おさn愛

祐乃 こはく

おさn愛

冬の訪れが顕著に現れる師走

流石に12月の夜なだけあって寒いのは当たり前だろう。

だが、なぜか今年の冬の寒さが異様に厳しく感じてしまう

冷え性が悪化してるからだろうか。

ラニーニャ現象が起こっているからだろうか。

いや………つい先日彼女と別れたからだろう。

彼女は優しく何事にも真面目で高校生らしからぬ大人びた子で私のような人間であっても分け隔てなく接し一緒にいて心が楽になるような性格であった。眼鏡をかけパッチリとした二重で綺麗な目、笑顔を見せる時にはあどけなさを感じさせる…同学年でも一際可愛らしい存在だった。一言で言えば私なんかには勿体ないほどの素晴らしい女の子だった。ただ、人より心が脆く少しだけ弱い所があった。

高校2年の秋頃に付き合い初めそれなりに楽しく過ごしてきた。…それなりなんて言葉は嘘だ…心の底から全てが楽しかった。

高校3年になってやはり進路達成のため、両方とも忙しくてなかなか遊びになんて行けなかった。

そしてやっと互いに進路が決まりこれからが1番楽しい時期になると思っていた矢先振られたのだ。

私の心の中から何かが吹き出していくような感覚におそわれた

彼女からは「体調の悪化と環境の変化から大切な人を大切に扱えなくなったから、別にあなたに非があるわけじゃない。」と言われ、その他云々と言われたような気がする。

確かに彼女はしばらく休みがちであり、とても恋愛をしている場合ではなかったのかもしれない。

彼女はあまり自己開示をするような子ではなかった。何かあったとしても自分で全て解決しようとしてしまう。

きっと人に心配や迷惑をかけることが苦手だったのだろう。でもなぜだ、少しくらい相談してくれても良かったじゃないか…自分の心を蝕んでまで他人に迷惑をかけたくなかったのか…

今となってはもう遅い事なのだろう。人とは分からないものだ。

だがしかし恋愛とはなんと虚しく儚いものなんだ。片方が契約を破棄してしまえばもう片方がどうであれその関係を無に帰すことが出来る。

私の心は空虚だ。大きな穴が空きそこに寒い風が吹き込んでくる。

気づいた時には頬を伝う何かがあった。空いてしまった心の穴を何かで満たそうとするが如く涙を流した。

悲しい。私の何がダメでこうなってしまったのだろう

私のどこが気に食わなかったのだろう。そんなことを自問自答し続けながら三時間ほど頭の中でグルグルと考えを巡らせていた。彼女は非は無いと一応言ってくれたのに

いや…このような心理になってしまえばそんなものは不安を煽る要素にしかなりえなかった。むしろお前なんて嫌いだと拒否を突きつけられた方が何十倍と楽にはなるだろう…まあ…結局どちらも辛いことには何ら変わりのないとこなのかもしれないが。

その頃にはすっかり夜も更けてしまい悲しみは一時的に無くなりもうなんでもいいどうでもいいなんて思い始めていた。

「…寝よ」

泣き疲れたのか、ベットに入ると記憶がなかった。



携帯からいつもと違う音に気づき私は目を覚ました。

親から起床を促す電話だった。

サイアクだ…アラームをかけ忘れて30分程遅く起きる。

サイアクだ…制服の準備すらしていない。

…もうドウデモイイナ…今日は学校を休むことにした。

1階にある台所に行き、休むという趣旨を伝えると

母は「受験疲れでも出たんじゃない?休め休め」と快く了承してくれた。

無論身体のどこが悪いわけでもなかった…まあ強いて言うなら心にぽっかりと穴が空いているような感じだろうか。

一般的にいえばただの怠惰な気持ち故の休みになるだろう。

今日は休もう…この傷を少しでも癒すために、この悲しみにひたすらに暮れてしまおう。私はそんな面持ちで自分のベットに座っていた…

嗚呼…辛い…別れとは何故こうも辛いのだろう。今まで書き連ねてきたものを全て消されていく感覚…決して綺麗には消えないから黒い跡やヨレを残してしまう。もう最初の白紙には戻らない。

世間一般的にはこんなことで生活がままならない程ぐらついてしまう心はどう思われるのだろうか…仕方がない…?ダサい…?

