第32話


 結局ミズハラノエルらしき人はわからず、俺は宝箱のあった看板のところに戻ってノートに記帳した。


キーホルダーは、同じ物をまたもらうのも悪い気がしたので、次の発見者に譲ることにした。


宝箱を元あった場所に移して、ボーッと目の前に広がる海を見ていたら、こちらを背にしてベンチに座る女の子がいるのに気が付いた。


長い髪が海風に吹かれてキラキラしていた。


あの子がミズハラノエルだったらいいのにな…と思った。


しばらく見ていると、あの子はほんとにミズハラノエルなんじゃないか? と、根拠の無い確信さえ生れてきた。


勘違いだったら恥ずかしいけど、このチャンスは逃がすべきじゃないと思って、話しかけようとしたその時、向こうからその子も彼氏らしき人がやって来て、二人はどこかへ行ってしまった。


俺はなんだか変な気持ちになった。


まるで告白もしてないのに振られたような気分だ。


女の子なんて面倒臭いと思っていたはずなのに…。


この物悲しい気持ちを慰めるが如く、たまたま入ったラーメン屋がめちゃくちゃ旨かったので、落ち込んだ気持ちも少し浮かばれたような気がした。


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