第42話航海と倭国



ミューロン国を出て1日。


一行は無事にダルージャへと到着した。



「ダルージャ、久しぶりだな」



「センはあれか、問題を起こしてから来てはいないのだったな」



「おい、問題とかそういうレベルじゃないし、寧ろ起こしたのは俺じゃないぞ?」



「はははっ、確かに起こしたのはそうだな。

まあ、何年も前の事だからある程度は変わってるだろう」



フィリアと侍女のセーラは港へ赴き、船の手配をしている。


その間、ミコトと俺は馬車の荷台から荷物を船へと運び込んでいる所だ。



ダルージャ国。


海が一望出来る街で、碇泊している船からは魚などが引き上げられている。


漁業を生業にする者が多く、皆日に焼けた褐色でまさに海の男達がいそいそと働いている。


街側は砂漠の様な砂の地面で所々に木が生えている。


住居などはレンガで造られ、女性達はまるで踊り子の様な格好をしている。



「この街も王が居なかったとはいえ、活気があるのだな!」



ミコトは感心した様な表情を浮かべながら、これも鍛錬だと言わんばかりに大量の荷物を運びこんでいる。


すると、遠くの方から〝ピューン〟と笛が鳴る様な音が響いた。



「海賊だぁぁ! 女子供は建物へ逃げろ! 男共は武器を持てぇ!!」



〝ドーン〟っと大砲の弾が港近くの砂浜に着弾。



飛んで来たであろう方向を見ると、遠くの方にドクロの旗を掲げた船が見える。



「海賊か、初めて見たな」



「そうだな。 というか、呑気にそんな事言ってていいのか?

流石に鎮めないと出航出来ない気がするのだが」



「そういえばそうだな……」



いきなり戦闘か。


まあ、旅には付きものなのかもしれないが、とりあえずフィリアに指示を仰ぐか。


と思ったのだが――



「あれ、フィリアは?」



「あっ、お嬢様ならあそこです」



先程までフィリアが立っていた場所へ向かうと、そこにはセーラ一人しかおらず、そのセーラの言葉で海の方を見ると……



「うわっ、アイツ一人で行きやがった……」



小さな小舟に乗ったフィリアが真っ直ぐに海賊船へと向かっていた。



「ってか侍女なら護衛の俺等に一言伝えてから行かせろよな。

まあいいけど」



「いやぁ~、お嬢様の行動が早すぎてもう」



まるで悪びれる素振りもなく言い放つセーラ。


正直、侍女としてどうかと思うぞ。



「とりあえず待つか」



気付けば海賊船は近くまで来ていた。


そして、フィリアは小舟から海賊船へと飛び移り、船首に立っている。


日傘を差しながらのその姿は美しく、さながらピンチに現れた王子様のようでもあった。



「うぉ! 何かすっげぇ美女がいるぞお頭!!」



「ガハハ! いいじゃねえか! 食料確保しに来たんだが、こんな女陸に居ても抱けんぞ!」



「「「うひょ~!!」」」



海賊達はフィリアの姿を見て興奮が収まらない様だ。


それに対してフィリアは「はぁ~、男って皆こんなものよね……」と呆れた様子で見ている。



「ちょっと良いかしら?」



「ああ? 何だお嬢さん」



「わたくし達はこれから倭国へ向かいますの。

こうして襲われると出航出来ないので、退いて頂けます?」



「そうか! そりゃあ残念だったな! やれ!」



〝ズドォン!〟



船から大砲が発射されると、真っ直ぐにフィリア達が乗るはずだった観光船に直撃。



「これで俺達が退いても出航出来ねぇな! ギャァハッハッハ!」



「下衆ね」



「なんなら乗せてってやってもいいぜ?

その代わり、その身体で料金支払って貰うけどなぁ!!」



船長を筆頭に他の海賊達も剣を抜いて一気にフィリアへ襲い掛かる。



「殺すんじゃねぇぞ! こりゃあ稀に見ぬ上玉だ!」



「ひゃー! 楽しみだぜぇ!! おらぁ!」



キン!



下っ端海賊の剣とフィリアの持つ日傘が交差する。



「何だ? 傘でやろうってのか!?」



「残念ですがその通りですわね」



フィリアが傘を閉じ、そのまま鋭い突きを放つ。


すると、それに対応出来ないのか下っ端の肩に容易く突き刺さった。



「ぎゃぁぁぁ」



「あら、我慢が足りないですわね?」



更にフィリアが傘の先端をグリグリ回す。



「がぁぁぁあああ! いでえぇぇぇぇ」



痛みで涙を流しながらも泣き叫ぶ下っ端を見て、周囲の海賊達が少し引いた様な表情を浮かべていた。



「おい、アイツやべぇぞ……」



「おいてめぇら! あんなんで怯んでんじゃねぇ!!」



頭の一言で我に返ったのか焦ったのか、雪崩れ込む様に次々と海賊達はフィリアへ剣を振るっていく。


しかし――



キン!



キン!



キン!



