第97話 葵の視点 バイト代出るよ

 最初はいつもの両親の喧嘩だった。


 女性のエチケットナプキンについて高橋君を巻き込むことは嫌だった。だって恥ずかしいんだもん。それに馬鹿らしいし。


 でも彼の一言で、私の中で彼を見る目が変わったのは確かだ。


 「なんですか、ナプキンで。やかましいですね? ただの紙じゃないですかあんなの」


 この一言に私たち家族は驚いた。まさか高橋君がそんなこと言うとは思っていなかったからだ。


 「か、和馬? 急にどうしたの?」

 「いや、率直な意見を言ったまでだ」


 “率直な意見”って。未だ信じらない私である。たしかに普段、セクハラとかエッチな視線を送ったり、実際に行動に移したりするからこんな発言してもおかしくない人だ。


 「な、泣き虫さん?」

 「いいですか? ナプキンなんてただの紙じゃないですか。製品裏に『男性は使っちゃいけません』なんて書いてあるんですか?」

 「そ、そういう話じゃなくて―――」

 「ちょっと質の良い上品な紙でケツを拭いたくらいで大袈裟です」


 でも、少なくとも彼はこんな風にはしないはずだ。そのはずなんだけど。


 「に、兄さん? わかってます? エチケットの重要性の話ですよ? まぁたしかに今回は少し敏感になりすぎている面もあるかもしれませんが」

 「またこういうことが起こらないようにってか?」

 「え、ええ、そうです。」


 高橋君もわかっているはずだ。そういうことを言うのことは女性わたしたちにとって嫌われることを。


 「あのなぁ千沙。俺も、う〇こ拭くときに紙が無かったら棚からナプキン取り出して使うぞ?」

 「っ?!」

 「感じないな。ケツ拭くことが優先だよ」


 なのに嫌われることを平気で言う彼だ。こんな性格じゃないはず。いつだって他人のことを自分より優先して物事に気配りができる彼だもの。


 「まったくバカバカしいですね! そう思いませんか?」

 「え?! 俺?!」


 そう言って急に父さんに向かって語り掛けた高橋君。まさかお父さんの味方でもする気なのかな?


