家庭教師少女な俺は風を操りたい

鏡ホタル

第1話 はじまりがはじまる前に


俺はこれでも、真面目に生きてきたつもりである。


常見時久、十七歳の高校二年生で彼女はいない、特技はジャグリングくらいか。


小中学校では卒業式に皆勤賞かいきんしょうの表彰を受け、高校に入学した現在もその記録を保持し続けている。

成績がずば抜けていいわけではないが、少なくとも「授業態度」の項目において最高点でなかったことは一度もない。


コンビニのつり銭が1円多かったときは必ず返しに行くし、点滅信号は決して渡らない。顔を合わせた近所のおじさんおばさんには必ず毎日挨拶をする。

そういうふうに生きてきた。


それゆえ俺は帰宅時も、普段は最も歩道幅が広く通行量が少なくそれでいて近隣住民の迷惑にならない最適の道を選んで帰宅の途についていた。


しかしながら、今は夏の盛り。熱中症の予防は大切だ。

そうなれば糖分と塩分が適度に含まれた水をこまめに摂取するのが適切である。

だが、歩きながら飲み物を飲むというのは行儀が良くないし、かといって道端に立ち止まるのは邪魔になる。


そこで俺はこの季節いつも、一つの公園に立ち寄り水分補給をしていた。といっても公園と呼ぶのも大仰おおぎょうな、ベンチがあるだけの休憩所である。


公園のある交差点へと進み出て、トラックの内輪差ないりんさを考慮し、歩道の隅よりもかなり手前の位置で立ち止まる。しかし俺は次の瞬間、衝撃的な光景を目の当たりにした。


制御を失った馬のように、或いは赤いマントに突進する闘牛のように猛スピードでこちらに駆けてくる一台の暴走トラック。


その勢いは衰えることなく俺の方へと突撃した。


質量六十キロ弱の俺の体は古典物理の法則に従って軽々と弾き飛ばされた。そして当然のように地球に引っ張られ地面へと打ち付けられる。


頭を強く打った俺は、その結果、脳挫傷のうざしょうによって即死したらしい。


このあと暴走トラックの運転手がどうなったか、俺は知らない。

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