第44話 昼休み終わりのひと時
「へぇ……クラスゼロかぁ……」
めでたく、先輩と師弟関係を組んだ俺は、取りあえずという感じで近況報告をしていた。
といっても入学からまだ1週間。その殆どは劇薬でのたうち回っていただけなので、話せることといえばクラスゼロに配属になったくらいのことしかない。
「先輩はクラスゼロの存在はご存知なかったんですか」
「ううん、耳にはしてたし、ちょっと興味もあった。ああ、勿論いい意味でね?」
「いい意味なんて、気遣わなくても大丈夫ですよ」
「気遣いなんかじゃないよっ。だって、クラスゼロが本当に噂通り落ちこぼれの集まりっていうならそもそも入学を許可しないでしょ? 成績って面で見たらもしかしたら本当に悪いのかもしれないけれど、それでも入学させた意図が学院側にあるんじゃないかなーって。でも、ジル君がそこに入ったっていうなら成績が悪いっていうのも違いそうだね」
「それは、本当に過大評価ですよ」
我ながら転生などというアドバンテージを持っていながらも学業はあまり優れているとは思っていない。
前世の知識が邪魔をする場面も少なくないし、勉強に舵を切れるほど器用でもない。
「多分俺は先輩の16点を笑えない程度に――」
「それは忘れて」
ぴしゃりと言葉を遮った先輩の声はマジだったので、俺は大人しく黙った。自己防衛、大事。
「それで、その怪我もクラスゼロの授業で? いきなり生徒同士でやり合わせるなんて……中々面白い先生だね」
「面白いって簡単に言えるのは流石ですね」
「でもジル君がボロボロになるなんてちょっと信じがたいなぁ……あたしも学院2位なんて言われてるけど、自信失いちゃいそう」
「一応言い訳するとステゴロ……素手での勝負だったんです。俺、そっちはあまり経験豊富とは言えなくて」
武器を持っていればもっと違ったと思うが……いや、やっぱりこの思考自体が情けないな。
けれど、先輩は納得したように頷いてくれる。
「戦い方が制限されると時には達人でも素人以下になっちゃうものだからね……あたしも剣を握らされたら全然だし。もしかして、あたしをメンターにしてくれたの、素手での戦闘が学びたいから?」
「う……」
「あはは、別に責めてないよ。むしろ先輩らしいことができるなら嬉しいし。それに格闘術は戦いの基礎が詰まってるからね。きっとジル君の役にも立つよ!」
先輩はそう嬉しそうに微笑むと、勢いよく立ち上がり、訓練室の中央に躍り出る。
「さぁ、あたしが直々に鍛えてしんぜよう!」
「先輩……それはありがたいんですけど」
「ん?」
「授業、いいんですか?」
「……あ」
今は昼休み。当然午後からは授業がある。それは1年も2年も変わらない。例外はクラスゼロくらいだろう。
先輩も昼休み明けの授業があったようで、少し困ったように頭を掻いた。
「いやー、またうっかりすっぽかしちゃうところだった。ジル君、申し訳ないけどまた今度でいいかな? 思い出した時に行っておかないと、気が付いた時には出席日数足らなくてーってなっちゃいそうで」
「ええ、勿論。俺も怪我が癒えたらがいいので」
「そっか。それもうっかりしてた。うん、それじゃあまた声掛けるね?」
「はい。よろしくお願いします」
そんなわけで、今日の邂逅は先輩と師弟関係を結んだだけで解散となった。
俺は授業が無いので、先輩を見送った後、少し訓練室の設備を見ていたのだが――不意に扉が開けられた。
「ああ、すみません。俺、もう出るので……」
「随分と楽しそうでしたね。小さな先輩とイチャイチャと」
「へ?」
聞きなれた声。
入口に目を向けると声の印象通り、王女殿下が立っていた。何故かほんの少し不機嫌そうに頬を膨らませながら。
「どうしてここに?」
「食堂の騒ぎ、私も見ていましたから。それにジルの魔力は特別で……探しやすいんです」
「探す? 探知したのか、凄いな……」
人は無意識の内に魔力を放出している。
けれどそれは電磁波みたいに些細なもので、俺を含め常人にはそのこと自体を察する能力は無いし、ましてやその魔力を探り特定の誰かに辿り着くなんてことは以ての外だ。
遺跡ではすぐ傍にいたから俺の魔力を察知していたが離れてもできるのは……うん。流石は天才。でも天才なんて言葉で簡単に片付けていいのかも分からなくなってきた。
「べ、別に誰にでもやっているわけじゃないですからね? ジルは特別なんです」
「ああ、魔力が分かりやすいって言ってたな。まぁ確かに光と闇の両方があるってのは確かに他にはいなそうだ」
なんて、空笑いを浮かべてみる。
が、セラは少し神妙な表情を浮かべつつ歩み寄ってきて、制服越しに俺の身体へと触れる。
「セラ?」
「怪我の……お加減はいかがですか」
「え」
「まだ完治はしていないと。レオンさんとの戦いで、魔物から受けた傷も開いたんじゃないかって……」
「そういえば、見舞いに来ようとしてくれたらしいな」
「すみません……臭いが酷くて途中で倒れてしまって……」
「倒れてって、大丈夫か?」
確かにあの臭いは酷かったけれど、倒れたなんて言われるとちょっと物騒だ。
けれど、セラは慌てて首をぶんぶんと横に振る。
「大丈夫ですっ! ちょっと大げさに言っただけで……すぐにリスタ先生が助けてくれましたから。ちょっと……怒られちゃいましたけど」
「そうか……まぁ、今も元気そうだしな」
安心して笑う俺に、セラは照れくさそうに微笑んだ。
ほんのりと頬が赤らめながら。
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