第五話:幼馴染がいっぱい
「……あの、須賀くん?」
「はい……?」
「もっかい聞くけど……『3人も』って、何?」
「ああ、それはだな……」
おれが説明しようとしたちょうどその時。
「
「もう、あずさってば……。
そこには赤めの茶髪をポニーテールにした活発系女子と、黒髪ロングのおしとやか系女子がおれをたずねて教室までやってきた。
「れ、れん……!? れ、れんくん……!? あの、
「おっ!
「友達っていうか……」
「よろしくー! あたしは蓮の幼馴染の
おれが説明しようとするのも聞かず、梓は快活に笑い、小佐田に
「お、おさななじみっ……!? は、はい……」
小佐田もわけが分からなそうなまま、その手をとって握手した。
「もう、あずさはいつもいきなりなんだから……。突然馴れ馴れしくされたら小佐田さんも驚いちゃうよね?」
横で、黒髪女子が困り
「あ、い、いえいえ……」
小佐田はくしくしと前髪をいじる。
「小佐田さん、こんにちは。
と、凛子は
「ひゃ、ひゃい……。あ、あの、凛子ちゃんは、須賀くんとはどう言ったご関係で……?」
「え、蓮君と? んーと、蓮君とは、小中が一緒で……私もいわゆる幼馴染ってやつ、になるのかな?」
「う、うう……」
小佐田の瞳に涙が溜まっていく。なんかうめいているけど大丈夫? と思っていたら、くいっと
「ちょっと須賀くん、お話があります……!」
「お、おお……?」
ぐぐっといつもよりもずっと強めに引っ張られ階段の踊り場まで連れて行かれた。
「蓮ー、待ってるからなー」
遠くで梓の声が聞こえる。
「ちょっと須賀くん、聞いてないよ!?」
「何が?」
「とぼけないでーっ!」
大きな瞳に涙を溜めて、むううう……と、こちらを見上げてくる。
「須賀くんには本物の幼馴染がいるんじゃんっ!!」
「本物って」
「しかもよりにもよって梓ちゃんと凛子ちゃん!?」
小佐田は、今さっき聞いた名前としてではなく、元々知っていたという感じで二人の名前を叫ぶ。
「やっぱり知ってるもんなんだ?」
「当たり前だよっ! うちの高校の1年生のツートップじゃんっ!」
「そうらしいな、あいつらすげえよ……」
「んんんんんんんんー!!」
声にならない反論を浴びせかけられる。
誰が決めたのか知らないが、梓と凜子はうちの学年でかなり人気が高いらしく、2人が仲良しであることと、その性格の対称性から、『ツートップ』と呼ばれているらしい。
それとは別に
それでいうと小佐田もなんかのタイトルホルダーだった気がするが、なんだったっけな……。
んー、と腕組みをして考えていると、
「ねね、須賀くん。2人とも小学校も一緒ってことは、わたしも会ったことあるのかな……?」
目尻にたまった涙を拭いながら小佐田が聞いてきた。
「いや、梓は小3の夏、凛子は小4の春に転校してきたから、小佐田とは入れ違いだな」
「そうなんだ……。じゃあ、須賀くんの幼馴染だけど、わたしの幼馴染じゃないんだね……」
はあああ……と深くため息をついている。
「そんなに落ち込まなくても……」
「落ち込むよぉ……だって、わたし、偽物だったんだよ?」
本気で悲しそうにしている小佐田を見て、ちっとも悪くないはずなのになんだか申し訳ない気持ちになる。これが
「でもほら、なんていうか、一番最初に会ったのは小佐田だし……な?」
「そんなの関係あるかな……? ねね、わたしと須賀くんが過ごした時間は、何年?」
「……5年」
「梓ちゃんと凛子ちゃんとは?」
「7年と、6年……」
「やっぱ負けたぁー!! ていうか須賀くんの幼稚園時代なんて全然覚えてないよぉー!」
うつむいてメソメソとしている小佐田。ていうか、冷静になるとなにがそんなに悲しいのか全然意味わかんねえな。
「……あっ、でもさ?」
「ん?」
なんとなく小動物を眺める感覚で見ていると、小佐田が突然パッと顔を上げた。
「
「そ、そうだけど……!」
「そっかそっか! それじゃ、そこはわたしの勝ちだねっ!?」
「そうだね勝ちだね……」
なかば呆れて息を吐く。
目の前でさっきまでの涙目が嘘みたいに、手のひらを口の前で合わせてニコニコと笑っている。
なんか、小佐田が笑ってると安心するっていうかなんていうか……。いやいや、なにを急速に
「……っていうか小佐田、あのコト2人にも言うなよ!?」
「えっ? 言うわけないよっ!」
「えっ? 言うわけないの?」
どう言うこと? と
「だって、須賀くんと2人だけの秘密があるの、ものすっごく幼馴染っぽいもんっ!」
純粋無垢な笑顔を見せてくれる小佐田に、なぜか胸の奥が、きゅっと音を立てて握られる感覚が走った。
「あ、そう……」
多分、そのあたりから何かがおかしくなってきていたんだろう。
「あっ、4時になっちゃう! じゃ須賀くん、また明日ねっ!」
「お、おう、行ってらっしゃい……」
だっておれは『小佐田がそれを言わないなら幼馴染ごっこに付き合う必要がない』ということにすら気付かなかったのだから。
「はーい! 行ってきますっ!」
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