第4話

 


「ぐっ・・・。可愛いなぁ。ここから動きたくない。」


ボーニャを抱っこした冒険者のリーダーの男がポツリと呟いた。


それに反応するように、クーニャとマーニャを抱っこした冒険者がこくりと頷く。


「ああ。可愛い。この猫様、気持ちいいのか俺に身体を預けてくるんだ。それに、このふわっふわな手触り。とろっとろのふにゃふにゃの身体。さいこーだ。」


「ほんとうに。可愛いわ。このまま連れて帰りたいくらい。それにしてもこの猫様。ほんとーに毛艶がいいわねぇ。すべすべしていて、ずっと撫でていたいわ。」


猫様を抱っこした三人は一様にして、とろけた顔をしている。


そして、猫様を抱っこできなかった一人は憮然とした表情で3人を見つめていた。


「・・・俺も猫様もふりたいんだけど。リーダーそのキジシロの猫様を俺に触らしてください。」


「にゃ?」


「断固拒否するっ!!」


意を決してリーダーの男にお願いをしてみたが、すげなく断られてしまった。


「ロージェット、その黒い猫様を触らせてくれないか?」


リーダーに拒否された男は、今度はパーティメンバー唯一の女性、ロージェットに声をかける。


「嫌よ。だって、とっても毛並みがいいんだもの。ずっとずっと触っていたいわ。」


ロージェットと呼ばれた女性も男の要望を拒否し、抱きかかえているクーニャの頭を優しく撫で上げた。


「じゃあ、パーセリー。猫様を俺にも触らせてくれっ!」


もう一人の冒険者に声をかける。


「嫌だ。このもふもふを手放すなんてできるはずがない。無理だ。諦めろ。デートリッヒ。」


「にゃぁああああああ!!!!!俺ももふりてぇええええええええ!!!!!」」


パーセリーと呼ばれた冒険者にも断られ、デートリッヒという冒険者は無意味な叫び声をあげた。


しかも、猫様に触りたいという欲求が高いためか、猫の鳴き声に近い叫び声をあげている。


「にゃ?」


「にゃあ?」


「ふにゃ?」


デートリッヒの大きな叫び声に、マーニャたちはビクッと身体を震わせた。


そうして、一様に大きく目を見開き声をあげたデートリッヒを見つめる。


「だぁあああああああ!!!猫様たちが俺を見てるぅううううう!!猫様たちの視線を独り占めできるだなんて、なぁんて俺は幸せなぁんだぁああああ!!!もふれなくてもいいっ!猫様の視界に入れてもらえただけでも至福なのだぁあああああ!!」


どうやら、デートリッヒはマーニャたちに見つめられて幸せの絶頂にいるようだ。


雄たけびを上げて、涙を流しながらデートリッヒは喜んでいる。


その様子を見て彼の仲間は呆れたような視線をデートリッヒに向けていた。


「にゃーにゃにゃにゃー!!(騒いでないで早くダンジョンに行くのー。)」


いっこうに動き出しそうにない冒険者たちに痺れを切らしてマーニャが鳴き叫びながら暴れだす。


「おっと。猫様動いたら落としてしまうよ・・・。暴れないでくれ。」


「にゃーーー!!にゃ!(早く行くのー。ダンジョン行くのー。)」


「わかったよ。しょうがないなぁ。ほら、おろしてやるよ。」


「にゃー。(違うのー。)」


リーダーは暴れるマーニャを地面にそっとおろした。


どうやら、抱っこが嫌だと思われたらしい。


マーニャは意思疎通ができなかったことにがっくしとうなだれる。


「にゃー。(ダンジョン行くのー。)」


だが、マーニャは諦めなかった。


連れて行ってくれないのならば、自らの足で歩くまでとずんずんと山を登っていく。


それを慌てて追う冒険者たち。


「ま、待ってくれ。猫様。この黒猫様たちを置いていくのかい?」


「にゃーにゃにゃにゃー。(ついてくるのー。ダンジョン行くのー。)」


尻尾を大きく振り回しながらマーニャは答えた。


それが伝わったのかどうかわからないが、デートリッヒがひょいっとマーニャを抱き上げた。


「にゃ?」


驚いてデートリッヒを見上げるマーニャ。


「か、可愛い。もふもふ。想像以上のモフモフ感。なにこれ、たまんねー。」


いや、まったく伝わっていなかったようだ。


デートリッヒはただリーダーが手放した今ならマーニャを抱き上げるチャンスだと抱き上げてマーニャのもふもふを堪能したいだけだった。


「にゃー。(ダンジョン・・・。)」


クテッと顔を俯かせるマーニャにびっくりしたのはデートリッヒだった。


慌てながらマーニャの頭をそっと撫でる。


「猫様。どうしたんだ。ああ、俺が触ったからか。俺が抱き上げたからか。嫌だったのか。そうなのか。いや、でもおろしたくない。おろしたくないんだよ。猫様。猫さまぁあああああああっ!!!」


「にゃあ・・・。(うるさい。耳元で叫ばないでほしいの。)」


気落ちしているところに、耳元で叫ばれてマーニャの元気はさらにしぼんだ。


「にゃーにゃ!!(マーニャ!!)」


「にゃーにゃ!!(マーニャ!!)」


そんなマーニャの姿をみて、クーニャとボーニャがマーニャの側に駆け寄ろうともがきだす。


「おぉっと。お前もおりたいのか。・・・名残惜しいが。」


「あら。あなたもおりたいのね。・・・また、触らせてね。」


そう言って、ロージェットとパーセリーがクーニャとボーニャを地面にそっとおろした。


その瞬間、クーニャとボーニャがマーニャの元に駆け寄る。


そうして、デートリッヒの左右の足に抱き着き、マーニャの元へとデートリッヒの足を爪を立てながらよじ登る。


「いてっ!!いてっ!!」


するどい猫様の爪は容赦なくデートリッヒの足を突き刺した。


それでも、デートリッヒはマーニャを落とさないように我慢をして、なんとかゆっくりとマーニャを地面におろした。


すると、クーニャもボーニャもデートリッヒに登るのをあきらめてマーニャに駆け付ける。


そうして、マーニャの左頬をクーニャが、右頬をボーニャがペロペロと舐め始めた。


その様子はまるで二匹がマーニャを慰めているようにも見えた。


「はあ。猫様、尊い。」


「・・・ぐすっ。痛かったけど、猫様可愛い。」


「この瞬間を永久保存したいっ。」


「目に焼き付けておかないと・・・。」


4人の冒険者たちは慰め合う猫様を見て、その尊さに思わず唇を噛み締めた。


「にゃーにゃにゃにゃ。(この人たちあてにならないから、あたしたちだけでダンジョン行くのー。)」


「にゃー。(そうだねー。ちょっと歩くの大変だけどいつまでもここにいたら日が暮れちゃうもんね。)」


「にゃああん。(早く行こー。)」


マーニャたちは冒険者たちをしり目にさっさと山にあるというダンジョンに向かうことにしたのだった。


 


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