少しは気張れとか言われるのだろうか…。

簡単に言ってくれるよ、そんなことを。みんながみんなしてそんな鋼鉄な心を錬成することなど出来るはずないのだから。

スマホで学校への連絡を入れ通知遡るともう彼女と呼ばれていた人からのメッセージを2日も放置している。

だんだんと話す内容も素っ気なくなってきた。気まずいそして何よりどんな返信をしていいのか考えてしまうようになってしまったのだ。…じきに話さなくなってしまうことは歴然であった。

1つ、また1つと別れてしまった弊害に気づく度私の心の穴はますます広がっていく…心から流れてしまう幸せの液体物、私の渇きは潤えない…

こんなくらい気持ちでグダグダ考えてしまうのは締め切った部屋で頭を悩ましているからだろうか…

陽の光を浴びれば多少はこの気持ちも明るくなるのではないかと思い私は重い腰を上げ一気にカーテンを開いた。


一気に陽が差し込んでくる。清々しい陽射しが私を貫いた。眩しく、明るい…そんなことは当たり前のことだが、なんだか少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。

冬の快晴、澄んだ蒼穹がそこにあった…

この空の下で散歩でもすれば心が癒えるのではないかと私は思った…

「歩くか…」

パジャマから部屋着程度のものに着替え、外へ出た…

さすがに12月なだけあり風が冷たい…まだ体が寒さに耐性がついていないのもあるのだろうが風が刺さるように痛い…まったく少しくらい私の心を察して欲しいものだ…

気候にそんなことを言うくらいには余裕が出てきたのだから日光というのは凄いとしみじみ感じるものだ。

いつも駅に向かう方向と逆に歩を進めることにした…

住宅街を歩きながら少しだけまともに戻ってきた心でまた彼女だった人のことを考え始めていた。

このような時に限っては淡く美しい記憶しか思い出すことしか出来ない。まあ…8.9割がた良い記憶だった訳だが…色んな所に行ったということ…互いに好きであった故の言葉の数々…美しく笑っていたあなた…多分私もだったろう…。どんな悲しいことがあろうが辛かろうがあなたという人といれば強くいられた…なんでもいいと思える気持ちにすらなることが出来た。