 「いやいや、君ほど吹っ切れていないよ!」

 「そうですか? 生理のために使うものでもそこにあるんでしたらケチケチするなんて変ですよ」


 「さ、さすがにそれはどうかと思うよ」

 「どの辺がですが?」


 「いやだって―――」

 「そもそも生理の血を外に漏らさないための物といっても、う〇こも歴とした生理現象です」


 「そうかもしれないけどさ!」

 「その汚れを拭かないと『汚い』と罵られ。紙が無いからナプキンで拭いたら『最低』と見下される....変な話だと思います」


 「でも....それでも女性の繊細な面を冒したんだ。反省しないといけないに決まっているだろ!」

 「なんですか? 同じ男性だから、同じ価値観かと思っていましたが、女性寄りの意見じゃないですか」

 「親しきに仲にも礼儀ありっていうくらいは犯した過ちは認めなければいけないよ!」


 ああ、そうか。これが彼のやり方なんだ。どうでもいい家族の面倒ごとにも彼はこうやって真面目に付き合ってくれたんだ。


 なんでこういうやり方しかできないのかなぁ。


 「まぁいくら女性にとって大切だからと言っても、緊急時くらい別にいいじゃないですか。ですよ―――――」

 「あんた、いい加減にしなさいよ!」


 高橋君のその言葉に我慢しきれなかった陽菜が怒鳴りだした。普段、高橋君に好意を抱いている陽菜でも怒るんだ。


 「『いい加減にしろ』はこっちのセリフだよ」

 「っ?!」

 「皆さん、良く考えてください。今、何時ですか?」


 私たちはここから近くにある壁に掛かったアナログ時計を見る。時間は10時をとっくに過ぎていた。喧嘩騒動をしてから1時間は経つかな。それがどうしたんだろ。


 「自分はバイトしに来たんですよ? こんなくだらない面倒ごとに巻き込まれて1時間ちょい無駄にしました」

 「に、兄さん....」


 「学生がバイトする理由なんてですよ、

 「そ、それはごめんなさいね」

 「ええ。ですから早く仕事に取り掛かりましょう?」


 嘘つき。そんなのはただの口実でしょ。本当はお給料なんて眼中にないくせに。


 「さーて、今日は何をしましょうか!」


 彼がこちらに背を向けて伸びをする。自分のした行動に負い目を感じているのだろう。そうやってわざと自分を犠牲にして、この場をなんとかしたかった彼だ。


 私はそういう彼が本当に苦手きらいだ。





 私たちは高橋君のお陰で、時間は多少短くなったが通常通り仕事を行った。


 高橋君にはお昼までの間、草むしりの仕事を頼んだ。私はお昼ご飯に使う、トマトやキュウリを収穫しに行って今ちょうど家に戻ってきたところである。


 南の家には珍しく仕事着から着替えた母さんと陽菜がキッチンにいた。普段、お昼は私か、母さんのどっちかが作るけど、ここ数日は軽い捻挫をした陽菜が家に居るので家事を任せているのである。


 「はい、これ。....珍しいね? 夕飯のときはよく3人で作るけど、お昼ご飯にこの人数だなんて」

 「葵姉、キュウリ採ってきすぎ....」

 「そうねぇ。ちょっと相談事してくて、料理のついでといったとこかしら」


 高橋君のことでしょ。伊達に私たち親子してないからね。


 「? ママ、お昼は冷やし中華よ?」

 「そ、そうじゃなくて」

 「あ、晩御飯なにするかってこと?」

 「そ、そっちでもないわぁ」


 陽菜は本当に鈍いね....。


 「高橋君のことかな?」

 「....。」

 「ああ! そっちね!」


 「....やっぱり今朝のこと?」

 「....ええ。泣き虫さん、あれってもしかしたら―――」

 「よ、あんなの」

 「「っ?!」」


 “必要悪”....言い得て妙だね。彼はまさしくそういった行動をしていたと思う。


 「パパだって後々になって反省しているはずよ。でも、それをいつまで経ってもママにちゃんと伝わっていないから、変に意地を張って、空回りしちゃって。......バカよね」


 陽菜が野菜を切りながらそう言った。その顔はどこか呆れ顔のようにも見えた。


 「....そうだね」

 「....泣き虫さんはそれに気づいてたから、あんな風にらしくもないことを言ったのかしら。あの人の口からそう言わせるために」

 「あたりまえでしょ? いくら変態な和馬でもそれくらいの分別は理解しているつもりよ」


 最近、陽菜は依然と違って恥ずかしがらずに高橋君のことを語る気がする。なにかあったのだろうか。


 「まぁ私も後になってわかってきたけど。....和馬って本当に―――」

 「「?」」

 「な、なんでもないわ!」


 陽菜も素直じゃないなぁ。見ているこっちが痒くなるよ!


 「ふふ。じゃあ今日は泣き虫さんがいるんだから、ごちそうを作らなきゃいけないわねぇ」

 「いいわね!!」

 「はは。たった三日間いなかっただけだよ」


 たしかにこの三日間、彼のいない生活は少し寂しかったかも。


 千沙なんて晩御飯の時間帯以外、生活リズムが崩れすぎて私、心配になったもん。高橋君がいたときは、できるだけ私生活をこちらに合わせようと頑張っていたのを私は知っているからね。


 「あーーーー!!!」

 「「っ?!」」


 陽菜が突然大きな声を出す。何事かと思った私と母さんは陽菜に視線を向けた。


 「ど、どうしたの? 陽菜?」

 「指でも切ったのかしらぁ」

 「和馬あいつ、アレ返してないッ!」


 何を? と、思った私だがすぐにそれを陽菜が口にした。


 「今朝の喧嘩の際に、和馬それを返してないッ!!」

 「「........。」」


 “必要悪”というか“絶対悪”な気がしてきた......。



―――――――――――――――――――――


 ども! おてんと です。


 今回の“ナプキン騒動”は筆者がトイレで、紙が常備、予備ともに尽きてしまったことから書いた話になります。


 トイレにいるときってすることがなくてなんか想像が膨らむんですよね。


 下品な表現ですみません。許してください。


 それでは、ハブ ア ナイス デー!

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