第四章 役に立ちませんか?

第16話 隣の客はよく俺食う客だ

 「ふぁあ、眠っ」


 俺は自分の部屋の窓を開ける。今日は雨。さすが梅雨の時期、雨が最近多い気がする。


 「学校だりぃ」


 現在、水曜日、朝7時過ぎといったところ。アルバイトまで今日含めてあと少し! 頑張ねば。葵さんが待っている。


 以前から家にいる家族は俺だけである。両親は共働きで、父さんは単身赴任で北海道、母さんは会社の出張があり、距離の関係上、家にいることが少ない。


 だから、こうして俺はゲームやバイトなど自由な生活を送れるのだが、意外と寂しい。一人暮らしの気分だ。


 俺は歯を磨きながら、居間から外に出るようなベランダの雨戸を開けた。いつも面倒くさがって開けずに外出することが多い。でも今日は開けよ。部屋がジメっとしているからかな。


 「ああ!! やっぱり出しっぱだったよぉ、私のシューズ」


 今朝からやかましいのは隣の家のお孫さん、米倉よねくら 桃花ももかである。ベランダに出て早々、隣人の顔を拝むとは。うるさいんですけど。


 「おはよ。雨なのに干してたの?」

 「あ、お兄さん、おはよ。昨日の夜は降ってなかったのにぃ」


 泣いている顔も可愛いね。なんて J C にセクハラしたら事件沙汰である。


 なお、先日の予期せぬ隣人発覚事件以降、桃花ちゃんと会うのは今日が初めてである。相変わらず、名前教えても“”と呼んでくる模様。別にいいけど。


 「回収するの忘れちゃったから、今朝から降ってる雨のせいでびっしょびっしょ。干さなきゃよかった」

 「なに臭かったの?」


 「っ!? ほんっとデリカシーないね! お兄さん!」

 「ご、ごめん」


 「やっぱり汗かくから、常に干しておかないと臭くなるかもしれないでしょ! ほら! 臭くないでしょ!」

 「わ、わかったから。濡れたシューズ近づけんな」


 臭いの? といわれたことにむきになり、全力否定する桃花ちゃん。妹とか、姉いない一人っ子だし、そういう思いやり欠如してたわ、めんご。


 うちのアパートのベランダは隣との距離が近い。手を伸ばせば届くのだ。桃花ちゃんの家に忍び込もうと思えば余裕で出来ちゃう。いや、しないけど。


 「ど、どーしよぉ」

 「桃花ぁ。学校行く時間よぉ」

 「どーしよ!!」


 知らんがな。今の女性の声はおばあちゃんかな。


 「休めばいいじゃん、朝練」

 「陽菜にあんなこと言っといて簡単に休めないよ!」

 「予備ないの?」

 「実家の方にあるけど、祖父母の家こっちに持ってきてないの」


 ドンマイ、もう諦めたら? あ、そうだ。あれならいいかも。


 「足のサイズは?」

 「え、23だけど」

 「おけ、ちょい待ち」


 たしか押入れに入れてあったっけな、バレーシューズ。悪いけどバドミントンシューズなんてないよ。


 「ほらこれ、見たらサイズ23.5だけど」

 「なんであんの!? 兄妹の?」


 「いや俺いねーし。母さんのママ友バレーで使ってるやつ。あんま回数やってないから綺麗だと思うよ」

 「あ、ほんとだ、これバレーシューズじゃん」


 「それで部活できそう?」

 「うん! 室内用なら特にこだわりないし。........というか勝手に使っていいの?」


 「かまわない、かまわない。むしろ最近家にも帰ってこないで履かないから靴が可哀想」

 「靴が可哀想て....」


 うちの母さん、休日はしょっちゅうママ友バレーに行ってたからな。押し入れ見たら他にまだ1足あったわ。仕事で忙しいくせによく2足もあるな。ちなみに桃花ちゃんには比較的綺麗な方を渡した。


 「お、意外と足ぴったり」


 メーカーによって意外と横幅とか変わるんだよね。よかったぴったりで。


 「ほら、時間だろ? はよいけ」

 「うん! ありがと。行ってきまーす」

 「行ってら」


 そう言って桃花ちゃんは急いで出ていった。朝練とは懐かしい。俺が中学生の頃、それも受験前は毎日行ってたな。


 ちなみに中学校は陽菜や桃花ちゃんの通っている中学校だ。ここから10分ほどの場所にある。


 なぜ走るのかだって? それはいつもギリギリまで寝てたからだよ。歩いて行った記憶なんて全然ないな。いつも全力ダッシュの日々。朝弱いのよ俺。


 俺は学校に行く支度をする。家を出るのは8時頃。なに、まだ時間はある。


 「朝飯はリンゴとパイナップルジャムトーストの時間コスパコンボだな」


 トーストを焼いている時間にリンゴを剥く。そして食う。これによりなんと朝飯の時間帯は調理から食後まで10分もいらない。


 時計を見ると今は7時23分。飯は家出る前でいいや。30分の余裕があるな。


 「二度寝しよ」


 このあと、俺は雨の中無茶苦茶走りました。


 

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