第58話 人工魔術師

 俺達は最下層に着いた。

 そこには蒼狼ツァンランとルーヴ、そして禍々しい雰囲気オーラを放つ2人の人間ヒュームがいた。


「ルーヴ、準備は出来ているか?」

「はい、何も問題ありません」

「蒼狼!」

「邪魔をする気だ。お前等、相手をしてやれ」

「御意に……」


 蒼狼の言葉に、2人の人間が前に出る。

 当の本人はルーヴと共に奥へ向かう。


「待て!」

「待つのはお前達だ」

「邪魔をするな!」


 早く蹴りをつけたい。

 踏み込みを魔力で増強エクステンド、抜刀斬りを繰り出す。

 剣先が音速を超える。

 しかし、それあったりと防がれてしまった。


「人間を辞めた奴がいると聞いたが、事実だったようだな」


 俺の刀を片手で白刃取りした人間が言った。

 俺は驚愕していた。

 まともに見える速度ではない。

 コイツ等はいわゆる人口魔術師ストライゴンだ。

 しかし、それにしてはあまりにも強い。


実験体モルモットの癖に、随分と強そうだな」

「成功体だからな、俺達2人は」


 成功体。

 先程の失敗作とは違い、『狙った人格の定着に成功した』という事か。

 という事は、コイツ等はがあるという事だ。


「成功体か……。お前等は元々何者だ?定着させる人格で、狙い通りだったって訳だろ?元は名のある将か何かか?」

「名など忘れた。以前の記憶も残ってはいるが、なのか定かではない」

「……、集合思念に吸収された後に、1人分の人格を無理矢理引きはがした。だから、その1人分が全て同一人物のものか分からないって事か……」

「アンタ、上位の魔術師か?よく知ってるな、そんな事」

「何、昔聞いただけだ。魔術なんてまともに使えん」

「確かに。まともに使えるなら、あんな乱暴な使い方はしないな」

「これでも有効活用できたと思ってるんだぜ?」

「いやいや、よく使えてるよ。素養はあっても何も使えない奴も多いからな。よく考えたもんだ」

フェイ


 ファンが耳元で囁く。


「敵と話している場合か」

「おっと、そうだった。ただ、なんだか他人な気がしねーんだよ、コイツ等とは」

「ハハハ、我々が同じ闇魔術を扱う者だからか?」

「いや。何故か分からんが、そう感じるだけだ」


 俺は一度刀を納刀する。


「元の名前は分からんが、今は『カラ』と呼ばれている。こっちの今の名は『コマ』」

「カラとコマか。俺は吠、コイツは黄だ」

「自己紹介も終わった所で、タッグチーム・マッチといこうか!」


 カラが叫ぶと同時に、コマと共に距離を詰めてきた。

 2人共魔術師だろうが、白兵戦も得意としているようだ。

 俺がカラの、黄がコマの相手をする。

 互いの体格差はほとんどない。

 それなのに、カラの攻撃の重さは異常だった。

 使っているのは何の変哲もない手斧ハンドアクス

 間合いは俺の刀よりも短い筈だが、俺が少しでも間合いを開けようとすると強力な1歩で近付き、渾身の攻撃が飛んでくる。

 ハッキリ言って、グローとは比にならない程に強い。


「どうした!防御だけでは勝てんぞ!」


 刀の太刀筋が逸らされる。

 がら空きになった腹部に、カラの左手が伸びる。


「吹き飛べ!」


 闇の魔素オドが俺の腹の前で炸裂した。

 身体が宙を舞う。

 刈り取られそうになる意識を必死に堪えながら何とか着地した。


「ほぉ、不器用な使い方しか出来ないと思ったが……。乱暴だが面白い使い方をするな」


 カラの魔術が炸裂する瞬間に、回避の為の後退バックステップを魔力で増強させた。

 それにより、後退する身体の速度を上げ、炸裂の威力を相対的に軽減させたのだ。


「まともに喰らったら、穴が開きそうだったからな」

「反応速度も判断もいい。それでまともに魔術が使えれば、いい将になったいたのにな」

「魔王軍の将に興味はない。だいたい、俺は不真面目だからな」

「ハハハ、気に入った。仲間に欲しいな」

「アンタが俺達に下ってくれるなら考えてもいいぜ?」


 俺はニヤリと笑う。


「強者が弱者に下る訳がないだろう。しかし、その気概や良し、ますます気に入った」

「そいつはどーも!」


 再び俺が斬りかかる。

 勝機を見出せるか分からないまま、俺はカラと刃を交えるしかなかった。

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