋 和馬です!」

 「ほうほう。お前さんが、絶滅危惧種の農家でバイトする和馬君か」


 絶滅危惧種.....。


 「俺は達也だ。結構良いガタイしてんじゃねーか!」

 「はい。どこぞの筋肉フェチのおかげです」

 「目指すは達也さんだねっ!!」

 「?」


 もう誤魔化す気はないらしい。開き直ってんじゃないよ。


 というか、親子だからか同じ感じで返してきたな。


 「じゃ、今後について少し話し合うか」

 「そうだな」

 「和―――高橋君は農家ではないので、しっかりと仕事内容を教えてあげてください」


 こうして俺たち4人は今後のバイト野郎のバイトスケジュールについて話し合った。メインは中村家が忙しい時間帯の日曜日の午前中だ。中途半端だけどな。加えてたまーに平日の早朝バイトも仕事内容で、俺が登校する時間まで働いてほしいらしい。


 さてさて、これからどうなるんだか。心配なバイト野郎であった。



―――――――――――――――――――――



ども! おてんと です。


西園寺 健さん(父)、達也さん(息子)の会話に区別がつきにくいかもしれませんがあまり気にしないでください。


というか、わかりにくいですよね。許してください。


それでは、 ハブ ア ナイス デー!

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