第158話
夢から覚めても、まだ現実と夢との区別がつかなかった。
私はまだ健二さんに会いたいと思っていた。
家から飛び出して健二さんのところに行こうと思った。
私は由紀子のままだった。
目覚ましのアラームが鳴って、やっと我に返った。
そうか、あれは全て夢なんだ、と思いつつも、あまりにリアルだったので単なる夢だとは思えなかった。
そして夢なのに、現実にいるはずもない健二さんに私は恋をしてしまっていた。
その日、祖母のお通夜が営まれた。
昨日から引き続き、朝から霧雨が降っていた。
私はいまだに祖母がいなくなってしまったことが信じられないでいた。
祖母の住んでいた離れに行ったら、笑顔の祖母がお茶とお菓子を出してくれそうな気がした。
ふと、あのアンティークのラジオはひとりぼっちになってしまったんだなと思った。
お通夜が終わって、親戚や知り合いの人たちを見送って、両親とごく内輪の親戚たちは、今夜一晩祖母の亡骸と一緒に過ごす部屋へ戻っていった。
私はなんとなくそのまま外で、持っていた傘を降ろして雨に打たれた。
安全地帯だった祖母がいなくなった私の心の穴を埋めるすべがわからなかった。
急に生きていくのが怖くなった。
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