第6話 戦う定め

 屍喰鬼グールとの戦闘で最も警戒するべきはだ。

 身体能力が高く、俊敏で跳躍力もあるが、そこは狗鬼コボルドと差して変わらない。

 屍喰鬼の顎の力は非常に強く、噛まれれば人の腕くらいなら板金鎧プレートアーマーの上からでも簡単に折られる。

 爪も同等に強力で、木製の盾なら貫通されるだろう。

 まぁ、鋼鉄製の盾が比較的安価に手に入る今の時代に、木製の盾を使う冒険者もいないとは思うが……。


「全体の規模が分からん!とにかく凌げ!」

「ある程度倒せば相手も一旦退くだろうの」


 俺とグローは比較的余裕があった。

 カタナで首を刎ねながら、それよりも接近された場合に肘で顎を砕く。

 胴体に肘を入れ、内蔵を破裂させた所で、屍喰鬼の動きは止まらないのだ。

 であるならば、噛まれる危険リスクを減らす方が得策だ。

 爪に関しては腕を斬り落とせば問題にはならない。


「ホレ!」


 グローは片方のアクスで屍喰鬼の足を斬り、倒れた所でもう片方の斧で首を叩き斬っていた。

 身体が小さい分、足元を狙いやすく、器用に首を刎ね続けている。

 問題は俺やグローではなく、スゥだろう。

 俊敏性においてはスゥの方が圧倒的に上だろうが、屍喰鬼の首を断つだけの腕力がない。

 それに、持久力スタミナも心配だ。

 先頭の前に強壮薬スタミナポーションを飲ませているが、その効果の持続も無限ではない。

 いつもなら笑いながら小剣ナイフを振るっている筈だが、流石に今回はそうもいかないらしい。

 顔からは笑顔が消え、とにかく必死に動いている。


「スゥ!無理はするなよ!手足の腱を斬るだけで良い!」


 スゥからは返事がない。

 横目で見ると、スゥの近くには生きたまま動けなくなった屍喰鬼が溢れかえっている。

 このままではスゥの動ける場所が限られていく。

 着地した足を噛まれれば終わりだ。

 しかし、正面を受け止めている俺やグローに、スゥを援護カバーする余裕もない。


「矢も無限じゃないのよね」


 エルウィンはそう言って木の上から飛び降りる。


「エルウィン!」

「こっちはスゥと私に任せて!矢が無くなった分、ガル達のお客さんは増えるわよ!」

「ハハハ!望む所だわい!」


 エルウィンは双短剣ツインショートソードを抜き、スゥが倒した屍喰鬼の首を斬り落とし始めた。


「大丈夫か!?」

「古代耳長人エルフを舐めないで!器用さはズバ抜けてるんだから!」


 スパスパと気持ちいいくらい軽快に屍喰鬼の首を一太刀で狩っていくエルウィン。

 また自分で古代って言っちゃったぁなどとぼやきながら、屍喰鬼を処理していく。

 まだ余裕がある様だ。

 キチンと、首の骨と骨の間に剣を通して断頭している。

 近接戦闘インファイトも出来ると言っていたのは本当らしい。


「スゥ!持久力は温存しなら戦え!疲れたらエルウィンに全部任せろ!」

「ちょっとガル!流石に1人じゃ捌ききれないわよ!」

「近接戦闘も得意じゃなかったのかの?」

「こんのクソ鉱矮人ドワーフ!」

「アハハハ!」


 スゥが笑った。

 エルウィンのお陰で余裕が出てきたのだろう。

 すると、屍喰鬼達は一度退いていった。

 とりあえずは一区切りか。

 俺はカタナの血を振るい、屍喰鬼の着ている服で刀身に残った血脂を拭う。


「久々に暴れたのぉ!」


 グローはキャッキャと喜んでいる。

 コイツは全く……。


「スゥ、大丈夫か?」


 俺は強壮薬をスゥに手渡しながら聞いた。


「うん、大丈夫!」

「無理はするなよ?小剣の手入れをして休んでろ。しばらく屍喰鬼は来ないだろう」


 そう言って、周りを見渡す。

 ざっと数えて50くらいは倒しているだろう。

 4人で50は中々の効率だ。

 トラップなどが使えれば殲滅も出来たかもしれないが、事態が事態だ。

 こちらも一度退いた方がいい。

 ギルドへ報告して、軍を出してもらった方がいいかもしれない。


「しかし、何故に屍喰鬼がこんなにもおるんだ?」


 グローの疑問は最もだ。

 屍喰鬼は矮鬼ゴブリンや狗鬼の様に、繁殖力が高い訳ではないし、普段は人の中に紛れる為、群の様な集団で行動する事もない。

 これはどう考えても異常事態だ。


「『もうすぐ次の魔王様が決まる』……」


 エルウィンが何時ぞやの幼い魔術師ストライゴンの言葉を呟いた。


「戦力増強……、か……」


 魔王が倒されて、まだ1年も経っていない。

 こんなにも早く次代の魔王が出てくるのだろうか……?

 何とも納得がいかない。



 我が血統は王国の真なる王家に繋がる。

 俺がまだ年端もいかない幼子だった頃から、聞かされ続けた言葉だ。

 しかし、どんなに王家の血筋だろうと、国王になる事はない。

 俺の家系は貴族でもなければ騎士でもない。

 ただ他よりも少しだけ金を持っていただけ。

 それを元にして、親父は裏の社会を牛耳る事を考えた。

 正当な王ではなく、闇の王になろうとしたのだ。

 その考えは当たった。

 王国の西方をほぼ手中に収めてしまった。

 武具の横流しから、違法薬物の生産・製造・売買に人身売買。

 魔王軍との戦争の末期、それらの需要は恐ろしく高かったのだ。

 小さな町のヤクザから始まった親父の組織は、瞬く間に他のヤクザの縄張りシマを切り取り、吸収し、西都を中心とした巨大な組織へと成長した。

 それはもう、1つの国の様になった。

 最初期から仲間だった8人の幹部に縄張りを与え、競わせ、莫大な金を創り出したのだ。

 未だに組織の力は衰える事を知らない。

 俺の名は蒼狼ツァンラン

 真なる王家の血を受け継ぎ、初代九龍会クーロンカイ会長の実子。

 そして、第3代九龍会会長である。

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