第85話 デートっぽい買い物
「あっつぅー。陽菜ぁ、早く来てくれぇー」
天気は晴れ。スマホのお天気アプリでは34度とまぁ安定の暑さである。今日はアルバイトの仕事で外にいるわけじゃない。昨日、陽菜と買い物に出かける約束をしたのだ。
俺、高橋 和馬は現在、大都会のとある駅の入り口付近の噴水に立って、陽菜を待っていた。自宅付近の最寄駅で集合して一緒に行動すればいいのに、わざわざ目的地付近の駅に集合なんて意味わかんない。
陽菜曰く、「やっぱ最寄駅じゃなくてココね!!」とメールで場所変更されたから従うしかなかった。
「あいつ遅ぇーな」
かれこれもう20分は待ったんじゃないだろうか。まぁそもそも俺が集合時間の10分前からここにいるので、陽菜は実質10分の遅刻だ。
ったく、責任取って最後はラブホの刑だよ、ラブホ。
「おい、見ろよ、あの子可愛くね?」
「ほんとだ。JKかな? いや小さいしJCか」
「かもな。胸も控えめだ」
隣にいる二人の男性がどっかの女性を評価していた。JCは基本、貧乳だよ。成長途中なんだからそういうもんなんだよ。ただし、桃花ちゃんは例外だ。
ん? “JC”で“胸が控えめ”って、もしかしたら陽菜じゃね? 俺は彼らが言っていた女の子を探すため辺りを見渡した。といっても探すのに苦労はしなかった。
その子の周りにいる誰もが、その子に目線が集中しているのですぐ特定できたからだ。
「陽菜じゃん......逃げよ」
俺はすぐその場を走って逃げた。
案の定、さっきの二人の男性が言っていた女の子は陽菜だ。俺とこれから買い物行く可愛い、可愛いJCだ。
じゃあ、なぜ俺は目的の人が来たのに逃げたのか。答えは単純。
「陽菜が可愛すぎるよぉぉぉおおおおおおおお!!!!」
俺は悶絶して、近くの壁を思いっきり殴った。ちょー痛い。周囲の人の目がヤバい奴でも見るかのような目だが今は気にしてらんない。
「なんなの? なんであいつ超オシャレしてきてんの? こっちが恥ずかしいよぉー」
陽菜の今日のコーデは貧相な胸なのにデコルトを見せつけるかのような白のトップスと、タイトな茶色のスカートだ。おめかしでもしてんのか、いつもよりちょっと大人びて色っぽいし。
っていうか、いつものポニーテールはどうした?! お前のアイデンティティだろ?! 簡単に捨てていいのかよッ!!
今日はいつもと違って肩まで髪を下げているし。もう陽菜のいつもの子供っぽさの面影すらない。
「なんで肩まで晒すような服着てんだよ! あれ少し屈んだらお前の貧胸見えんぞ?! 作業着を着て来いよッ!」
俺は独り言を言っていた。そろそろ周囲の目がヤバいな。
対して、俺の格好は......全身ジャージある。
緑や赤一色で腕とか足に白ラインがあるような“まんまジャージ”ではなく、普通に中学の陸上部とかで使っていた“今時”のやつだけど。......これはないな。今更だけど。
『ピロンッ』
ポケットに入れていたスマホが鳴る。
[あんた、どこにいんのよ?]
「......。」
俺だって、迷ったよ? 女の子と買い物行くのにさすがにこのコーデはクソだなって。でも、オシャレしてもし陽菜に「なんでオシャレしてるのかしら? なにか期待してる?」とか言われたら泣く自信あるわ。
まぁまだそれならマシな方だ。問題は...お互いオシャレしたら、それはもうデートだよ!!
『ピロンッ』
[さっき「もう着いた」って言ってたわよね?]
