第53話 次女だからって姉と妹を足して2で割ったわけじゃない

 「そんな怒んなって」

 「ほんっと最低っ!! 女の子にあんなの握らすなんて」


 例の里芋の件より、時間的にちょうどよく全部終わって俺と陽菜は帰宅した。その道中、陽菜は俺の息子を掴んだことに激怒している。


 つうか、お前が勝手に触ってきたんだろ。こっちは被害者だぞ! ありがとうございますね!! 美少女に触ってもらうなんて願ったり叶ったりだよ!


 「貴重な体験だと思って?」

 「ぶっ殺すわよ!!」


 まぁ彼氏じゃないやつのナニを触って喜ぶほどビッチじゃないよね。あーそう考えると、もう陽菜は大人の階段を彼氏と上ったのだろうか。なんか急に萎えてきてしまった。愚息が。


 「でもさ、お前にも非があると思うんだよ」

 「どこがよ?!」

 「いや『アンッ!』とか『ひゃうっ!』とかエッロい声出してたじゃん」

 「っ?!」


 顔赤いぞ。はは滑稽、滑稽。そりゃあ他所の男に喘ぎ声聞かれてんもんな。俺こそ貴重な体験をさせていただきました。ありがとうございます。オカズは決まりました。


 「そ、そう。私でそうなっちゃったんだ.........ふーん」

 「? そうだよ。責任とってもらいたいくらいだ」

 「せっせせせせ責任ってあんた!」

 「嘘です、冗談です。いつもの綿菓子みたいな軽いセクハラだよ、許して?」


 セクハラは許されるものじゃないだろうけど、この冗談は8割がガチで、2割が真面目でできています、陽菜様。


 「はぁ、なんでこうも変態なのかしらね」

 「葵さんのがその方が良いって」

 「葵姉がっ?!」


 驚く陽菜。俺たちは言い合いしているうちに、あっという間に中村家に到着した。


 もう辺りも暗くなっている。ご飯の匂いが鼻腔をくすぐる。そろそろ夕飯時かな? 今日の夕飯は何だろうか、バイト野郎楽しみである。


 「たっだいまー」

 「高橋、ただいま戻りましたー」


 俺たちは玄関に着いて帰ってきたこと知らせる。葵さんがエプロン姿で出てきて返事をする。


 「おかえりなさい。陽菜、高橋君」

 「くぅぅうう!!」

 「ど、どうしたの?!」

 「いや、エプロン姿の葵さんが『おかえりなさい』って。なんか新婚さんの気分です」

 「っ?! もうっ! ほら変なこと言ってないでお風呂入ってきて! すぐご飯にするよ?」

 「あいあいさー」


 顔が赤い葵さん。料理して熱で顔が赤くなったのかな。それとも俺の言動かな。後者に祈る。いつか違うエプロン姿も見てみたいものだ。ぐへへ。


 『グニッ』

 「いはっ! なんへふへるんはよなんでつねるんだよ!」

 「ふんっ!」


 陽菜が隣で俺のほっぺをつねってきた。俺は理不尽な気持ちを他所にいっかい東の家に行き、入浴を済ましてくる。汚い格好で飯なんか食えないわな。


 東の家に着き、玄関で俺は即ツナギ服とついでにTシャツと靴下も脱ぐ。


 「土とかもし床に落ちたら最悪だよな。靴下も脱いでこ。このまま風呂まで直行だ」


 俺は片手にツナギ服などをまとめて持ち、パンツ一丁で廊下を渡ろうとする。しかし、階段を下りてきた千沙と遭遇してしまった。


 「ちょっ! なんで裸なんですか?!」

 「あ、千沙。こんばんわ。じゃなくて“おはよ”か、お前の場合は」


 「ええ。それであってます。さっきから起きました。おはようございま――じゃなくて、なんで裸なんですか?!」

 「お風呂に入るため?」


 「ここ人の家ですよ?! 昨日も言いましたが自重してください!」

 「はいはい、次から気をつけまーす」


 俺は怒っている千沙を軽くあしらってお風呂に向かう。ボロンってしてないだけマシじゃないか。ま、俺が全部悪いけど。


 「おっ! 風呂がもう入っているじゃないか! 千沙が入れてくれたのか! ありがと!」

 「あ、お湯抜くの忘れてました」

 『ガコッ』

 「おい! なんで栓を抜くんだよ!」


 千沙が湯舟の栓を外して、溜まってたお湯を抜く。


 抜くならもっと違う息子をヌいてくれ! じゃなくて、俺今入ろうとしてたんだけど、なんで抜くの?!


 「? さっき私が入ってましたから」

 「俺も入るんだけど!」

 「嫌ですよ。貴方、絶対『千沙の残り湯だぁ』とか言ってすするじゃないですか」

 「..................んなこと、しねーよ」

 「ほら! なんですか今の間! 声もちっさいですね!」


 いや、むしろよく自分で『千沙の残り湯だぁ』って言えたな。自意識過剰だよ。まぁ可愛いけどさ。


 くっそ、夕飯もあるし。今夜はシャワーだけだな。仕方ない。俺はそう言って、ツナギ服と靴下、Tシャツを選択物を入れる籠に畳んで突っ込み、残るパンツを脱ごうとする。


 「ちょっ! なんで私が居るのに脱ごうとするんですか!」

 「あ、わり」

 「全然悪びれてない“わり”ですね!」


 親父ゆずりの謝罪だぞ。失礼な奴め。最も気持ちなんか込めていない謝罪だが。


 「なんか、人に見せることに抵抗を感じなくなったな俺」

 「妹になんてもの見せてるんですか?!」


 「大丈夫、ツナギ服の上からだから」

 「え? なら普通ですよね?」


 「いやが違う」

 「ほんっと最低です!」


 俺は千沙と言い合いしてからシャワーを浴び、着替えて廊下に出る。ちなみに着替えたTシャツは白地に“残業”の二文字が表と裏にプリントされている。下は赤色の短パンといったところだ。


 玄関に行く途中でトイレで何か声が聞こえた。


 「あ、あれ? 意外と届かないですね。んしょっと! んっ!」


 千沙が低い台に乗って背伸びをし、トイレの電球を取り換えようとしていた。微妙に届いてない。


 そう言えば、明かりが点かなかったな。高さが足んなさそうだから手伝――――


 「きゃっ!!」

 「危なっ!」


 千沙の奴、小さな低い台の上で背伸びなんかしてたから、バランス崩して転倒しそうになったな。俺は背中からギリギリ彼女を支えられた。せ、セーフ。


 「大丈夫か?」

 「は、はい。ありがとうござ.........」


 .........俺は千沙を支えた際、どうやら胸もキャッチしちゃったらしい。アウトだね。


 「え、えーっと。あんま陽菜と変わんないね?」

 「死んでください!!」

 「ねぶしゃっ!!」


 この態勢から、後ろにいる俺は頬に千沙の肘打ちを食らう。うん、それでもおつりくるから全然いいよ。でも後で食事するときに血の味がしそう。


 ラッキーなのかアウチなのか、わかんないスケベだった今日の俺であった。

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