閑話 葵の視点 田舎はよく音が響く
今日は晴れて暖かかった。四月も中旬を過ぎて数えるくらいしか残ってない。今はもう夕方で時間は日曜日の午後4時34分。
『バリバリバリバリバリ!!ボーーーーーー!!!!』
遠くで何かの機械音がする。チェーンソー?
「父さんかな? そういえば『そろそろ竹切りたいな』とか言ってたっけ」
最近、私には面白い出来事があった。
うちでアルバイトをしたいと言う高橋 和馬君のことである。今時、農家でアルバイトしたいなんて人いるのだろうか、普通に考えてまず変人と思う。
見た目は黒髪で眼鏡。身長も私より少し高いくらい。なんというか普通の男子高校生という感じ。
歳も近そうなんだから一度一緒にお仕事しながらでもお話してみたいかな。ここのお仕事するときはイヤホンして音楽かラジオしか聴かないからどうしても人と話したくなる。
「俺は葵さんと仕事したかったああああああああ!!!」
「ひゃあ!? 私!?」
この声は高橋君の声!? なんでそんなこと叫ぶの!?
辺りを見渡しても誰もいない。この聞き覚えのある声は高橋君の声だ。
田舎だからかああいう機械音や叫び声などは意外とよく響くのよね。彼がどこにいるかわからないけど、恥ずかしいから私の名前を叫ばないでほしいかな。
「お、お話するのはまた今度の機械でいいかな、はは」
彼もきっと私と同じように会話とかしたいんだろう。飽きるよね単純作業。
今やっている仕事は菜花のの手入れである。今日みたいに暖かいとすぐ花が咲いてしまう。花が出ているとそこにミツバチが飛んできて蜜を持っていく。いくら性格が穏やかなミツバチでも一緒に仕事はしたくないかな。
なのでその咲いた花を取っていく作業をする。あと少しで片付きそう。そうだなぁ17時までには終わらせられるかも。がんばろ。
それから私は仕事を終え、帰宅した。家から歩いて五分なのでそう遠くない。
私の家は東と南で2軒ある。普段は南の築18年の家を家族で使っている。東の方は築50年以上の家は使ってないけど母さんと父さんが喧嘩や言い合いをしたときに両方とも使うときがある。
ついこの前も高橋君のアルバイトの件のことで言い合いになり、二人で別々に使っていた記憶は新しい。ここは父さんの実家で母さんが嫁ぎに来たので、当然父さんが元々住んでいた家、木造建築である東の家で過ごすことになる。
まぁ大体の場合、お腹を空かせた父さんが翌朝に謝罪をするのだけれど、いくら身内のことでも早朝から父の土下座は見たくないかな。
私は家に着いたら、菜花の咲いた花を切り落とすのに使った鎌を西側にある物置小屋に片付けに言った。
ちなみに鎌は大きさで呼び分けるらしい。両手で使うような大きいほうの鎌が“サイズ”、片手で使うような小さいほうが“シックル”というらしい。以前、父さんが自慢げに豆知識を言っていた。
「ふう、今日も頑張ったなぁ私。ご褒美はコンビニスイーツかな」
頑張った私にご褒美があっても罰は当たらないはず。コンビニまで少し歩くが、好物のためなら苦でもない。
私は携帯を見た。時刻は17時02分。そろそろ高橋君が返ってくる頃かな。
「しかし驚いたなぁ、さっきの高橋君の叫び声。ふふ、私と仕事したいなんて―――」
「お疲れ様です、葵さん」
「ひゃっ! お、おおおおかえりなさい高橋君!」
「だ、大丈夫ですか?」
びっくりしたぁ。独り言聞かれてたかな? とりあえず何か話してみよう。
「お疲れ様です。どう? やっぱり大変でしょう、農家の仕事って。無理しないでね」
「いえ、自慢するほどでもないですが体力には自信がありますし、体を動かすことは好きですから」
「ふふ。それは頼もしいね」
やっぱ男の子だなぁ。アルバイトで来るってことは少なくとも高校生だよね? 私は詳しく聞いたことないから今度機会があればお話したいな。
願わくば私と同い年がいいなぁ。歳が1つ違うだけどでも価値観......うーん、なんというか感じ方が違うといえばいいのかな。
同じ歳だからこそわかる感覚とか共通点とかいろいろあって盛り上がると思うんだよね。変に気を使わなくていいとこも同い年だからこそだし。
「まさか粉砕機があそこまで扱いづらいなんて。農業をしていくにあたってああいう農機具も使うんですね、知りませんでした」
「...粉砕機?」
「ええ、チッパーと呼ばれるら―――」
「え、ああ、なるほどあの騒音は高橋くんが。それで..........ちょっとごめんなさい」
ああ、なるほど。あの騒音は和馬君がチッパーを使っていたってことか。父さんったらまた危ない仕事を素人にやらせたのね。はあ、言及しなきゃ。
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