「...よし」
俺は覚悟した。
これはアレだ。もう陽菜は彼氏のことなんか気にしてないなら、これは浮気デートだ。彼氏さん、ごめん。俺が浮気と気づいていて、陽菜に付き合うのは人としてもうアウトだけど、今日だけは許して。
絶対キスもしないし、ラブホもいかないから今日だけ陽菜を借ります。...できないと思うけど。
そんでもって話しをちゃんと聞きます。あなたたちの関係について、陽菜に問い詰めますから。そして陽菜に「
「そうか......陽菜は浮気相手に俺を選んだのか...」
スマホを取り出し、メールで陽菜に返信する。
[ごめん、お腹痛いからちょっとトイレ行ってくる!]
俺はそう返信し、洋服店に入店した。
......い、一回くらいデートってやつを楽しんでもいいよね?
そう思う俺は控えめに言って、クズである。
「はぁ...はぁ.....お、お待たせ、陽菜」
「......和馬、遅い」
俺はあれから洋服屋に行き、一式買い揃えてジャージ和馬からオシャレ和馬にジョブチェンした。店員さんに許可をもらってから試着室で着替えて、着ていたジャージは有料コインロッカーにポイしてきた。
ちなみに服装はマネキンのコーデまんまだ。選んでいる暇なかったからな。
「ごめん。ちゃんと埋め合わせする。キスしようか?」
「こんなとこでシなくていいわよッ!!」
まずは挨拶代わりに軽くセクハラをお見舞いする。
......なんか聞き捨てならないこと言わなかった、こいつ。まぁいいか。
「さ、行こうか!」
「...。」
「ど、どうした?」
「......なんでも」
俺はそんな不機嫌な彼女を連れ、今日一日買い物を行う。
よし.........まずどうしよ。デート楽しむとか言って、計画なにもないんだけど。もうスマホケース買いに行っちゃだめかな。
陽菜はご機嫌斜めの模様。くっそ暑い中、20分も待たされたんだ。勝手で悪いけど、帰ってくれたらまだ気が楽なのに。
「え、えーっとどこ行く? さっそくスマホケース買いに行く?」
「...まずはお昼からよ。エスコートできないのかしら?」
「うっ......ごめん」
出だしが最悪の形となってしまった。くっそ。思い出せ、同人誌やAVではどんな感じだった?......いや見てきたやつはどれも“
夏休みの最中だからか、どこもかしこも混んでいる。お昼にするには時間的にまだ早いんだけどな。
「和馬、軽くカフェなんかで済ませない?」
「そうだね」
陽菜に言われるがまま流されて、近場の洒落たカフェに入った。人気はそこそこだが、飲食店ほどじゃない。俺らはメニューを特に見ずにレジへ行った。
そして俺は後悔する。
「抹茶クリームフラペチーノとチーズケーキをお願いします。サイズはトールで。シロップなしの抹茶パウダー多め、それとチョコチップを追加してください」
呪文か。
別に陽菜が早口で言っているわけじゃない。それにこんなのまだ序の口だ。ガチもんの奴はもう日本語を捨てているらしい。俺には到底できそうにない。
「そちらのお客様はご注文お決まりでしょうか?」
「和馬?」
「え、あっはい」
うん、なんでここに入ったんだろう。もう普通に頼もう。これから飲食なのに注文で舌とか噛みたくないし。
俺は無難になんか数種類あるメニューのうちの一つを選んで指さした。
「コレ、お願いします」
「ダークモカチップフラペチーノですね。サイズはどうされますか?」
「え、Mですかね?」
「さ、サイズはこちらの表をご覧ください。大きさはこちらです」
そう言って店員さんはレジに近くにある並べられたカップを指す。ほんっとすみません。
ショート? トール? グランデ? ベンティ? わかんないよ。なんでS、M、Lじゃないの?
「ショート?」
「と、トールからになります」
「っ?!......あ、じゃあ、ぐ、グランデで」
「なにかカスタマイズされますか?」
「いえ、特に―――」
助けてくれぇー陽菜ぁー。
「あ、和馬。チョコチップ増量したらどうかし―――」
「すみません。キャンセルして彼女と同じヤツください」
マジで平気か、俺。初っ端から不安しかないデートである。
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