第2話 ハーフリングは商売上手らしいな

 護衛依頼を出していたのは圃矮人ハーフリングの商会だった。

 圃矮人とは小柄な種族で、すばしっこくて手先が器用。

 その見た目から、可愛らしいイメージを持たれやすいが、案外サバサバした性格で、損得勘定で物事を決める者が多い。

 その為か、商人としての適性が高く、現在の商人ギルドの長も圃矮人だ。

 今回の依頼は、西方の街に武器や防具などの装備品を届け、帰りは薬草や香辛料を積んで帰って来ると言うものだ。

 目的地である西方の街は、荷馬車の速度だと丸3日掛かる道のり。

 トロルが目撃されたのは、その街から4時間ほど歩いた先の山の裾野らしい。

 薬効のある草花やキノコが群生している場所らしく、薬草などを特産としている街にとっては死活問題だそうだ。

 だったらもう少し高い報酬で依頼を出せよとも思う所である。


「頼もう!」


 グローが商会の扉を勢いよく開け、大声を出す。

 道場破りか、お前は。


「……」


 誰からも返事がない。

 誰もいないわけではない。

 というか、中は事務所の様で、30人近くの圃矮人達が書類を書いたり、右へ左へとせわしなく動き回っている。

 つまり、俺達はシカトされているのだ。

 入った瞬間、部屋の中にいた圃矮人達の視線が集まった。

 しかし、誰一人として俺達を気にとめる事なく、自分たちの仕事に戻った。

 客ではないと判断したのだろう。


「シカトされてんぞ、グロー」

「うむ……、ギルドの受付と一緒の来た方が良かったのかの?」

「多分な。不審者が入ってきたとしか思われてないぞ、確実に」

「うむ……、受付の言う通りだったわい」

「どういう事だ?」

「いやの、付き添いで付いてくると言っておったのだ。まぁ、断ったのだが」

「お前はなんでそう逆に手間のかかる方向へ持っていくんだよ……」


 俺は溜息を吐く。


「グロー、依頼書持ってるか?」

「これか?」

「借りるぞ」


 ギルドから渡された依頼書をグローから受け取る。


「輸送の護衛依頼で来た!担当は誰だ!」


 俺が声を上げると、再び圃矮人達の視線が集まると同時に、全員が顔色を変えて俺達の前に集まって来た。


「冒険者様でしたか!」

「これはこれは、わざわざご足労頂いてありがとうございます!」

「ささ、こちらへどうぞ!」


 笑顔の圃矮人達は俺達を応接室へ通した。

 何という手のひら返し。

 ここまで来ると清々しいくらいだ。


「何じゃ、コイツら」


 グローは圃矮人達のその様子に呆れていた。


「クライアントだと分かると態度を一変させるんだな。まぁ、こんな奴らだから商売が出来るんだよ」

「現金な種族だの……」

「我々圃矮人は戦闘には不向きな種族ですからね。盗賊シーフ義賊ローグとして冒険者になる者もいますが、そのような才に恵まれるのはほんのごく一部。肉体労働に向く身体でもありませんので、必然的に商人や職人が多くなります」


 先陣を切って俺達を応接室へ案内した圃矮人が笑顔のまま言う。

 確かに、ギルドに出入りしている圃矮人の数自体が少ない。

 身長は鉱矮人ドワーフとあまり変わりないが、華奢な体付きだ。

 戦闘において、フィジカルの不利というのは致命的なのだ。


「誰も戦えとは言っておらん。その手のひら返しがどうにかならんのかと言っておるのだ」


 グローは真面目な奴だ。

 相手によって態度を変えるような奴を嫌う。

 誰に対しても不真面目で怠惰な俺は、ある意味裏表がないと言える。

 グローが俺とつるむのはそんな理由からだ。


「しかし、ギルドには『ギルドの担当者と一緒にこの事務所に来て欲しい』と伝えていた筈。冒険者様お2人で直接来て頂くのは一種の契約違反ではありませんか?」


 ニコニコと笑いながら、スラスラと喋る。

 顔は笑っているが、内心は結構イラついているのだろう。

 文句を言ったグローがギルドの付き添いを断ったのだ。

 グローは押し黙るしかなった。

 うん、コイツらは立派な商売人だ。

 下手に盾突かない方がいい。


「確かにそうだな、申し訳ない」


 グローの代わりに俺が謝る。


「いえいえ、こちらこそ察しが悪く、申し訳ありませんでした。私、フィロー商会のピュートといいます。今後ともご贔屓に」


 笑顔でピュートが握手を求めてくる。


「俺はガル、コイツはグローだ。今回の護衛を担当する。よろしく頼む」

「ご丁寧にありがとうございます。早速ですが、輸送の日程をこちらにまとめております」


 俺達との握手を済ませたピュートが、往復の日程の書かれた書類を渡してきた。

 荷馬車で3日を掛けて街へ向かい、2日休んだ後、また3日掛けて戻って来るというものだ。


「2日も休んでいいのか」

「ええ、折角の遠出ですので、でしょうから」


 ニッコリと笑うピュートを見て、あーなるほどと俺は納得した。


「なんじゃ、余裕のある日程だの。安心したわ」

「では、出発は明日の朝です。日の出と共に出発しますので、それまでにこの事務所の前にご集合ください」

「承知した、よろしく頼むぞい」


 簡単な打ち合わせだけ行い、俺達はフィロー商会を後にした。

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