第67話 筋肉バイキングの終了

 『ガラガラガラガラ』

 「兄さん、寝てますか? 昼間寝すぎて寝れないのでゲームに付き合ってく―――」

 「「っ?!」」


 千沙がノックもなしに俺の部屋に入ってきた。


 「ちっ千沙?!」

 「ナイスタイミングだ! お前の姉さんをどうにかしてください!」

 「.......二人とも何やっているんですか? 兄さんは半裸だし」


 「こ、これは違うの! 誤解しないで!」

 「どこも誤解じゃないですよ!」

 「も、もしかしてセック...、夜のいと....えーっと、こ、交尾をしてましたか?」

 「「してないよ!!」」


 千沙が色々と言い換えようとしたのは伝わったけど、結果的にそのワードの方が危ない説。


 「わ、私、失礼するね!」

 「え」

 「じゃ! 風邪ひかないようにね! また明日!」


 おいこら、風邪ひきそうなのは誰のせいだ。


 葵さんはダッシュで出ていく。ちなみに、何故か俺の枕も持ってかれた。え、いや、なんで?


 もしかして後でバイト野郎がスーハースーハーすることを察したのだろうか。未然に防がれて残念だ。くそう。


 「千沙助かったよ、さんきゅ」

 「っ?!」

 「どうしたん?」


 千沙が驚いた顔して、うつぶせから立ち上がった俺の下半身を見る。あ、そういえば、まだいたね。


 「さ、最低ですよ! ほんっと何してたんですか!」

 「なんというか、俺の貞操が危なかった」

 「兄さんの口からそんな言葉が出るとは思ってませんでした!」


 千沙のおかげで、バイト野郎の童貞ジョブは死守できました。ありがとうございます。.......ぐすん。


 「よし、これで落ち着けるな。じゃ!」

 「あはは。なんでそうなるんですか」

 「ま、詰まる話はまた明日で」

 「ゲームに付き合ってもらうんですから」

 「.......。」


 そういうとこだぞ。人の感謝をすぐマイナスまで振り切れる図々しさ、ほんっと尊敬しちゃう。


 「なんですから、当然ですよね?」

 「なぁ、最近、ゲームしすぎて朝が辛いんだが」

 「知りませんよ、そんなこと」


 知っといてください。そして、反省してください。ついでに自重もしてください。


 「さ、私の部屋に行きましょう」

 「....はい」


 悲しきかな、断りきれない自分の弱さ。


 そして、俺と千沙は俺の部屋を後にし、二階にある千沙の部屋にいく。彼女のお望み通り、しばらくゲームを二人でする。


 「なっ!」

 「千沙は弱いでちゅね? 恥ずかちくないんでちゅか?」

 「くっ! じゃあこれならどうですか!」

 「うっわ! ちょ! たんまたんま!」

 「しませんよ!!」


 俺が千沙の兄になってからほぼ毎日ゲームをしているからか結構良いライバルとなった。前は俺より全然弱かったくせに。妹の成長が嬉しいよ。できれば、引きこもり以外のスキルをあげて欲しいが。


 「兄さん、鈍くなってません?」

 「うぅ。眠気が.......」

 「あっ、こういう時のためにハリセン作ったんですよ!」

 「頑張ります」


 こいつ、ほんっと俺に無理させすぎ。いつか死んじゃう。死因は妹による強制労働ゲームのしすぎ


 「残念ですね、機械に関して学がある私だからできるハリセンを作ったのに.......」

 「誰でも作れんだろ。ハリセンくらい」

 「いや、紙製じゃなくてです」


 ほんっと何作ってんの? 馬鹿なの? 才能の無駄遣いぱないよ?


 「ま、重すぎて碌に振れませんが」

 「.......。」


 そんなんで頭叩かれたら血が出るだろ。死因はハリセンによる強打ってか。どう足掻いても格好つかない死因じゃないか。


 「改良の余地ありだね。千沙、せめて素材をダンボールとかにしよう」

 「あははは。面白いこと言いますね? 流石です。そんなんで眠気とれるんですか?」


 あははは。面白こと言うね。さっすが千沙。それじゃあお兄ちゃん、眠気どころか永遠の眠りにつくじゃないか。


 「ほら」

 「わ、わーお」


 そう言って千沙は俺に鉄製ハリセンを見せてきた。


 冗談じゃなくてマジで作ってた。千沙はもっと違うことをやった方がいいと思う。家業とかさ。面倒くさがりなのに、なんでそういうことに力をいれるのかな。




 俺と千沙がゲームをしてから3時間が経つ。もうとっくに日付は変わっていた。だが会話をしながらずっとやっているのでゲームには飽きない。器用なもんだな、俺たち。


 ちなみに今は格闘ゲーム格ゲーをしている。


 「あ、そうだ。千沙にお願いがあんだけど」

 「嫌ですよ? 面倒くさい」


 さんざん我儘聞いてあげたのに、お願いどころか内容すら聞いてもらえない始末である。そしてやる前から面倒くさがるな。


 「なんも言ってないんだけど......」

 「どうせ『枕を貸して』とか言うんですよね? 嫌です」


 んだこいつ。可愛くない奴め。お兄ちゃんのためになんかしてくんないかな。


 なんでか、さっき葵さんが俺の枕を持って行ったからな。急なことだったから引き止められなかったし。俺、枕ないと寝れないんだよね。


 しっかし千沙の兄になってからなんも得なことないんだけど。むしろ損しかしてない気がする。


 よし。


 「よくわかったな」

 「頭の良さは自負してますから」

 「が、残念。半分違う」

 「?」


 ふむ、ダメもとで頼んでみるか。


 「『枕を貸して』じゃなくて、『千沙が膝枕して』だ」

 「っ?!」

 「隙あり!」


 俺はちょっとした仕返しで、自分でも気持ち悪いと思える発言をした。案の定、千沙は寒気でもしたのかゲームプレイに隙ができたので突いてやった。


 「はは、千沙はまだまだだね」

 「......。」


 キモ発言からだんまりの千沙を見ると顔を赤くしていた。あ、やべ、怒ったかな。


 「そ、そんな怒んなって。悪かった―――」

 「い、いいですよ。それくらい」

 「え」

 「だからいいですよって! ほら頭を貸してください!」


 そう言って千沙は俺の片耳を掴み、彼女の膝に引き寄せようと俺の身を横に倒した。千沙はいつもゲームするときは正座だもんね。


 俺はそんな千沙の膝に頭を乗せて横になった。


 筋肉を感じさせない女の子らしい軟らかい太ももで、パジャマから女の子特有の甘い匂いが鼻孔をくすぐる。俺は思わずドキドキしてしまう。


 「あ、あの千沙さん?」

 「な、なんですか?」


 「急にどうしたんですか?」

 「......日頃のお礼です。美少女の膝だからって、感動で涙を流さないでくださいね!」

 「あ、はい」


 自分は美少女って思ってるんだ。あってるけど。マジ可愛いし。


 まさかここでデレるとは思わなんだ。くっ、日頃のギャップさが!


 「あとヨダレも駄目ですから」

 「わかってます」


 垂らさねーよ!......たぶん。


 っていうか、これかえって落ち着かなくなったんだけど。千沙は平気なの? 頭、重くない? これじゃあお互い休めないよね?


 「ほら、続きしますよ」


 あ、結局するんだ。休ましてくんないのね。


 俺たちはこのあとめちゃくちゃ(ゲームを)シた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る