第5話 極道の正道

ファンめ……、儂等を呼び出して何のつもりじゃ……」

「それに、何じゃこのメンバーは……。元老会全員が呼ばれたのではないのか?」


 ある町の九龍会の事務所に、元老会の半分のメンバーが呼ばれていた。

 呼び寄せたのは他でもない私だ。

 私は招待客が全員揃った事を確認して、彼等の前に出た。


「お待たせしました、お歴々」

「黄よ、どういうつもりじゃ。儂等を集めて何をする」

「お話合いですよ、平和的な」


 私がそう言ったところで、元老会メンバーであるランハオも部屋に入ってきた。

 そして、私の両脇に2人が立つ。


「ここに集まって頂いたのは他でもない。蒼狼ツァンランに関する事です」


 私が改めて言う必要もないが、形式上として必要な宣言だ。

 元老会メンバーも予想通りだったのか、全員が神妙な面持ちで立っていた。


「既にご存知の方もいらっしゃると思うが、蒼狼は屍喰鬼グールの量産を開始しています。私兵の増強の為です」

「しかし、屍喰鬼は生殖能力が低い。本当に量産など可能なのか?」

「可能にしたからこそ、量産を本格的に始めたのだ。ここからは儂が喋っても構わんか、黄?」

「はい。お願いします、燃様」

「うむ。単刀直入に申す。お歴々は蒼狼と黄、どちらに味方するつもりか」


 何とも乱暴な話の展開だが、実に燃様らしい。

 そう、これは振り分ける為の集会だ。

 もうなりふり構ってられる暇はない。

 一刻でも早く兵力を増強し、蒼狼との全面戦争に備えるべきだ。

 屍喰鬼の兵士が増えれば、ここにいる全員の私兵を合わせても太刀打ちできなくなる。

 兵力の増強が我々の急務なのだ。


「いきなりそんな事を言われてもな」

「現会長は蒼狼。逆らう事は難しいと思うが?」

「だが、ここ最近の蒼狼の身勝手には耐えかねる。奴は会長の器ではない」


 堰を切った様に、老人達は喋り始めた。

 すぐにでも蒼狼を潰すべきだ、もう少し様子を見るべきだ、そもそも蒼狼との平和的な解決を目指すべきだなどなど。

 様々な意見が出ているが、この人数では埒が明かない。


「静まれ!」


 豪様の一喝で、その場に静寂が再び訪れた。


「その様な論議をする暇はもうない。我々に味方するか否か、今この場でお決めあそばせ!既に我々は後手に回っれおるのだぞ!?」

「豪、1つ良いか?」


 1人の初老の男が言った。

 彼はポォ、元老会の中で最も頭のキレる御仁だ。

 最も警戒すべきであり、最も味方につけたい人物に他ならない。


「破、なんだ?」

「黄に肩入れしたとして、メリットはあるのか?我等は慈善団体ではない。えきのない事はしたくないのでな」

「西部の貧民窟スラムの現状をご存じでしょうか、破様」


 豪様と破様の間に入って、私は話し始めた。


「人は減り、ほぼ無人になっております」

「知っておる。貧民窟の住民を餌に、屍喰鬼を製造しておるのだろう?」

「まさに。これは止めねばなりません」

「何故だ?」


 破様の台詞は予想外のものだった。


「何故、止めねばならん?貧民窟から得られる金銭の量などたかが知れている。それに、西方司令部のクズ共がその一部をせしめているお陰で、九龍会に入る額など雀の涙だ。そんなものを守る価値があるのか?」


 破様が言っている事は紛れもない事実だった。


「今までならば、貧民窟でのめかじめ料だけでも組織の運用が可能な程の収入があったが、今では逆に西方司令部へめかじめを払う羽目になった。事実、我々組織の主な収入源は別のものになっている。そんな中で貧民窟を守るのは頭のいい策とは言えぬ」

「それは……」

「貧民窟など、タダの建前であろう、黄?貴様の本心を言え」


 私の本心。

 そんなものは決まっている。


「蒼狼を叩き潰したい、それだけです……。ヤクザとしてですが、私達を拾い、育ててくれた先代会長を謀殺したアイツが憎い。憎くてたまらない!」


 破様は少し間を置いた後、笑い始めた。


「それで良い、それで良いのだ、黄。我等はヤクザだ。憎いから殴る、目障りだから潰す、殺したいから殺す。それで良い。いや、。実にヤクザらしい。蒼狼を潰した後は、貴様が会長になるのだ。ならば腹を決めて。大義名分など要らん。最初から御託を並べずに、殺したいから力を貸せと言えば良いのだ。無駄に賢くなるな」


 俺は呆気に取られた。

 その場にいた元老会メンバーの全員が笑っていたのだ。


「蒼狼は儂も好かん。潰したいのなら力を貸すぞ、黄」

「儂もだ。先代の仇だからの」

「全くだ」


 俺は今まで、元老会をどのようにして引き入れるかを必死に考えてきた。

 それが、こんなにも簡単に現実になるとは。

 それと同時に、先代への想いは同じであった事をまざまざと見せつけられ、目頭が熱くなる。


「お歴々……、ありがとうございます……」

「泣くな、ガキンチョ。そうとなればやる事は増えるぞ」

「全くだ。破、儂等の統括はお主がやれ」

「言われずとも分かっておるわ。先代からの字を授かった我等、狼など軽くかみ砕いてやろうぞ」


 これで、7つのが私に力を貸してくれる事となった。

 お陰で兵力も跳ね上がる。

 私は拳を握り締めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る