第五章 頼っていいんですか?

閑話 陽菜の視点 逃げるは恥

 「ふっかーーーーつ!!」

 「待ってました!!」

 「ふふ、お待たせ」


 今日は火曜日。つまり学校がある。葵姉が風邪から復活し、元気になって戻ってきた。


 パパが朝食を摂りながら葵姉を見る。ママは洗濯物を干しに行った。


 「本当か? 無理はするんじゃないぞ」

 「うん、平気。寝すぎて腰が痛いくらいだよ」

 「俺はいつも腰が痛い」

 「はは」


 葵姉には悪いけど、これで私は部活に行ける。いやぁ、言い訳じゃないけど桃花が寂しそうなんだよね。


 桃花とは中学2年から、つまり去年からよく一緒にいるようになった、去年と今年も同じクラスである。あの子、意外と寂しがり屋なのよね。


 私のほうが普段、部活以外の学校生活ですっごく助けられているのに。中学1年はそうでもなかったけど、だんだん他の女子たちと距離を置かれる私に彼女は親友以外何者でもない存在である。原因はわからないけど。


 「これで私もしたいことに集中できるかなぁ」

 「? あ、そうだよね、そろそろだもんね」

 「部活を」

 「テストが」


 葵姉と目が合う。というか相変わらずニコニコしているときの葵姉の目は糸目だ。そこがまた怖い。


 そう、私には近々テストがある。6月上旬に中間試験があったが、結果は悲惨であった。今回は期末試験である。


 「「..................。」」

 「お、そろそろ期末試験か。がんばってね、陽菜」


 能天気にコーヒーを啜るパパ。試験を頑張ってほしい葵姉。部活をやりたかった私。三者三葉のこの空間で私は告げる。


 「行ってきまーーーす!!!」

 「ちょっ!! 陽菜逃げないの!」


 玄関まで全速力である。


 「に、逃げてないし、通学だし!」

 「試験期間なら朝練ないでしょ!!」

 「うちはあるの! ブラック部活だから!」

 「なにブラック部活って!」


 くっ。ローファーを履こうとした私に、葵姉が腕を掴んで逃がしてくれなかった。


 「はぁはぁ。私、病み上がりなんだけど。で、いつから試験日なの?」

 「......来週の水曜日から3日間ある。」

 「てことは今日から部活はお休みじゃない!」

 「..................。」

 「ほ、ほら。少しでも勉強しましょう? 陽菜、あなた中間試験の結果覚えているでしょう?」


 さて、ここで大人しく勉強か、自主練か。無論、後者である。


 「私も手伝うから? ね? 国語とか英語は得―――」

 「葵姉、ちょっと臭うよぉ?」


 「え、嘘っ?!」

 「風邪ひいてたから汗かいたのかなぁ。いいの? これから和馬が来るのにシャワー浴びなくて」


 「ど、どーしよ。そんなに臭―――」

 「じゃ!」

 「ちょっ!!」


 私は一瞬の隙をついてここから離れる。もちろん平日だから彼は来ない。嘘120%である。


 そうかぁ。もうテストかぁ。桃花に頼もうかな。期末試験は全部で9教科あって、その中でも数学と国語、社会、理科が苦手である。英語はママが得意からなのか、その血が流れているのであまり苦労しない。


 はぁ、どうしよ。

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