第119話 スイカを撲滅するイベント
「スイカ割り?」
「そ。小さい頃やったことない?」
「はぁ」
天気は晴れ。今日の午前中は普通に仕事をしたが、午後はどうやら違う仕事のようだ。というか、そもそも仕事じゃない。
なぜか。それは今から“スイカ割り”を行うからである。昨日、話していた陽菜の受験はどうなったんですかね。受験勉強しなくていいんですか? いや、俺の高校にちゃんと合格できるとかの話じゃなくてね。ちょっと心配だよ。
なお、俺が『学々高校』に通っていることは千沙以外、皆知らない模様。言ってないしね。一応、千沙にも口止めしておいた。口止めする理由は千沙に言わなかったが。
「なによ、乗り気じゃないわね」
「いや、仕事しなくていいのかなって」
現在、このクソ暑い中、中村家の中庭にて俺と皆は集まっている。
「あらあら、泣き虫さんは私たちに働けって言いたいのかしらぁ」
「い、いや、そうじゃなくてですね! 自分はただ―――!」
真由美さんが嫌味な言い方をしてきた。
「たまにはいいじゃないか。うちが収穫できるスイカはもうここにあるヤツで最後なんだ。スイカ割りで締めくくろう」
「い、いいんですか? 自分まで」
「いいの、いいの」
雇い主が俺にそう言ってきた。住み込みバイトなのに遊んじゃっていいのだろうか。日頃お世話になってるから役に立ちたい気分である。
「高橋君だってたまには遊びたいでしょ?」
「自分は別に....」
「遊びたいでしょ?」
「....。」
「でしょ?」
「....はい」
「よろしい」
葵さんはこういうイベントごとが好きなのかな。言っちゃ悪いけど、スイカ割りって子供がするような遊びですよね。ここにいるのは最低でも中学三年生ですよ。
「まぁ童心に返ったつもりで楽しみましょう」
「千沙まで....。なんか意外だね」
「こういうイベントは嫌いじゃないです」
「へー」
「日頃のストレスをスイカにぶつけられますからね!」
お前の生活のどこにそんなストレス溜まる要素があるのだろうか。人生でお前ほど夏休みを満喫している奴は見たことないよ。
そんな乗り気じゃないバイト野郎に雇い主が何かのスプレー缶を渡してきた。え、なにこれ。
「まぁそんなに働きたいなら“蜂の巣の駆除”を頼むけど」
「すみません、正気の沙汰とは思えないんですが」
「ちなみに防護服は無いよ」
「すみません、正気の沙汰とは思えないのですが」
「スズメバチって蜜作るのかね。作ってたら食べてみたいかも」
「すみません、ハチミツよりスイカが食べたいです」
もう蜂の巣の駆除はバイトの域を超えてますよ、雇い主。しかも防護服無いって........。死ねってことですよね。あとスズメバチは蜜作りませんから。
.....なんか僕ぅ、スイカを撲滅したくなってきましたぁー。
ってことでやりましょう、スイカ割り。
「よし、まずは順番を決めよ!」
「無難にジャンケンで決めますか?」
「そうね! じゃあ勝った順にしましょ!」
「....ちょっと待ってください」
「「「最初はグー、ジャンケン―――」」」
「タイム、タイム、タッーーーーーーイム!!」
俺はジャンケンを始めようとした3姉妹にストップをかけた。3人はそんな俺を不思議そうに見つめた。
「どうしたの? 高橋君」
「なんですか、まだ駄々をこねる気ですか」
「和馬、いい加減諦めなさいよ」
「そうじゃなくて!」
「「「?」」」
「なんですかこの小奇麗な“
俺はスイカの横にあった新品の鍬を指して3人に問いただした。まさかとは思うけど、コレ、農業に使う道具でスイカ割るわけじゃないよね?