気づいた時には住宅街を抜けいつもは通らないような裏路地に入っていた。

今まで彼女だった人とあった一つ一つの事象全てを事細かに思い出し記憶に縋り付いていた。もう二度と同じことが起こるはずも戻ることもないと言うのに…

なんと無様な子供のような物なのだろう。

私は幸せだった記憶を漁っている間にまたも暗い気持ちも一緒に拾ってしまう。

気づいたら私はまた元の虚しがる物になっていた…


俯いた気持ちで歩いていた時私の心を触るような香りに包まれ暗い気持ちが少し和らいだ。

いい香りだ…と前を向いてみると目と鼻の先に花屋があった。どうしたことだろうかその香りのする場所に異様に引き攣られてしまう。

外装を見てみると私の住んでいる町には少し合わないような小洒落た様子で佇んでいた。

「こんな平日の朝に若いお客さんなんて珍しいね。」

横から少し色気のあるような男性のいい声がした…

私は少しおどろいて彼の方を向き軽く会釈をした。

花を持った男性は20代半ば辺りだろうか…身長は一般的な人より少し高く、にこやかに笑う姿は誰でも癒してしまうような、ルックスを持っているだろう。

まあ…少なくとも私よりはかっこいいと言えた。

正直私は誰とも話したくない状態だったため、俯いていた。

彼はその雰囲気を感じ取ったのだろうか…

「寒いしさ、中に入りな?」と一声かけて扉を開けてくれたのだった。

流石にこれを断るほどやさぐれてはいなかったため、

有難く入れてもらうことにしたのだった。


店内には幾多の花が飾られており私の心模様とは真逆の煌びやかさがあった。

彼は小さな椅子2つと小さなテーブルを運んで来ては

「まあ…座ってきなよ。」と朗らかな声で言ってきた。

「あ、ありがとうございます…」と店内の雰囲気に押されたのか緊張が解れたのか分からないが自然と感謝の言葉が出た。

私と彼が座ってほんの少しだけ沈黙があったが彼から口を開いた。

「俺回りくどく聞けないからさ、言うんだけどなんかあったの?」

なんてド直球な人なんだと私は思った。いや…もしこれを聞いた人が他にいたのならその人もこう思うだろう。

「…流石に個人的な事過ぎますし、ちょっと前にあった顔合わせたばかりじゃないですか…」

少しだけ強めな口調で言ったかもしれない。私の顔にも少し嫌な顔が出ているだろう。

彼は少し考えてから…「なんも知らない奴の方がさそーいうの言いやすかったりするんじゃない?」と楽観的な口調で言った。

なんて簡単に言ってくれるんだ、この人は。私の心中を察すことが出来ないのか…

だが彼の目を見てみると真っ直ぐ私を見つめる瞳にはなぜだか少しだけ哀しさがあるように感じたのだ。

その瞳は私の単なる勘違いかもしれない…だがそんな可能性を信じでも、良いような感じがした。

「……分かりました。一応話します。」

何故こんな暗い気持ちなのか、私と彼女だった人の話、相手がどんな人だったか、なぜこうなってしまったのか。私の覚えている範囲そして教えられる範囲のものを事細かに伝えた。

彼は時折疑問を挟みつつもこの一切のことについて批判などはまったくしなかった。

ただ優しい表情を浮かべしっかりと聞いてくれていた。

「…という感じなんです。」と話を終えて、

彼が少し考えた様子の後最初に放った言葉は、「いい人と出会えたんだね…」と優しく言ってくれたのだ。

私は意外な言葉に内心驚いていた。

そして彼は続けた。

「君は俺なんかよりもよっぽど若い…まだまだ幼い愛なのかもしれないね。でもそれでいいと思うよ。俺もそのくらいの頃はそーいう気持ちになったもんだから。

もうこの人を無くしたら何も無くなってしまうのではないか、この人の為に日々を生きてきたと言っても過言ではないと…きっと君の活力でもありモチベーションでもあったのだろうね。

だからこそ気持ちが本当に切り替わるまで悲しみに浸っていてもいい…

どれだけいい思い出を掘り出しちゃって落ち込んだっていい…長い間抜け出せなくても大丈夫…それだけ素晴らしい人と巡り会えたということなんだろう。

今まで歩んできたものはひとつも無駄にはならない。

きっとその素晴らしい瞬間の一つ一つが君をより成長させてくれるに違いないよ。

またもしその人と交わり合う時、全く違う人と巡り逢う時必ず背中を押してくれるはず。

だからこそその幼さ故の愛を忘れないで欲しい…」

「とまぁ…話聞いてみての俺なりの考えた方なんだけどさどうかな?」

聞き終わった私の頬にはまた流れるものがあった。

寂しさでは無い…何か暖かいものに触れているような感覚であった。

「ありがとうございます…少しだけ楽になったような気がします。」「なんでこんな親身に聞いてくれたんですか…」と純粋に聞きたかったことを言った。

「んー…昔俺も幼かったからかな…?」

少しはにかみながらそんなことを言った。

「そろそろお暇します。お店の時間もありそうですし…」

「そっか…んじゃせっかくだから君にプレゼントをあげよう。」

と言うと慣れた手つきで白い花を1本私に預けた。

「ストックと言う花なんだ…とても美しくて香りも長く続くんだ…時期は違うんだけどうまく育ったやつなんだ。君への投資みたいなものだ。花言葉は色々あって永遠の美とか白い1本だとあなただけを思いますとか色々あるんだけど君に贈るのはね…」


来た時の何ら変わりのない空模様だ。

冬の蒼穹は澄んでいて美しい…

変わったことといえば多少の心持ちと右手にある花程度だろうか。

贈られたストックの花言葉「見つめる未来」彼が私の未来を期待しているのかもしれないそして私自身も未来を見つめて行こうとしている…

これから起ころうとする未来は神様ですら分からない。

どれだけ躓こうと過去にすがろうといいのだろう…

一歩一歩進んでいけばいい…

この幼い愛を育み天に向かって花咲く時まで。

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おさn愛 祐乃 こはく @Kohaku131108

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