第5話 念願の共同作業

 「草むしりは次第に腰や膝に負担がかかってくるから片肘を中腰の足へ、もう片方の手は草をむしるといいよ」

 「たしかに全体的に負担が減りました! すごいです! 世紀の大発見です!」

  

 中村(おじ)さんの独断と偏見による仕事をバイト初日から2回続いたため、勝手に変な仕事をさせないか監視も含めて葵さんと一緒に仕事をしていた。仕事内容はキャベツ畑の草むしり。


 葵さんと仕事できるなら、前回のチッパーによる鞭のような痛みもありがとうございます、ありがとうございますと言える自信がある。控えめに言って最高。

 

 「そ、そう? 毟った草は歩き道の方へ、あとで集めて別のところに持っていくの」

 「なるほど! この場に置いておくと、生命力の強い草はまた根を張るかもしれませんからね! 歴史を覆す発見です!」

 

 葵さんの黒髪は普段仕事するとき後ろでまとめてある。いわゆるシニヨンという髪型だ。服装は農作業に適した作業着と長靴だ。素敵です。


 いや~まさか、農家でアルバイトできればいいな~感覚で来たけどまさかこんな美人な葵さんとできるなんて俺は運がいい。


 「あと草むしりは根っこからむしってね。ごめんね、先に言うべきことだよね」

 「いえ、気づかなった自分が悪いんです! くっそ! この右手か、根からむしらなかったこの右手が悪いのか!」

 「お、おお落ち着こう! 一旦落ち着こう!」


 いかんいかん、嬉しさのあまり興奮してしまったようだ。落ち着け俺、葵さんに変な目で見られて距離置かれたらこのバイトやっていける自信ないぞ。


 「0から始めるアルバイトだもの、わからないことやできないことだってある筈だよ。だから、なんでも聞いてね?」


 女神か。


 そうか、わからないことはなんでも聞いていいのか。


 「そういえば葵さんはおいくつなんですか?」

 「今年で18になるかな。現役農業高校生です」

 

 速報:葵さんは現役女子高生です。繰り返します、葵さんは現役JKです。


 「農業高校てどんなところですか?」

 「うーん、普通科の高校を知らないから一概には言えないけどとっても楽しいよ。耕種や畜産とかの農家によって違うけど、やっぱり似たような環境の人たちの集まりだからすぐ仲良くなれるし、勉強面ではそこまで苦労はしないかな」


 なるほど、言われてみると農業高校てそういうイメージがあるな。俺も葵さんと学園生活送ってみたい。


 「何か趣味とかあり――」

 「ちょっ! ちょっと待って、質問が仕事より私のことばっかりじゃない?」

 「同じ職場で働く人のことを聞くのは当然ですよ」

 「たしかにそうだけど......あっじゃあ順番こにお互い質問しましょ? 私だって高橋君に聞きたいことたくさんあるもの。...ね?」


 女神か。草むしりのせいか、葵さんは一旦しゃがんでいる状態で俺に上目遣いで言う。


 きゃわいすぎんだろおおおおおおおおおおお!!!!!


 「では自分から」

 「え? え! さっきしたじゃない。公平にいきましょ。ここは私からね」


 これは、もしかしたら傍から見て、イチャついてんじゃねーよ案件なんじゃないだろうか。


 ああー、ついに俺もこうして女子高生と会話を楽しめるのか。これが青春よ。


 「えーと、なんで眼鏡しているの?」


 感動を返してください。


 「...目が悪いからですよ」


 さっきまで浮かれてた自分を殴りたい。まさか一番最初の質問が眼鏡のこととか、あんなに質問したがったのにこの質問。よくよく考えて聞くことが眼鏡しかなかったのかな。


 「ご、ごめんなさい!そうじゃなくてこの仕事で眼鏡していると傷ついたりしないのかなって」

 「たしかに以前草刈りをしたときは飛来物のせいで少し傷つきましたね」


 「ね? 替えがあるならいいけど、こんな仕事だから眼鏡に何かあったら困るでしょう?」

 「ええ、そうですね。ですが先日頂いた保護メガネがあるので、違和感はありますが大丈夫ですよ。まあ、いい機会ですし、そのうちコンタクトにしてみるのもいいかもしれません」

 「眼鏡も似合うけど、コンタクトもきっと高橋君には似合うよ」

 

 眼鏡の上から保護メガネをかけると違和感ぱないんだよな。ちょっとしたVRゴーグルみたいだし。それなら葵さんの言う通りいっそコンタクトに変えちゃえばいいかな。今度眼科行ってみよ。


 よし、俺のターン。


 「なにか趣味とかありますか?」

 「読書や映画鑑賞、あとは絵を描くのも好きかな」


 農業が1ミリもかすってないインドア派主張。


 やっぱり農家の仕事はお手伝いの範疇なんだろう。仲良くなれたら映画にでも誘ってみよ。


 「高橋君は? あと年齢も聞きたいかな」

 「年齢は16です。趣味はゲームとお菓子作りですかね」


 「へぇ。すごいね、お菓子作れちゃうなんて」

 「趣味の範囲ですよ。テキトーなものしか作れませんし、自分の舌にあったものを食べたかったというのがきっかけですから」


 こう見えて、甘党の和馬。無論食べることも含めスイーツ系男子ってやつ。


 「それにしても16歳かぁ。私の方がお姉さんになっちゃうや」

 「意外ですか?」

 「うん、身長差とか真面目な性格もなんて言えばいいのかな、歳はあまり変わらない気がしてた」


 少し残念そうに葵さんはそう言う。


 「そんな変わりませんよ。2年違うだけです」

 「そうかなぁ」


 そんな話をしながら俺と葵さんは草をむしっていく。


 同じ高校生なんだし、歳の差なんて変わりませんよ。でも、どこか意識させるようなそんな会話は日が沈んでいくのと並行して終わっていった。

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