閑話 桃花の視点 放置女子中学生
「退屈ぅー」
部活から帰ってきた私は自室でくつろいでいる。今日の部活は午前中で終わり、午後は予定がなく、暇である。
「陽菜は足を怪我しちゃって部活来ないしー」
陽菜は数日前に軽く捻挫したらしくて、ここのところずっと部活をお休みしている。なんで怪我したんだろ。おかげでこっちは暇すぎて死んじゃいそうだよ。
本当は同年代の子と遊びに行きたいが、私も友達も受験生だ。だから皆、空いた時間は図書館や塾に通ったりして一日を過ごしている。誰も構ってくれない可哀想なJC・桃花ちゃんだ。
「お兄さんも相変わらず住み込みバイト頑張っているっぽいしー」
少し前にお兄さんと大都会に行ってデート体験した時は楽しかったなぁー。ああやって一度娯楽を味わっちゃうとその後の暇な時間が憂鬱である。
「本当は私も勉強しなきゃいけないのはわかっているんだよ? でも将来の夢とか見つかんないし、どこの高校へ進学したいかすら考えてないもん。猛勉強するほど目標が見つかってないんだからする気がでないなぁ」
最近、やたらと親から進路に関して連絡がくる。今は祖父母の家から学校に通っているので両親とは離れ離れだ。夏休みくらい実家に戻った方が良いのかもしれないけど、ストレスが溜まりそうなので帰りたくない。
「それに勉強しなくても頭良いから焦る必要がないんだよね」
自室だからって独り言を言い続ける私は退屈な日々に嫌気でも差したのか、外出しようとした。特に行きたい所とかないんだけど。
「桃花ぁーどこかいくんかい?」
「うん、ちょっと出かけてくるー」
私はおばあちゃんにそう返事をして家を出た。外に出ると冷房の効いた自室とは違って外は蒸し暑い。夏に文句を言ってもしょうがないが、外出したことに早速後悔しそうだ。
「この辺、涼むところがカフェかスーパーくらいなんだよね。カフェだと絶対に知り合いがいそうだし、スーパーかな」
買う物はないけどとりあえずスーパーに行こう。
「あら、桃花ちゃん?」
「あ、
私は暑かったのでアイスを買いに向かったら、なんと偶然にもお兄さんの母親とスーパーで会ってしまった。
「久しぶり。元気だった? 今は夏休みだよね?」
「はい。もう毎日暇で暇で死んじゃいそうです」
お兄さんが言うには智子さんは色々な仕事で忙しくて家に全然いない。父親も単身赴任で家を留守にしている日が続いているらしい。
「こちらに帰ってきているということは仕事はお休みなんですか?」
「そ。久しぶりに家族サービスをしようと思ったら
「はは。残念ですね」
智子さんと最後に会ったのは例のお兄さんが私を“一瞬ママにした事件”以来だ。なんとか誤解は解けたが、正直気まずい。嘘とは言え、お兄さんとの肉体関係を家の前で叫んだんだ。なんか罪悪感が湧いてきた。今更だけど。
「久々に家に帰っても暇とは、私ってばなんてかわいそうなマザーなんだろう」
「私もです。花の女子中学生なのに日々暇とは、私ってばなんてかわいそうなジェーシーなんでしょう」
「「ふふ」」
私と智子さんは買い物を済まして帰宅した。ちなみに買おうとしたアイスは智子さんが買い物ついでに買ってくれた。しかもケーキまで。奢ってくれた理由はこの後、高橋さんちで女子会(?)を開くからだろう。
私自身もそんな面白そうなイベントは願ったり叶ったりなのでぜひ付き合いたいところである。
「へぇー桃花ちゃん、夏休みを満喫してないんだぁー」
「と、智子さん、酔ってます? まだ日は高いですが酒飲んで平気なんですか?」
「へーき、へーき。二日は休日取っているからぁ」
まさかまだおやつの時間帯なのにプシュッとやるとは思っていなかった。しかも1時間足らずでもう空き缶を3個作ってる。すご。
「桃花ちゃんも飲む?」
「いや中学生ですよ。まだ二十歳じゃないんで飲みません」
「飲まないと帰さないぞッ!」
初対面ってわけじゃないけど、出会って数日の関係でアルハラされるとは思ってませんでした。私はさっき智子さんが買ってきてくれたガルピスで結構です。
「桃花ちゃんって何年生?」
「中3です」
「あらやだ、受験生じゃないッ! 付き合わせちゃって、ごめんね! 勉強で忙しいのに悪いことをしたね!」
私のその一言で一発で酔いが醒めた智子さん、受験生相手にだる絡みしたんだ。悪いことをした気持ちにでもなったんだろう。
