第111話 お願い! 妹よ!!

 「で、私にお願いしたいと」

 「そうです。お願いします! 千沙様! 神様! 仏様!」


 俺は今日の仕事を一通り終えて、千沙のいる部屋まで直行してきた。もちろん予めお風呂に入って身体を綺麗にした。頼みごとするのに小汚い作業着姿で行っては失礼だからね。


 「嫌ですよ。面倒くさい」

 「そんなぁ。頼むよ! 妹なんだからたまには兄の頼み事聞いてくれ!」

 「妹がなんでもしてくれると思ったら大間違いです」


 あれれ。おかしいな、いつも兄に駄々をこねる妹がなんか言ってる。一回くらい言うこと聞いてくれてもいいじゃん。ケチ。


 「そ、そこをなんとか」

 「しつこいですねー」

 「千沙えもーん」

 「誰が青ダヌキですか」


 どうしよ。このままでは俺が危ない。1日2日ならまだいいけど、これからの住み込みバイトをどうやって過ごせばいいんだ。


 「大体、その話おかしくありません?」

 「え、どこが?」

 「妹にスマホのデータバックアップ頼むところですよ!」


 そう、俺は先ほどのゴーヤの収穫の仕事の際、陽菜と葵さんにクイズ勝負で惨敗した。葵さんのことは後で考えるとして、まずは陽菜の要求する罰ゲームの対策を考えなければ。


 「陽菜に消されるのは確定なんだぞ!」

 「だからって妹のPCでバックアップは馬鹿ですよ!」


 「データはどうすればいい? またネットサーフィンしろってか? そんなの切りがない。サーフィンどころか漂流ドリフトだよ、漂流ドリフト

 「勝手に彷徨っててください」


 「お前に優しさは無いのか?!」

 「兄さんに遠慮は無いんですか?!」


 お前だって普段遠慮しないじゃん。むしろ自由奔放に生きてんじゃん。


 「陽菜に消されるデータはばかりなんでしょう?」

 「おう」

 「なにが『おう』ですか。よくそれを妹に頼めますね」

 「だってお前、俺のTE〇GA EGG知ってんでしょ。じゃあもういいよ」

 「か、完全に開き直りましたね......」


 千沙が人の留守中にバッグにしまっておいたEGG見つけたんだろうが。俺だって知られたくないわ。今度、千沙の部屋に入って全力で電マ探そうかな。


 「一旦、家に帰ったらどうです?」

 「そうしたいのは山々なんでけど、あと少しで夕飯の時間だし、なにより陽菜が見逃がしてくれない。飯食ったら即・処される」

 「お、お気の毒に」


 困ったな。家に帰ってバックアップするのが一番良いんだけど、それをどう真由美さんたちに説明するかだよな。「オカズをセーブしておきたいんで高橋家に帰りまーす」なんて口が裂けても言えない。


 「じゃあクラウドバックアップはどうです?」

 「あぁオンラインで自分のデータを預けるやつか? あれ、無料だとバックアップのデータ量が制限されんじゃん。全然足らないよ」

 「どんだけストレージ埋め尽くしてんですか! 頭の中身だけじゃなくて、スマホの中身まで変態まみれですよ!」


 変態まみれってなに。しょうがないじゃん、多感な時期なんだし。舐めんなよ? これでも足らないくらいなんだぞ。なんたって息子は“連戦ロマン砲”の異名をもつからな。


 「それにこれは千沙のためでもあるんだぞ」

 「?」

 「千沙、俺、ムラムラしたときに発散できないと夜な夜な千沙を襲っちゃうかもしれない」

 「っ?! ほんっと最低ですね! 妹をそんな目で見てたんですか?!」


 と、言われましても。お前は俺のことをお兄ちゃんだと思っているが、俺はもう千沙のことを妹以前に異性だって思ってるし。時間が経てば兄妹のような意識になるかなと思ってたけど無理な話だった。


 「どうしようかなぁ」

 「知りません。もういいんじゃないですか? 諦めましょう」

 「最悪、オカズを厳選して優先順位を考えながらクラウドバックアップするかぁ」

 「よ、よく女の子の前でそんなこと言えますね。ドン引きを通り越して尊敬しますよ」


 光栄ですこと。こんなこと言っても全然距離をおかない千沙がお兄ちゃん大好きだよ。あ、そうだ。試しに一番の解決策を言おうかな。


 千沙が愚息の世話をしてくれたら全部解決するんだよ?って。


 言ってみってぇ。この夏最大のセクハラだよね。言ったら冗談で済まされない。“通報”か“子づくり”かの2択しかないよね。怖いから言えないけどさ。


 「まぁ、なんとか考えるか。千沙、邪魔したな。じゃ、また後で――」

 「あ、いや、ちょっと待ってください!」

 「?」

 「よくよく考えたらメリットあるじゃないですか」

 「え、なにが」

 「いえ、こっちの話です」


 意味がわからん。なんの話? まさかさっきのバックアップの話? え、お前にメリットあんの?