「はっ!!」



〝ズドォォン!〟



「ぐわぁぁ」


「ぎゃぁぁ」


「がはっ」



この船に乗ってる者がフィリアに勝てる訳もなく、次々と斬られ、突かれ、倒れていく。


そして、いつの間にか海賊船が港のすぐ側まで来ていた。



「フィリ、お前なぁ」



「おお、流石フィリア! 無事で何よりだ」



「あらセン、ミコト様も来てくれるなんて」



呆けた事を言うフィリアに対して俺の指が火を吹いた。



〝バシ〟



「いったぃ!!」



所謂デコピンは見事にフィリアの額を撃ち抜き、頭部が少し後方へと飛ばされる。



「痛いじゃない! 王女の顔になんて事するのよ!」



「痛いに決まってるだろ、そう打ったんだから。

お前護衛を雇った意味を考えろよな。

別にお前が負けるとか死ぬとか思ってないけど護衛として雇ったなら勝手に行動するな」



「うっ、センに正論を言われた気がするわ……ごめんなさい」



そう、雇ったんだから勝手に行動されるとこっちは大変だ。


だから身勝手な行動は控える。


そして、戦闘は基本護衛の仕事だと伝えると、ちょっと涙目になりながら謝罪して来た。



「で、とりあえず船長みてぇなヤツ残ってるけど」



「他の者も死んではいないようだぞ」



「さすがに殺しはしないわ。 で、船長さん?」



「ひっ、わ、悪かった! だから命だけは!」



「だから殺さないって今言ったわよわたくし。

船無いの。 乗せてってくれるわよね?」



「へっ……?」



「あなたが言ったんでしょう?

身体では支払わないけど、あなた方に観光船壊されたもの。

だからあなた達が倭まで連れてってちょうだいね?

責任として。 良いかしら?」



「はっ、はい! よ、喜んで!!」



フィリアの威圧が込められた言葉に船長は直ぐに承諾した。


そして観光船から部下達を使って荷物を運び変えると、国旗をドクロではない普通のものにしてダルージャを後にしたのであった。


その夜――



ザァー、ザァーっと波の音が鳴り響いている。


既に辺りは暗く、船がゆっくり揺れながら進んでいた。



「あらセン、こんな所に居たの?」



「ああ、ちょっとな」



甲板で海を眺めていると中からフィリアが出て来た。



「ミコトは?」



「何か海賊達と仲良くなったのか、一緒にお酒を飲んでるわよ」



「そうか。 まあ何にせよ出航出来たのは良かったな」



「倭の事、何か考えてる?」



フィリアはセンの横に立ち、訪ねる。



「過去の事はまああれだし、それでも誘ってしまったのはわたくしだから少しは罪悪感抱いてるのよ?」



「なら抱かなくてもいいぞ?

別に何も考えてないし、何も思ってない。

寧ろ、実家があるって言っても最早他人だからな。


ただ、5歳の頃にダルージャへ向かう時も逆方向だがこういう場面だったなって」



船から海を眺める。


ダルージャへ向かっている時と、今ダルージャから倭へ向かっている時、進行方向は逆でもシチュエーションは同じ。


だから、ちょっと昔の事を思い出してしまった。



「でも、昔は一人だったとしても、今は違うわ。

私も、ミコト様も、ライナやセリアさん、ミラーナ様、ジュベル様も居るもの。

それってセンが辛い出来事を乗り越えた先の結果でしょう?」



「確かにそうだな。 ってお前に慰められるとは」



「ふふっ、わたくしもセンには感謝してるんだから」



「そうかい。 じゃあ戻るか」



「ええ。 で、今日はどうするの? わたくしはいつでも大丈夫ですけれど?」



「お前、貞操概念もう少し固めろ」



王女がそんな事を簡単に言うもんじゃない!


寧ろ、男ならそう言われたい生き物だが、実際に言われるとそれはそれで色々考えてしまうんだよ。



「センに対してだけよ。 初めてを捧げた人なんだから今更でしょ」



「まあ、お前のそういう所嫌いじゃないけどな」



「ふふっ、嬉しいわ。

じゃあ行きましょう」






こうして出航した一日目は思い出に浸りながらも、夜はフィリアとの熱く溶ける様な時間を過ごしたのであった――














「ようやくか……」



ダルージャを出港して二日後、一行はようやく倭国の港町に到着した。



倭国には三つの大きな街とその他村などがある。


現在居るのは、華蛇かじゃ

港町で貿易や漁業が盛んな街だ。



京帝けいてい

トーシュウ大陸(東州大陸)やまとの一番大きな街で、大将軍である帝家の住まいがある。


また、その周辺にミコトの実家やセンの実家など、帝に仕える武家の家が並んでいる。


 