「いえいえ! 特に勉強とかしてませんし、暇なのは本当ですから!」
「え、えぇー本当? 中卒志望?」
「進学志望です....」
そこまでぐれてませんよ。
「塾通っているとか?」
「全く....」
「高校決まっているの?」
「これっぽちも....」
「将来の夢とかは?」
「ないです.....」
さすがに他所の家の親でも受験生がこんなんだと心配らしい。まぁ受験生の夏休みだもんね。焦っていない私が可笑しいのだろう。
「またなんで......」
「....見つからないんです」
「見つからない?」
「はい。将来の夢や、やってみたいこと、学びたいこと、行きたい高校すらまだわからないんです」
私は親にも友達にも、日頃良くしてもらっている祖父母にすら進路について相談したことないのに、全く関係のない他所の母親に人生相談をしてしまった。
「で、でも少なくとも勉強はしないと、もし“したいこと”が見つかったときに損はないわよ?」
「....嫌な言い方しますけど、私、勉強しなくても頭良いんで」
「そ、そう....」
『プシュッ!』
今、真剣な話の最中じゃなかっただろうか。同情した顔で新しい酒に手を付ける智子さんのメンタルが計り知れないです。
まぁ所詮は他人だもんね。
「ぷっはーー!!」
「....でも友達は皆、受験で忙しいか、部活で大会出場を目指して頑張ってるんで誰も私に付き合ってくれないんです」
相手が酒に夢中になってこっちの話をまともに聞いてもらえないことを良いことに私は日々の鬱憤を愚痴というかたちで吐く。
「そりゃあそうでしょ」
「......。」
部活も別に熱心にやっているわけじゃない。友達がやっているからなぁなぁでやっているに過ぎない。ただの時間つぶしだ。
「なんで皆、受験日前日とかじゃダメなんでしょう?」
「うん、徹夜が利く学校の定期試験とは違うからね」
「なんでただのスポーツって割り切れないんでしょう?」
「うん、部活を頑張って青春したいだよ」
私の悩みに軽く返事をする智子さん。別に真面目に考えてほしいわけじゃないけど、少しくらい気の利いた返事くらい返してもいいんじゃないだろうか。
「ちなみにご両親はなにか進路について言ってるの?」
「いえ。『どこ行きたい?』とか『何がしたい?』しか聞いてこないので相談してませんね」
「桃花ちゃんからするつもりないの?」
「そりゃあ、いつかはしなければいけませんけど、両親に変な期待されているから言い出せなくて」
「なるほど」
変なの。偶々スーパーで会ったただのご近所さんなのに今までにないくらいすらすらと思っていたことを話せちゃう。お兄さんのお母さんだからかな。
だからなのか、気になっていたので、
「お兄―――和馬さんはどうだったんですか?」
お兄さんのことを聞いてしまった。
「和馬はまぁ....私や夫があんま家に居なかったし、相談らしい相談はできなかったから自分で何事も決めてたわね」
お兄さんらしいと言えばお兄さんらしいかな。
「志望理由とかは言ってなかったんですか?」
「徒歩、電車通学を必須項目に、どれだけ家から距離があるかを条件に高校決めてたっけ」
「近い高校なら電車を使わずにあるのになんでですか?」
「高校で『彼女』ができたときに理想とする帰宅時間を考えていたらしい」
意外とふざけた理由で進学する人もいるんだね。それって家から近すぎると一緒に彼女と帰る時間が少なるからってこと? きっも(笑)
「でもその肝心な“彼女”がまだできてませんよ」
「そうなんだよねー。....桃花ちゃんどう?」
「嫌ですよ、あんなの」
「あ、あんなのって。私、
おっと、私としたことが。つい本音が。
「ま、あいつに彼女ができたら、その子の正気を疑っちゃうけどね」
あなたの息子さんですよ。良いんですか、そんなこと言って。
「もしかしたら、その子、和馬に何か弱みを握られているかもしれないし」
「....。」
「和馬が馬鹿みたいにその子に貢いでいるのかもしれない」
「........。」
「いや、相手がB専なのかも....」
「..........。」
さすが、お兄さん。母親にまでこの言われよう。ここまでいくとむしろ尊敬すら覚えてしまう私である。こうして私と智子さんはしばらく世間話でもしながら時間を潰すことにした。
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