第17話 鮮血の竹、切ったけどかぐや姫ではない模様

 「ぬおぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」


 今日は晴れ。俺、安定の晴れ男である。6月の中旬で先週は日曜日が雨のせいでバイト休みとなった。今日は日頃のうっ憤を晴らすため張り切る所存。


 ちなみに昨日、雨降ったからか今日はからっと晴れ、空気がきれいな気がする。


 「どりゃぁぁぁぁああああああ!!!!」


 現在、バイト野郎はのこぎりで竹を切っている。やり始めて1時間がたったくらいである。雇い主と。


 「切ったどぉぉぉおおおおおお!!!!」

 「うるさいわ!!」


 雇い主に怒られる俺。うるさかったですか? だってバイト野郎、鋸扱うの初めてなんだもん。それにイライラしてきたし。


 「もうちょい静かにできないの? 叫ばないと仕事できないの?」

 「自重しまーす」

 「..................。」


 なぜイライラしているかって? 別に鋸を扱うのが難しいわけじゃない。さっき鋸扱うの初めてって言ったけど、最初は小学生の頃のの授業で扱ったことある。でもその時は授業参観だったのか、親も同伴のため苦労した記憶がない。


 無論、葵さんや陽菜ちゃんがいないからではない。こういうときもあるさ。わかってる。


 じゃあ、なぜか。原因は3つある。


 まず、俺の仕事ペースが遅いこと。ただでさえアルバイト時間は今のところ長くて4時間だから、遅いとまた仕事が片付かなくてその分増えていく一方である。葵さんのあの言葉を思い出せ。バイト野郎、絶対に役に立たねば。


 そして、この時期だからしょうがないけどが嫌だ。特に蜘蛛とか、蜘蛛の巣。竹切っていたら顔に当たるのなんの。蜘蛛自体、なため。まだいい。うっぜ。


 だが、は駄目だ。近くに竹だけではなく雑木も生えていた。その雑木には蜂の巣があったのか、俺は知らずに近づいて、周辺の竹を切っていた。それに対し、蜂さんは敵意と感じ取ったのか、俺に向かって飛んできた。


 俺は慌てて逃げた。


 そして雇い主に状況を説明した。察しの通り、3つ目の原因は雇い主である。


 「あっ、駆除するの忘れていた。まぁ大丈夫、大丈夫。俺、前に刺されたことあるけど、生きているから」


 なぜ言わないぃぃいいいい!! 大事なことだろ! 刺されたらどうすんの! 蜂に刺されたら、労災にするからな! 刺さった奴の意見なんか知らねーよ!


 ここまでむきになるのも、俺も以前、洗濯物を回収したときに思いっきり刺されたからである、アシナガバチにな。


 自分がアレルギー体質かわからないけど、嫌じゃん? 2回目さされるとか。アナフィラキシーショックだっけか。危険なんだよ。


 んでもって、次に、


 「というか、高橋君が切ったとこだけど、ちょっと低く切りすぎ。これじゃ、埋もれて見えないし、つまづくかもしれないじゃん」


 ならなぜ手本を見せないぃぃぃいいい!!! 「竹切って」と言われ、たしかに手本を訊かなかった俺も悪いけどさ。手本をやらなかったあんたもギルティ!!


 と、こんな感じで俺は叫んで溜まったストレスを発散させている。だが、


 『ザシュッ』


 「痛ぁぁぁぁあああ!!!」

 「ちょっ! 今度は何!?」


 バイト野郎は考え事してたせいか、鋸に不慣れなせいか、指を切った。血がどくどく流れていく。うっわ、ズキズキするんですけど。痛ぇ。あとに残りそう。


 「え、えーっと。もう今日は終わりでいいよ? 大体切り終えたし」

 「じ、時間までやらせろ!.....ください!」

 「敬語!! 今完全に素が出てたよ!」


 俺はこういう時のために持っていた絆創膏で傷に貼った。血が止まらない。でもアドレナリンが分泌したせいか、だんだん痛みより怒りの感情が復活する。


 無理言って続けようとする俺に、雇い主は。


 「..................いい? 鋸は引くとき力を入れる。切る高さは、量が量だから、腰の負担にならない程度に膝くらいの高さでいい。倒す方向は統一すること。なにより斜面だから、倒した竹に足を乗せて滑らないように」

 「...........。」


 珍しいこともあるもんだ。イライラが伝わったのかな? 雇い主は俺に竹の切り方を丁寧に説明する。なんか表情も面倒くさがっている感じというよりは、しょうがないという呆れ顔で教えてた。


 思わず小さい頃、親父おやじにプラモデルを組み立てもらったときの記憶が蘇る。ニッパーとか紙やすりが危ないからってやらしてくれなかったんだっけ。.....本当に珍しい。


 ふぅ........いや、だから先言ってよ!!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る