第9話 裏の存在

「何じゃい、コイツ等は」


 街からサリィンとコフィーヌ、その他の兵士を連れてグローとスゥが村へ戻ってきた。


「今回の犯人だ。屍喰鬼グールの研究をしていたんだと」


 研究者の2人をマジマジと睨み付けるグロー。


「研究の為に屍喰鬼をあんなにも増やしたのか?」

「増やしてなどいない。連れてきたのが逃げたんだ」

「はぁ?」


 何とも言えない表情で、グローが俺の方を見る。


此奴こやつ、馬鹿なのか?」

「何だと!?」

「普通に考えて、あれだけの量をどうやってこの村まで運んで来た?荷馬車に積んでか?何処から運んできたのは知らんが、ここは軍の往来もある地域だ。荷物を調べられずにここまで辿り突くのは不可能だろうて。何より、ここは廃村ではない。村人に見付かれば軍なりギルドに報告が上がる。それに、研究するにしても、許可は取っておるのか?暗黒種族にしろ、解体を伴う研究には王国からの許可が要るだろう?」


 捲し立てる様にグローが言う。

 全て正論だ。


「ぐっ……」

「ワシの言った事全てに、完璧に答えられんのなら、お主等のやった事は違法だのぉ。それなりの処罰を覚悟するんだな」


 よく口の回る鉱矮人ドワーフだ。

 しかし、これだけ脅した所で、パオが言った通り無罪放免にされるのだろう。

 ハッキリ言って、やってられない。

 ここに住んでいた村人も全員が屍喰鬼の餌になっているのだ。

 村を壊滅させたのに、その本人達は何の罰も受けずにのうのうと家に帰れる。

 許せる筈がなかった。

 しかし、今の俺にはどうする事も出来ない。


「とにかく、この2名はコフィーヌと数名で連行します。現場の調査は私と他の者が引き継ぎますので、ガル殿やエルウィン殿は街へお戻りください。ギルドからは報酬が出ますのでお受け取りを忘れずに」

「うむ、後は頼むぞ、サリィン」


 報酬と聞いて満足気にサリィンの肩を叩くグロー。

 皆、これで一件落着だと思っている。

 そうではない。

 これは始まりに過ぎないのだ。

 とりあえず、一度街へ戻り、ギルドのベルベットに相談しなければならない。

 それだけでなく、フィロー商会のピュートにも頼みたい事が出来た。

 やるべき事は多いが、出来る事は少ない。

 それでも何とかしなければ、最悪の場合、大きな内戦にまで発展する可能性もある。


「ガル?」


 エルウィンが話し掛けて来た。

 気が付けばスゥも足元で俺の服を掴み、見上げている。


「何を考えてるの……?」

「いや……」

「ガルゥ……、ガルもヤな予感がするんでしょ?」


 スゥは感覚が鋭いのだろう、本能的に危険を察知している。


「ガル、今の貴方の目は、死を覚悟した亡者の目よ。何を考えてるかは知らないけど、考え直して」

「……、街へ帰ったら話す」


 俺は決断を迫られていた。



 私は西都へ向かっていた。

 ファン様の元へ急がねばならない。

 フェイ様のご協力が得られたのだ、黄様もお慶びになる筈だ。

 正直、これから起きるであろう九龍会の抗争では、黄様はかなり不利だ。

 元老会メンバーのラン様がお味方されると伺ったが、それでもまだ弱い。

 元老会のお歴々全員がこちら側についたとしても、勝ち目があるか分からない状態だ。

 何より、軍とのパイプをあちらが持っているのが問題。

 軍からの取締りしめあげが激しくなれば、戦力差は広がる一方になる。

 蒼狼ツァンランはまだそこまではやらない様だが、吠様が協力してくださると言う事が知れれば動き出す可能性もある。

 絶対に情報は漏らしてはならない。

 伝えるのは黄様にのみ。

 他は全て敵と思った方が得策だろう。


「出来れが、戻ってきて頂きたい……」


 思わず口から出てしまった。

 吠様が戻れば、今は蒼狼に従っている者の中からもこちらへ寝返る者が椅子筈だ。

 しかも、その数は恐らく多い。

 元々、先代は吠様に継がせるつもりだったのだ。

 それを無理矢理、蒼狼が奪った。

 許される事ではない。

 吠様はその際に亡くなった事になっているが、生きていると言う事実を知っているのは私と黄様だけだ。

 先代が直々に指名した正当な後継者である吠様がお戻りになれば、全ては丸く収まるのではないだろうか……。

 いや、だとしても蒼狼は抵抗するだろう。

 どちらにしろ、九龍会は内部抗争で弱体化する。

 しかし、ここで流れを正さねば、九龍会はおろか、現在均衡を保っている裏社会が荒れる。

 魔王軍との戦争が終わり、やっと豊かな生活へ向かい始めた王国が内側から崩壊しかねない。

 新たな魔王がもうすぐ決まると言う噂もあると、吠様が仰っていた。

 王国が平和になるのはまだまだ先なのかもしれない……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る