「え、スイカ割りに使うんだよ?」
その“まさか”だったよ。
「鍬で?!」
「去年のスイカ割りに使っていた木刀がどっかにいったのよ。同じ棒だし、いいんじゃないかしら」
「土掘るための道具だぞ!」
「はは。そっち側は使いませんよ。逆にして木の棒の方を使うんです」
「そういう問題じゃなくね?!」
「農家ならではのローカルルールってやつですね」
「農家でもスイカ割りに鍬は使わねーよ!」
「まぁ衛生面はきちんとしてるから大丈夫だよ。ちゃんと洗ったしね」
「は、はぁ」
「じゃ、さっそくやってみよ!」
まぁ見るからに新品だからそこらへんは平気かな。いや、いいのかコレ。
俺らは4人でジャンケンして順番は陽菜、千沙、葵さん、俺の順となった。さて、千沙の言った通り、童心に返った気分で楽しもう。
ちなみに真由美さんと雇い主は参加しない。大人は食べ専ですか。
「よし、じゃあさっそく始めようか! さ、陽菜以外の人は皆、割り箸取って!」
葵さんの合図で陽菜以外の観客は皆、葵さんの握っている割り箸を取ろうとした。え、なんで?
「葵姉、和馬はソレを知らないんじゃないかしら?」
「あ」
「詳細説明キボンヌです」
「兄さん、それ死語です」
「泣き虫さんって意外と時代遅れなのねぇ」
「ぶはははは! 高橋君、今時の子は『詳細教えてクレメンス』って言うんだよ」
雇い主の笑い方がすごい。いや、あんたのそれも死語だろ。
「えーっとね、ただスイカ割りするのも面白くないでしょ?」
「まぁ、見てる側は少し物足りないですよね」
「観客も楽しめるよう導入したのがこの“割り箸チームプレイ制度”だよ」
「割り箸チームプレイ制度?」
「そ。
「ほうほう」
「で、割り箸の先端の赤色か白色かでチームに分かれます」
「それでプレイヤーがスイカを叩き割る際に
「高橋君は本当に理解が早くて助かるよ.....」
どこか残念がる葵さんの顔だ。バイト野郎が最後まで説明をさせなかったからですか? さーせん(笑)。
そんな葵さんに代わって千沙が残りの説明をする。
「今回はプレイヤー以外、2チームに分かれるとしたら赤と白チームが2、3人になるわけです」
「平等って意味で割り箸は“6本”か」
「そうです」
つまり観客はプレイヤー以外で5人なんだが、コレだと当然1本余ることになる。だがこの方がある意味平等だ。
例えば、予め2人、3人だけと決めてしまうと人数が少ないチームは不利になるからな。回ごとに有利性が動けば、両チーム楽しめるってことね。
「もちろん、これは回ごとに割り箸を引き直しますから、最終的には勝ったチームにいる回数の多い人が優勝者です」
「面白そうだな」
「わ、私が考えました。そ、そんなに褒めなくてもいいですよ」
「え。あ、うん。すごいすごい?」
千沙がなんか照れてるし。
なるほどね。これなら毎回引き直すからチームで何度も同じ人と協力する確率は低くなるわけだ。
でも勝敗を決めるのは良いにしても、肝心の報酬はなんだろ。ここは中村家、ただの勝敗決めで終わりじゃあるまい。
バイト野郎、思わず警戒してしまう。理由は言わずもがな。葵さんに聞いてくれ。
「え、優勝したチームには何があるのかって?」
「あー。たしかにあるとモチベに繋がるわね」
「に、兄さんってなんでそんな“損得”ばかりで物事を考えるんですか?」
「べ、別にそういうわけじゃないぞ!! だってあの葵さんがいるし」
葵さんが割り箸で俺の頬をぐりぐりしてきた。い、痛いですからやめてください。
「ちょっと高橋君! 先輩にそれは失礼じゃない?!」
「禿同ね」
「禿同だわぁ」
「禿同です」
「禿同だね」
「ほら」
「ひどッ!!」
バイト野郎の発言をきっかけに
それに勝ったら1ポイントという設定だから、最終的には同ポイントの人もいる可能性がある。
「さ、説明も終わったことだし、始めよ!」
「陽菜、目隠ししてください」
「はーい」
「あなた、風でそこのブルーシートがめくれているから直しといて」
「石でも乗せとくか」
.....なんか嫌な予感がするな。ただの娯楽の域で済めば良いんだけど、このスイカ割り。
―――――――――――――
ども! おてんと です。
ということで、次回から“スイカ割り”回です。読者の皆様も、ぜひ誰が優勝するか予想しながらお楽しみください。
ちなみに『色分けの役割』は次回説明します。書かなかった背景には作者の疲労があります。許してください。
スイカ割り、やりたいなぁ...。
それでは、ハブ ア ナイス デー!
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