四 一面白い世界になった理由(わけ)

 ところが、そうして白い世界の中でなんとも不自由で退屈な、文明崩壊にも近い生活を送って一週間程が経とうとしていた日のこと。


「……え? まさか……い、色が戻ってる!」


 朝目覚めると、まるで何事もなかったかのように世界の色彩は元に戻っていた。


「……で、でもなんで? いったい、今度は何が起こったんだろう……」


 何か手掛りとなる情報は得られないかと、僕はとりあえずテレビをつけてみる。


「――政府はこの一週間、専門家グループによる調査を進め、信じられないことではありますが、万物白化現象の原因が超自然的な力によるものであることを突きとめました」


 案の定、久々に見るカラー・・・テレビでは、新たな展開を見せたこの現象に対しての臨時ニュースを流している。


 だが、なんか妙なこと言ってるな……なんだ、超自然的な力って? まあ、こんなこと超常現象じゃないと言われた方が納得いかないけれど……。


「それは某市の某神社に掲げられた絵馬による神への願掛けです。そこに書かれた願文がこの世界を形作る超常的な存在へ強く働きかけ、その結果として前日までのような白一色の世界を創り出したというのが量子力学者、超心理学者、超自然学者ならびに一流霊能者の出した統一見解です」


 以前よりもなんだか美人に感じる、色鮮やかになったその女性キャスターは、そんなトンデモ極まりない内容のニュース原稿をいたく真面目な顔つきで淡々と読みあげている。


 絵馬による願掛け? ……なんか、どこかで聞いたことあるような……。


「そこで政府の対策委員会が急遽この絵馬の撤去作業にかかったところ、万物白化現象は瞬時に収まり、現在のように世界はもとの状態を取り戻したとのことです。その絵馬というのがこちらになります」


 女性キャスターの解説に続き、画面には大写しに一枚の絵馬が映し出される。


「……え? いや、待って。この絵馬って……え、どういうこと?」


 その絵馬に僕は見憶えがあった……左下に書いた名前分部にはモザイクがかけられているが、その字体は間違いない。明らかに僕が二年参りの時に書いて、神社に吊るしてきたあの絵馬である。


「御覧いただくとおわかりのように、ここには〝世界が一面白く・・・・なりますように〟とはっきり書かれています」


「なに言って、僕の書いたのは一面白くじゃなく、世界が面白くと……」


 事実と異なるその言葉にツッコミを入れつつ、画面に映る絵馬の文字を僕は凝視する。


「……え? まさか、そんな……え、そういうことなの?」


 だが、よくよくそれを眺めていると、僕はあることに気づく……僕は確かに「世界が面白くなりますように」と書いたのであるが、「が」と「面」の文字の間にちょうど木目の模様が「一」の字の如く横一本入っており、見ようによっては「世界が面白くなりますように」とも読めるのである!


「ちょ、ちょっと待って! そ、それじゃあ、昨日までのあの現象は、僕の願いを神様が勘違いしてかなえてくれてたってこと!?」


 もう、その原因が超自然的な神様の力によるものだということも色褪せるほど、トンデモにもほどがあるふざけたその真相に、僕は焦りを覚えるとともに驚愕の言葉を思わず口にする。


「今回の一連の騒動を受け、日本政府は臨時国会を招集して〝漂白〟という新たな犯罪法案を満場一致で採決しました。現在、警察はこの絵馬を書いた人物を漂白罪の容疑で全国指名手配し、その特定を全力で進めています」


 テレビの前で呆然と立ち竦む僕を他所に、女性キャスターはまるで他人事のような口調でそんな情報も付け加えてくれる。


 またしてもふざけているとしか思えないその話に、今度は外の世界ではなく、僕の頭の中が真っ白になった………。


                   (すべてが白になってました! 了)


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すべてが白になってました! 平中なごん @HiranakaNagon

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