 「どうした急に」

 「スマホ貸してください」


 「え、いいの?」

 「ええ。気が変わりました。好奇し......じゃなくて妹の慈悲です」


 「ねぇ今“好奇心”って言おうとしなかった?」

 「いえ。兄さんの気のせいです」


 「さっき“メリット”って言わなかった?」

 「いえ。兄さんの気のせいです」


 ちょっと怖いんですけど。さっきと言ってること180度違うけどやってくれるなら頼も。


 「じゃ、お願い」

 「ええ。ではバックアップをするんでパスコード教えてくれません?」

 「あ、いや、自分でパスコード打つわ。っていうかパソコン貸してくれない? あとは自分でやるし」

 「はぁ? 何言ってるんですか! これ私のパソコンですよ!」


 千沙がぶち切れてキーボードを軽く叩いた。......そういえば昔、キーボードク〇ッシャーが流行ってたよなぁ。あ、今関係ないや。


 「うっ....。だってお前にデータ見せるんでしょ? は、恥ずかしいじゃん」

 「なにを今更.....。第一、そうしたら兄さんに私のパソコンのデータも見られちゃうかもしれないじゃないですか」

 「なに、あっち系の電子書籍とかAVでも入ってんの?」

 「な、ななわけないじゃないですか!」


 .....あるのね、その反応。超気になるんですけど。


 「なんですか! 画像や動画を見ずしてバックアップ操作しろって言うんですか?!」

 「で、できない?」

 「そんことしたくないですよ! っというか、兄さんがどんなオカズを好きなのかくらい知る権利あると思いません?!」

 「ないわッ! 途轍もなく恥ずかしいから吟味するな!」


 たしかに、このまま陽菜に消されるよりは千沙にオカズデータ見られてでもデータを死守した方が幾分かマシである。......いやマシなのか?


 「ほら時間ありませんよ」

 「諦めるかぁ」

 「あ、もしスマホの操作間違ってパスコード打つ羽目になったら面倒なので教えてください」

 「まぁ、またパスコード変えればいいか」

 「いや、今後変えなくていいですから」


 なんでだよ。変えなかったらこれから千沙に見られちゃうだろ。とりあえず適当に返事してあとでこっそり変えよう。俺はパスコードを教えて千沙にスマホを渡した。


 「はい、俺のスマホ。頼むよ、妹」

 「了解です!」


 元気いいね。そんなに人のプライバシーなとこ見るの楽しみ? 俺はその場で千沙がバックアップに取り掛かる様子を見ていた。


 「兄さん」

 「はい、なんでしょう」


 「なんでまだここにいるんですか?」

 「やっぱ駄目?」


 「見られたくないってさっき言いましたよね?」

 「......。」

 「出てってください!!」


 俺は千沙の部屋から追い出された。特にすることもないので、千沙の部屋の前で体育座りしながら終わるのを待つ。


 大丈夫なんだろうか。心配である。いや、信じよう。千沙はそんな子じゃない。きっとできるだけデータを見ずにぱぱっとバックアップしてくれるさ。


 『あんッ......そこらめぇ! あッあッあッ!』

 「うっわ、コレ激しいですね。パンスト破った方が萌えるんでしょうか」


 「......。」


 部屋の向こうから独り言を言う千沙の声と聞き覚えのある動画のこえが聞こえる。


 「あぁーもうっ!! ジャンル別で分けてほしいですね! なんでパンスト娘の次が洋モノなんですか?! 仕方ありません。ここは“できる妹”としてファイルを整理してあげましょう」


 .....やめてください。



――――――――――――――


ども! おてんと です。


昨日、例の「第Q話 下ネタ系で農業ラブコメディー?」を1章の前に公開しました。ぜひご笑納ください。


それでは、ハブ ア ナイス デー!

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