緑麻えんま

大陸の南側にある街で、緑に囲まれた長閑な場所。


温泉が有名で武士や将軍家も時おり羽を休める為に訪れる。



「はぁ……身体が痛い」



この三日、一人で寝る事が無かった。


初日はフィリアと、翌日はそれに嫉妬したミコト、三日目は何もしていないが何故か平和条約として三人でとなってしまったのだ。


勿論、嫌ではないし包まれる優しさは最高峰なのだが、やはり一人の時間と言うのは大事。



「「「またのご利用をおまちしてます!」」」



何故か海賊達は心を入れ替えたのか、観光船の船員の様な態度で四人を見送っている。



「さて、お嬢様! 馬車の手配をしてまいりますので少々お待ちになって下さい」



「分かったわ」



「なら私も行こう! 道案内も出来るしな」



「ミコトさん、お願いします」



ミコトとセーラがその場を後にしてフィリアと俺は港に残される。



「久しぶりに来たけど、ずいぶん変わったわね」



「フィリも久しぶりなのか。 俺は十年以上ぶりだし、そもそもどこに何があるとか知らんが」



港から街の様子を見渡すと、屋根瓦の家が沢山並び、遠くの方には大きな天守が見える。



「昔来た時も思ったけど、大陸が変わると建物の造りとか人の雰囲気も全く違うわよね」



「文化がそもそも違うからな。

とりあえず、この後はどうするんだ?」



「交渉は基本大将軍へ直接みたい。

まあ、本来は違うのだけれど、今は天次狼様を育てる意味も込めてもあるみたいね」



「なるほど。 じゃあ、あの見えてる天守の所に行くのか」



「そうなるわね」



そんな事を話していると、ミコトとセーラが戻って来た。


どうやら馬車の手配が出来たらしい。



「ここから城までは1時間程だ。

とりあえず街の外に用意されるとの事だから少し歩きながら向かおうか」



ミコトの案内で港を後にし、街をぶらぶらする。


ここに居る者達は皆着物を着ている為、普段から着物のミコトは問題ないにしても、俺やセーラ、そして何より真っ赤なドレスのフィリアはかなり目立っていた。



「琴姉ぇ~! 琴姉ぇぇぇ!!」



街を歩いていると、正面からバタバタと駆け足で近づいてくる少年が居る。


15~6だろうか。



「琴姉! 見つけた! 戻って来たって聞いたから!!」



「おお、春飛虎はるひこか! 久しぶりだな! 大きくなって」



ミコトの知り合いらしいその少年。


黒髪にキリっとした顔立ちなのだが、どこか頼りなさそうな表情が垣間見える。


「わっぷ!?」



「何だ、私に会いたかったのかぁ~! この可愛い奴め!」



ミコトは少年の顔を自分の自慢の胸に埋めて全力で抱きしめていた。


すると、少年の顔が一気に赤くなり、だが次第に青ざめていくのが分かる。



「ミコト様、そろそろ離して差し上げませんと折角の再会が悪夢に変わりますわよ?」



「あっ、おお! すまなかった! ついな!」



「はぁ、はぁ、死ぬかと思ったぁ……」



「で、そいつは誰なんだ?」



「春飛虎か! 私の弟だ!」



「「弟っ!?」」



「あっ、自己紹介が遅れました!

柳家次男、 柳 春飛虎と申します!」



「センだ」



「クランベリア大陸、ミューロン国第二王女、フィリア・ノール・ミューロンですわ」



「フィリア様の専属侍女、セーラと申します」



「お、王女様!? こ、これは失礼致しました!」



まあ、普通目の前にどこぞの国の王族が現れれば慌てるよな。



「春! 大丈夫だから安心していいぞ。

私とセンはフィリアの護衛で来ているのだ」



「琴姉、銀級になったのだよね!? じゃあセンさんも銀級?」



「いや、俺は赤だ。 まあ階級なんて関係ないだけどな」



「でも赤級で王女様の護衛って事は腕は確かなんですね!

良かったです!」



「ん? 何が良かったんだ?」



「だって琴姉が弱い人と一緒に居るなんて信じられないですから!

琴姉は強いんです! 僕の誇り何です!」



物凄い自信を持って言い放った。



「ミコト、お前愛されてるな」



「まあ、昔から春はこうだからな。

春、後で実家に行くからと伝えてくれるか?」



「分かった! 楽しみに待ってるよ!

では、僕はこれで失礼します」



春飛虎がペコっと挨拶をして走り去っていく。



「姉弟っていいものですわよね。 私もお姉様とあんな感じなら良かったのですが」



いや、フィリアとクラリア……毎回激しい喧嘩だったらしいからな。


そう考えると、確かにミコトと春飛虎の様な関係なら良かったのかもしれない。



「では行こうか!」



ミコトが先頭を歩き、数十分。


入り口の外には馬車が準備されていた。



「あんたがフィリアさんか、御者の重兵衛じゅうべえだ。

こっちは準備出来てるからいつでも言ってくれ!」



荷物を運び、準備が出来るとヒヒ~ンと馬が歩き出し、街道を進んで行く。


周囲には森があったり、川があったり、街を出れば意外と他の大陸と大差ないかもしれない。


こうして進んでいった1時間後――


遂に天守がある京帝けいていへと到着したのだった。

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