第5話


「俺は自分の人生は幸せだったと思ってる。お前の祖母さんは、生前家をよく守ってくれた。子供たちは無事に育ってくれた。可愛い孫までいる。何の不満もない。俺の人生も残りわずか。ゴールが見えてきたこの年になって、何故か昔の心残りが蘇ってくるんだよ。それが死というもんが近づくにつれて、大きくなってきてなぁ。困ったもんだ…。」


「じーちゃんの心残りって?」


俺が聞くと、じーちゃんは少し顔を赤らめた。


「初恋の相手。」


じーちゃんは、恥ずかしいっ! って言うかのごとく、目をぎゅっと瞑って言った。


この人は、80を超えているというのに、何だこの可愛さは???


「そのじーちゃんの初恋の相手がこの施設にいるの?」


「いや、おらん…と思う。」


「じゃ、何でここに来たの?この近所にいるってこと?」


「昔、この辺りに嫁いだと聞いたから、もしかしてまだこの辺にいるかなと思ったんだ。


「そっか…。ん?相手の人って、年が年だし、…もしかして亡くなってるってこともあり得るよね!」


俺が言うと、じーちゃんはハッっとして、その後ため息をついた。


俺も一緒にため息をついた。二人でため息をつき続けた。



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